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84.和平

 私は大樹の一番上に押し上げられていたので、箒に乗って皆が見える高度まで降りて行った。


「全員動かないで、私の話を聞いてください!!」


 そう言ったものの、皆呆気に取られてかはじめから水を打ったように静かだった。


「ドラゴンさん、このようなことになって大変残念ですが、私も国王陛下もあなた方との和平を心待ちにしていました!考えても見てください、あなた方を殺すために誘致したのであれば、たった1人に毒を盛るなんてまどろこしいことはしません!!私はフェアリーアイ、この大樹の葉を全て刃に変えてあなた方の頭上に降り注がせることも可能です。そもそも和平などとおびき出すこともせず、バジリスク討伐の際にあの棲家のあなた方を殲滅することができたでしょう。私にはそれだけの力があります!!!!」


 実際殲滅できるかどうかは分からないが、力を誇示した上でそう脅しをかける。これでひとまずこの場の戦意が削がれると共に、陛下や私の潔白を証明できるだろう。


「それをしていないということは私にも国王陛下にも和平の意志があるということです!!また、先ほど不審人物を捉えています!盃に毒を盛ることができる人物はそう多くはいませんし、少し時間があれば犯人を捉えることができるでしょう!ですからどうか矛を収めてください!!!!」


 ドラゴンさんたちは誰も何も言わなかった。ただお互いに顔を見合わせているだけだ。


(ここまでやって失敗したかな…)


 大樹を生成し度肝を抜いたことにより何とか攻撃の手を止めることには成功したが、この後の展開は正直ドラゴンさんたちの判断次第だった。


「フェアリーアイの言う通りだ」


 そう諾う声が聞こえてきた。見ると先ほどまで意識を失っていたシルヴァさんだった。


「シルヴァさん…」

「これは国の陰謀ではなく誰か個人の悪意によるものだろう。ならばここで和平をしないのは我らがそれに屈したことになる」


 毒を盛られたのは自分にも関わらず、シルヴァさんはとても冷静に話をしてくれている。


「しかしシルヴァ、誰かが反対している和平に意味などあるのか?」

「我らの中でさえ意見が割れていたのだ、全員の意見が一致することなどないだろう。そもそも和平を反対されるのは我々ドラゴンの歴史の行いを見れば頷けるというもの。我々は被害者ではなく加害者なのだ。それでも和平を申し込んできた国王陛下やフェアリーアイには感謝こそあれど、矛を向けるなど恩を仇で返すようなものではないか」 


(シルヴァさんがリーダーで良かった)


 私は安堵のため息を吐いた。


「フェアリーアイよ、もう暴れることはしない。その大樹から仲間を開放してくれないか?」

「分かりました」


 私は魔法を解いた。あれほど存在感を放っていた大樹はそれで綺麗さっぱりどこかへ消えていった。ただ、噴水や広場のオブジェクトは壊れたままだ。


(修理費高くつきそう…)


 私が1番物を壊したかもしれない。ちょっとやり過ぎたかなと反省する。

 ドラゴンさんたちは先ほどの興奮が嘘のように鎮まり返り、地上に戻って行った。私も地上に降り立つと国王陛下とドラゴンの長老の話が聞こえてきた。


「ドラゴンよ、此度のこと、誠に申し訳なかった」

「ワシらも興奮した、申し訳ない。シルヴァの言う通りじゃ」

「犯人はすぐに捕まえる。また収穫祭は3日後にまた執り行いたいのだが、いかがだろうか?」

「ああ、我々も和平を望んでいる」


 国王陛下と冷静さを取り戻した長老によって、式典の仕切り直しが決定した。


(ああ、良かった)


