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88.危険な走行

※敵を倒すシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

 不死鳥の雛の尊い犠牲により次の扉が開いたので、またカイト先導のもと通路を進んでいく。

しばらく進むと3つ目の試練部屋の扉が見えてきた。再びカイトが慎重に扉を開けるとそこには炭鉱のような空間が広がっていた。


「何だか嫌な予感がするんだけど」


 私たちの前には映画に出てくるような木造トロッコ1台と線路が置いてあった。


「これに乗れということだろうな」

「エピピレオン―浮遊せよ―」


 トロッコを浮かせて飛べないかやってみたが、神殿内のせいか規制がかけられていてできなかった。乗るしか選択肢がないようだ。


「念のために訊くけど、カイトはトロッコに乗ったことある?」

「ない。アリサは?」

「実物を見たのも初めてよ」


 2人でトロッコを仰視する。


「前ブレーキか。多分力がいるだろうから、押したら俺が前に乗る。アリサは後ろに乗って」

「分かった。それで脱線しないように身体を傾ければ良いのね」

「だろうな」


 私は覚悟を決めて乗りこんだ。カイトが前に行きやすいように片側に寄る。


「行くぞ、しっかり掴まって」


 カイトがトロッコを押して助走をつけた。線路は降下しているのでトロッコは段々独りでに動き始める。カイトが乗り込んで前に座ると本格的に動き出した。

 アトラクションとは全く違う、危険な走行が始まった。


「右傾けて!次、左!」


 おんぼろのトロッコにはサスペンションなどという上等なものはついていないので、乗り心地は最悪だった。ガラガラ危なっかしく走行するタイヤの衝撃が直に身体を揺らす。舌を噛みそうだった。キィ!というけたたましく不穏な音も時折聞こえ、それが狭い洞窟内にこだまする。急カーブではカイトがブレーキを制御して何とか脱輪を防いでいるようだった。


(散々箒に乗っておいて今更言えないけれど、この内臓がフワッとする感覚大嫌いなのよ!)


 実は絶叫マシンは苦手なタイプである。箒なら多少我慢できるのは自分で操作したり制御したりして、意識がそちらに集中しているからだと思う。運転したら車酔いしなくなるあれと似たような感じではなかろうか。

 最初は狭い炭鉱の洞窟の中を走行しているだけだったが、やがて複数のトロッコの線路がある広けた場所に出ると、プテラノドンのような鳥型の魔物もどきが襲って来た。


(シューティングゲームじゃないんだから!)


「ハリキペトラ!―石の礫―」


 私はマシンガンのように次々と射出して敵を撃ち落としていく。


「レピダアネモス―風の刃―」


 カイトが前方に向けて魔法を放っていた。障害物でもあったのか木の破片が多く飛び散ってきた。カイトは片腕を上げて顔を覆っている。単純に考えて後方にいる私なんかよりも前にいるカイトの方がこういった飛来物の被害を受けることになるのだ。


「アミナフォトス!―光の防御―」


 今更だったが防御魔法をかけておくに越したことはないだろう。

 トロッコはまた狭い炭鉱洞窟内に入っていったがここにも魔物もどきが出るようになっていた。


「レピダアネモス―風の刃―」

「エピピレオン―浮遊せよ―」


 カイトが前方の敵を刻み、私が物体となった魔物もどきの肉塊を浮かばせる。ゲームでは死体は消えるがここはそうじゃない。大きな肉塊が線路を塞いでしまうと、この勢いのトロッコはあっという間に脱線してしまうだろう。

 私たちはトロッコを左右に傾けながらも次々と襲いかかって来る敵を処理していった。狭い洞窟内では逃げ場も無いので、一瞬の判断の誤りが命取りになる。あまりのスリリングさに神経がヒリついていた。


 やがて洞窟を抜け、また先ほどのような開けた場所に出たが、更に魔物もどきの数が増えていた。人型の魔術師のような魔物もどきや狂暴そうな犬型の魔物もどき、回転して迫って来るアルマジロ型の魔物もどき。車でサバンナを走行するがごとく、トロッコはこの魔窟の中を突き進む羽目になった。とてもじゃないが裁き切れない。トロッコの車体を壊されないよう防御を固めるしかなかった。


「アミナフォトス!―光の防御―」


 多段攻撃に弱い光の防御が壊される度に私は間髪入れずに防御を張り直した。


(何とか敵を減らしたいんだけど)


 そんなことを考えていると過ぎ行く景色の中に赤い樽が見えた。これは魔窟にはお誂え向きである。


「バラフォティア!―火の球―」


 後ろで大爆発が起きた。これで何体か魔物を巻き込めただろう。

 よく見ると広い洞窟内に赤い樽が点在していたので、私は魔物が多くいる場所から順に爆発させていった。


「バラネロー!―水の球―」

「わっ!」


 カイトが魔法を使った瞬間ガクンと車体が大きく逸れた。どうやら車線変更したらしい。私はちょうど後ろを向いて樽を爆発させていたのでそれに気付かず、慣性の法則に従ってトロッコに強かに二の腕を打ち付けた。


「ごめん!大丈夫か!?」

「何とか!」


 何かする前に声をかけるという余裕は今の私たちにはなかった。身体がトロッコから投げ出されなかっただけマシだし、脱線しなかっただけ僥倖である。元の線路には大きな岩が行く手を塞いでいた。

 必死の思いで魔窟を抜けると景色が変わり、今度は大きな縦穴の空間に出ていた。トロッコは大きく螺旋を描きながら下っていく。少しすると私くらいのサイズのスズメバチのような魔物もどきたちがブブブブと嫌な威嚇音を立てながらトロッコの回りをうろつき始めた。


「「バラフォティア!―火の球―」」


 虫に対する恐怖心は不思議と湧いてこなかった。本当に目まぐるしく様々な事が起こるので、脳が全然情報を処理しきれていないのが分かる。今は目の前の敵を屠る、それしか考えていない。

 その時カイトがあらん限りの力で急ブレーキをかけ始めた。これも予期していなかった私は今度はカイトの背中に思い切りぶつかる。


「ごめん!」


 しかしカイトはそれどころではないようだった。前方を見ると線路が途中で崩落していた。どうやらそれで急ブレーキをかけているらしい。


ボキッ!!


「……」


 カイトが呆然とした。手には折れたブレーキの棒を持っている。


(お決まりだよね、知ってた)


 線路を失ったトロッコは落下し、私たちは前方の奈落に身体を投げ出された。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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