86.いざ神殿内へ
※バトルシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
「じゃあ行こう」
「うん」
私は一旦全てを頭の外に追いやるために両手で頬をパンパンと叩いた。そうでもしなければ神殿の試練に集中できそうになかったのだ。
「随分やる気だな」
「そ、そうね。気合入れなきゃ」
気が付いたら持っていかれそうになる思考を、私は懸命に戻した。
カイトはそんな私を気にする様子もなく、神殿の入口を押し開けて中に入る。私も続いて1歩中に入った。
途端、手に持っていた箒がパッと消えてしまった。
「箒が無くなっちゃった」
「飛行禁止ってことだろう」
「そんな」
神殿内に飛べそうなものはあるだろうか。
「大丈夫、俺も一度入っているから」
「うん」
神殿の1階部分は入口から向かって正面奥に大きな男神メタクシーと女神イヒネイカの石像が立ち、その少し手前に地下の迷宮に続く階段が続いていた。
「迷宮の攻略は半日くらいだ。夜にはここに戻れるはずだから邪魔な荷物はここに置いていこう」
「分かった」
迷宮自体は既に攻略されているが、神殿から出る度に試練内容は都度リセットされ、敵が湧くのだという。ちなみに今回の私たちの目的は迷宮の攻略ではなく導を探すことである。神話には「神殿の試練の先に手助けの導を置いておく」と記載されているが、過去の探索では最後の部屋はおろか迷宮のありとあらゆる部屋や通路、分かれ道を探しても見つからなかったらしい。私たちも迷宮全てを探索する心積もりだが、一旦迷宮を攻略してしまってからの方が探索をしやすいため、先に踏破するというわけだ。なお試練内容は私たちが神殿の外に出ない限りはリセットされない仕様とのことで、しばらく神殿内で過ごせるよう毛布や数日分の食料などの荷物を持ってきていた。
早速カイトが階段を降りて行く。私もその後をついて行った。階段を降りきると中はいかにも迷宮と言った感じだ。
「道に迷いそう」
「そう言えば方向音痴だったか」
「うん、はぐれたら餓死して骸骨になる自信がある」
自分の方向感覚を全く信頼していないが故の自信だった。
「目印持ってくれば良かったな…」
私の軽はずみな言動にカイトが真剣に悩んでしまった。
「いいよ、はぐれないように気を付けるし、いざとなったら何か魔法使う。物凄い衝撃音が鳴る魔法とか」
「そうだな。はぐれたらそうしよう。で、アリサは絶対動かない」
「はい」
何か既に迷子の子供の気分だった。
通路がしばらく続いたが、途中途中で迷宮らしい罠などが沢山あった。
「そこの床の突起踏まないように気を付けて。前方から弓矢が飛んでくる」
「分かった」
「そこを触ると天上が落ちてくる」
「はい」
「その松明持ち上げると両壁から棘が出始めるから」
「いや、罠多くない!?」
思わず突っ込んでしまった。
「まぁ試練だから?」
「初見殺し多すぎでしょ。もしかして罠の場所全部覚えているの?」
「大体な。ただ通路の罠の場所は同じだが、試練が課される部屋の内部構造は都度変わっているはずだ」
「…多分カイトがいなかったら私、10秒で串刺しになっているわ」
「じゃあ本当にはぐれないように気を付けて」
「うん」
迷子にならない努力をしようと心に誓った。
幸いなことに迷子にならずに最初の部屋に辿り着く。
「言った通り、部屋の中には何かしらの試練がある。それを突破しないと先に進めない」
「分かった」
カイトが慎重に扉を開いた。中はだだっ広い円形場の部屋だ。
「多分戦闘になる」
「フェアリーが飛んでいるから魔法は普通に使えるんだよね?」
「ああ、大丈夫だ」
「ちょっと待って エピテシー―攻撃力向上― アーミナー―防御力向上―」
「ありがとう」
念のため自分もつける。準備ができたのでコクリと頷いた。
部屋の中央近くまで進むと突然召喚でもされたように魔物が複数出現した。
(ゴブリンだ)
目の前には10体ほどいる。初めて見た。恐らく、私が呼ばれるまでもなく討伐されている相手だからだ。
「アリサは後方支援で」
「分かった。 バラフォトス―光の球―」
