87.探し物
進行方向の扉からまた通路を進むことになった。どうやらいくつかの通路の分かれ道のうち部屋に辿り着く道は1つしかなく、他は罠だらけの行き止まりらしい。本当にカイトが道案内してくれなかったら何回死んでいたか分からない。
「次の部屋だ」
またカイトが用心して扉を少し開けた。その隙間から見える部屋は趣が全く異なっていた。
「何かさっきと全然違う」
「戦闘ではないな」
カイトが扉を大きく開けて中に入ったので私もそれに続く。ログハウス調の部屋の中はベッド、テーブル、椅子、暖炉、収納タンスなどの家具の上に物や装飾が溢れ、散らばっていた。観葉植物のポット、色とりどりの蠟燭、沢山の時計、木の実類、何種類もの鍵や衣服、人形などまるで昔よく遊んだ視覚探索絵本の中に入ったかのようだ。
「凄い、何ここ?」
「どうやらこの中からお目当ての物を探すらしい」
カイトがテーブルの上に載っていたメモ紙を私に見せる。
『永遠の命を次の扉に示せ』
「永遠の命?この中にあるの?」
私は部屋をざっと見渡す。物に溢れたここにはそんな高尚なものはなさそうだった。
「例えば神の彫像とかかな」
「ああ、なるほど」
「手分けして探そう。部屋のこっち半分は一旦俺が探すからアリサは逆の方を頼む」
「分かった。それらしいのを見つけたらあそこに持っていけば良いのね?」
次の扉にはドアスコープのような丸があり、それはよく見たら目玉だった。ぎょろぎょろとこちらを伺っている。
「恐らく」
「何回見せても大丈夫だと思う?」
「多分な。回数制限があるなら書いてあるだろ」
通路の罠は同じでも部屋の中の試練内容は変わるらしいので、カイトもその辺りは曖昧な回答だ。
「一度見せたものはドア近くに固めて置いておこう」
「了解。あ、部屋の物を動かしても良い?」
「良いんじゃないか?」
「片付けながら探した方が分かりやすいかなって」
「なるほど」
それからは黙々と担当エリアを探した。私は蝋燭なら蝋燭、靴下なら靴下というふうに物を種類別にサクサク分けて整頓しながら進めていった。勿論靴下の絵柄も確認しているし、棚の中やジュエリーケースの中身なども次々に開けて見ていくが、それらしきものは見つからない。
「几帳面だな」
「うわ!吃驚した!」
集中し過ぎていて後ろにカイトがいることに全く気付かなかった。どうやら彼は既に担当分を見終わってしまったらしい。
「それらしきものはあった?」
「いや、全く。ひとまずこの手つかずのところも見ていくぞ」
「すみません、お願いします」
お目当ての永遠の命は全く見つからないが、こういう探し物は宝探しのようで楽しかった。
「楽しい?」
「え、何で分かったの?」
「顔に描いてあるから」
私は顔を押さえた。カイトは手を動かしながら笑っている。
「不謹慎かもしれないけど楽しい。あのね、小さい頃にこういう世界観の絵本があったの。見開きのページにこんな部屋の写真が載っていて、松ぼっくりを9個探してくださいみたいな指定が書いてあって、それを友達と一緒に探して遊んでいた。何だか懐かしいなって」
「写真?」
「あ、えーと、写実的な絵のこと」
こちらの世界に写真はないのでそんな説明になってしまった。
「へぇ、そんな絵本があるんだな」
「こっちにはないの?」
「物語しかない」
「そっか。じゃあいつか作ろうかな」
新ジャンルなら作ったら売れそうだし、何よりきっと子供に楽しんでもらえるだろう。
「そのいつかはやって来るのか?」
「もう!皆には結構有言実行している方だから!」
「悪い悪い、冗談だよ」
何だかここに来てからカイトがいつもよりよく笑っている気がする。
「私、今度はカイトがみていた場所もう一回見てくる」
「そうしてくれ」
こっちも整頓しながら見ていったが、神様・天使モチーフのものやお化け・魔物など、永遠の命を有していそうなものは何も出てこなかった。
「タンスの底面とかも確認してみよう」
私たちは2人がかりで家具をひっくり返したり、テーブルクロスを剥いでみたり、絨毯をひっぺ返したりしてみたが一向に何も出てこなかった。
「概念なのかな。水とか火とか木とか。あ」
私は目玉に両手で丸を作って示して見せたが、「こいつ何してんだ?」みたいな反応しかされなかった。
「何を表したんだ?」
「円循環」
「ああ、なるほど」
私たちは部屋を見渡したが、もう家探しできるところはなさそうだった。
「ダメもとで時計全部かざしてみる?」
「時計は永遠の命という感じはしないかな」
「やっぱりそうか」
こんなにもお目当ての物が出てこないとなれば流石に楽しくなくなってきた。
「うーん、あと探していないとしたら暖炉くらいだよ。火でも見せてみようか?」
「暖炉…」
顎に手を当てて何か思案していたカイトは、はっと何かに気付いたかのように暖炉の前にしゃがみ込むと、火掻き棒で暖炉の薪をゆっくり崩し始めた。
「何かあった?」
「いた」
「え?」
「ピィピィ」
カイトが火掻き棒でそっと手繰り寄せたそれは寝起きを起こされて不機嫌そうだった。
「もしかして不死鳥の雛?」
「恐らく」
「可愛い」
燃え上がるようなオレンジ色が特徴的なふわっふわの赤ちゃんだった。見悶えするほど可愛い。
「待って、ちょっと触らせて」
「手を出して」
私が両手を器にするとカイトはそこに不死鳥の雛を移してくれた。
「温かい…」
カイロみたいにほかほかだ。
「お城で飼えないかな」
「不死鳥を?大胆だなぁ」
某魔法魔術学校の校長先生はペットとして不死鳥を飼っていたのでいけるかなと思ったがどうやら現実的ではないらしい。
「とりあえず扉に見せるね」
私は扉の目玉に不死鳥の雛を見せた。目玉はぐりんと一回転したかと思うと閉じて、代わりに扉が開いた。扉が開き切った瞬間、ログハウスの中の物は全て立ち消え、無機質な神殿の部屋に戻ってしまっていた。
「あ」
気が付いたら不死鳥の雛もいなくなっていた。
「なんだ、全部幻だったんだ」
「本当に飼いたかったのか?」
「結構本気だった。ねぇ、この世界に不死鳥って存在するの?」
「不毛の地のどこかにいるとは聞いたことがあるけど、実在するかは定かじゃない。図鑑とかには幻の鳥ということで紹介されている」
「そっか、残念だなぁ」
あの温かなぬくもりさえ幻だったのは少し寂しかった。
思いの外沈んだように見えたらしく、カイトが必死に励ましてくれる。
「そんなに落ち込まなくても。フワフワのペットなら他にもいっぱいいるだろう?」
「…それもそうね、諦めるわ」
(あーあ、でもやっぱり一度は憧れちゃうよねぇ、不死鳥は)
私は近くに飛んでいたフェアリーを捕獲して両手で包み込み、しばし心の間隙を埋めるのだった。
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