 もう駄目かと思われたが、まだ和平を望む意志がドラゴンさんたちにあって本当に良かった。

 ほっとしたその瞬間、身体から力が抜けてふらついてしまう。どうやらフェアリーに属性変更を強いたことにより思いの外魔力を持っていかれていたようだ。


「大丈夫か?」


 いつの間にいたのか、後ろからカイトが支えてくれた。


「ちょっと疲れたかも」

「また無茶をしたな」

「うん、ごめん。自分が思っていたよりも魔力を消費したの」


 頭をポンと叩かれた。最近こうされることが多くなった気がする。


「心配したって伝わっているなら良い。…お疲れ様、本当によくやったよ。ここからならヴィンセントの宿の方が近い。そこで休もう」

「待って、自分で歩くから抱えないで」


 カイトが明らかにお姫様抱っこする一歩手前の姿勢だった。


「駄目」

「分かった、じゃあせめておんぶにして」

「おんぶのどこに妥協点を見出したんだ?」

「何でも。とにかく前で抱えられるのは嫌」


 私の強い抵抗により何とかお姫様抱っこは阻止できたものの、これはこれで恥ずかしかった。


「カイト、聞いて、おんぶも十分恥ずかしいわ」

「じゃあ前で抱えられるのとおんぶならどっちが恥ずかしい?」

「…おんぶで良いです」


 その2択しか選ばせてくれなかったので、私は大人しく負ぶわれることにする。カイトは他の皆に一言断りを入れてからヴィンセントさんの宿に向かった。


「それにしても何で大樹だったんだ?」

「力を誇示できるなら何でも良かったんだけど…」


 私は思わずはぁと溜息を吐いてしまった。


「どうした?」

「あんなことしたくなかった」

「なんで?」

「力は使うものであって誇示するものじゃないから」


 必要なことだったのかもしれないけれど、自分にはこれだけの力がありますとこれ見よがしに見せびらかすなんてことは恥ずかしいのでしたくなかった。


「アリサは争いを止めるために力を使ったのであって、力を誇示するために使ったわけじゃない」

「…ありがとう」


 物は言い様だ。でも、そう言われると少し救われた気がする。


「それに心配はしたけど、あの魔法によって平和的に解決したとも思っているから感謝もしているんだ。全く複雑な気分だよ」


 カイトもまた小さく溜息を吐いた。


「カイトは心配しすぎなんだよ」

「アリサが無茶しすぎなんだ。胃に穴が空いたらどうしてくれる」

「…勿論治すけど、そうならないように気を付けます」

「そうしてくれ」


 私がこそばゆい気持ちを宥めながら返事をすると、背中越しにカイトの雰囲気が少し和らいだ。私の返事に安心してくれたらしい。

 宿につくとヴィンセントさんは不在だったけれど、カイトが鍵を開けて勝手に中に入った。


「寝るだけだから一番小さい部屋で良いよ」

「アリサを簡素な部屋に寝かせたら怒られるのは俺なんだ。頼むからこの部屋で寝てほしい」


 物凄い切実だったので前回と同様一番グレードの高い部屋で寝かせてもらうことにした。ベッドに横たわると私はあっという間に眠りについていた。



 3日後、私が壊した広場は綺麗さっぱり元通りになっていて吃驚した。聞いた話によると魔法大工職人集団みたいな人たちがいるみたいで、以前のガーゴイル襲撃時の町の復興なんかもその人たちが担っていたらしい。

 ちなみに3日の間に犯人も捕まったようだ。普通に裁判で裁かれるのかドラゴンさんたちに引き渡されるのか、そういう細かいことは分からないし興味がなかったので聞かなかった。


 仕切り直した収穫祭ははじめは少し沈んだ雰囲気ではあったものの、盃を交わしたところで誰からともなく拍手が湧き上がり、やがてそれは大きな歓声を伴った。中には感動ですすり泣く声さえ聞こえてきた。神話時代からの不和が今日この時を持って解消されたのだと思うと本当に歴史的瞬間に感じたし、私も少しジンと来てしまったので、この世界の人たちは万感の思いだったはずだ。


「アリサ、本当にありがとう」

「ん?」


 隣で見ていたカイトは優しい笑みを湛えていた。


「これでサリアの心残りが1つ減ったよ」

「うん」


 サリア様のやり残したことの手助けができて、私はとても嬉しかった。


(後のサリア様の心残りは混沌と、きっとカイトのこと)


 私はそっと俯く。混沌は何とかしてみせようと思う。けれどきっとカイトのことはどうにもならないだろう。それはきっとカイトとサリア様の問題で、私が入り込む余地などないのだから。


(大丈夫、痛くない)


 最近自分の心の整理がついてきた気がする。だから大丈夫、私は私できっとこの恋を忘れられると思った。


『隠されると暴きたくなる』


 あれは酒の妄言だ。別に私のことを言ったわけじゃない。


「アリサ?」

「ああ、ごめん、何か靴に小石入っているような違和感があって」


 私は笑って誤魔化した。

 その後も3日前が嘘のように滞りなく進み、お祭りはあっという間にお開きになった。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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