ゴブリンがその光だけでかなり怯んだ。カイトが剣を手に突っ込む。敵はあっという間になぎ倒されてしまい、私が攻撃に出る幕などなかった。
次はオーガが10体ほど。これもほとんど1人でカイトが屠っていた。
(敵が徐々に強くなってくるってことかな)
予想通り次に出てきたのはトロール10体だった。流石の巨体で10体もいると迫力がある。そんな中カイトは微塵も臆することなく剣を振るっていた。しかし1体にかかる時間は多少長くなるのでこの辺りから私もカイトに当たらないよう注意しながら援護射撃を始める。
「ドーリーシデロー―鉄の槍―」
トロールも初めての相手だったので、どれほど固いのだろうと警戒して無数の鉄槍を射出したが、簡単に貫通して絶命しているところを見るとオーバーキル感が否めない。
次は懐かしいガーゴイル集団だ。カイトの動きぶりを見るにあの時は私服だったからボスガーゴイルに遅れを取っていただけではなかろうかと思う。今は剣に風のエンチャントをして石像の首を刎ねまくっていた。
「ベロスフォトス―光の矢―」
私も攻撃の手を緩めない。
ガーゴイルが終わるとミノタウロスが1体出てきた。重そうな戦斧を掲げているが、振り下ろす前にカイトに両腕と首を切られていた。
(ミノタウロス瞬殺なの!?)
ミノタウロスが沈むと少し間があった。
「次、少し強敵が出てくると思う」
「了解」
ずっと前衛で戦っているのにカイトは全然息が上がっていなかった。
カイトの言う通り、次は様々なキメラが20体ほど出現したが、カイトは前衛のまま対して魔法を使うことなく剣技だけで倒していく。私はカイトの背後を狙うキメラに狙いを定めていった。
「レピダアネモス―風の刃―」
立て続けに風の刃を放つとキメラの半数近くがなぎ倒されていく。
(もしかして私こっちに来てから割とずっとハードモード経験していた?)
何と言うか、両手首と両手足の重り外した人みたいに自分が強いと錯覚してしまう。キメラもほとんど手こずることなく沈めてしまった。
だが、次に出てきた敵にはひやりとした。
「アミナフォトス―光の防御― ティコスエダフォス―土の壁―」
カイトも守るように大きく結界を張る。
「ありがとう、油断した。きっとあれが最後だ」
大きな1体のマンティコアが出現した。マンティコアとは頭が人面、身体は獅子で蠍の尻尾を持ち、更には蝙蝠のような翼と恐竜のような足、体表は鱗に覆われた魔物である。何より恐ろしいのは蠍の尻尾から発射される即死の猛毒を持った毒針だ。連射されたら光の防御だけでは心許なかったので防御魔法を重ねていた。
「尻尾さえ切ればどうとでもなる」
「尻尾は切れると思うけど、全部遠距離魔法で良いんじゃない?」
「いや、あいつの体表の鱗は魔法を弾く。剣でやった方が早い」
「なるほど、分かった」
マンティコアは尻尾を高く掲げていつでもこちらを撃てるように準備していた。
「レピダフォトス―光の刃―」
光速の刃だ。そう言えばこれで髪を切られたんだっけとどうでも良いことを考える。その間に蠍の尻尾はズルリと床に落ちた。多分マンティコアは一瞬切られたことにも気付いていなかっただろう。
カイトは防御から飛び出しマンティコアの頭を真っ二つに両断した。
本当に試練が終わったようで、進路方向の扉が開く。
「あっという間だったな」
カイトは剣の血を拭いて鞘に納めていた。
「そうだね。何か吃驚した」
「アリサがいつも駆り出されている敵に比べたら大したことなかっただろう」
カイトが笑った。私もつられて苦笑する。
「そうね、それも勿論ある。でも私が対応していた敵ってほんの一部だったんだなぁって思ったよ。それこそゴブリンなんて初めて見たし、私のところに来る前に皆が露払いしてくれているんだって感じた」
「露払いできなかった強敵が君に回ってきているから」
「うん、そうね…」
ちょっと複雑な心境になった。
「そう言えば神殿なのに魔物が出るんだね」
「正確には魔物もどきだと思う。魔物は不毛の地にしかいないから」
「そっか」
「少し休んだら次の試練に進もう」
「うん」
試練が終わった部屋は安全らしく、私たちは小休止を取った。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




