83.狙われたのは…
「え?」
私が一見した限りでは見知らぬ騎士兵だと思ったのだが、服装が微妙に違うのか、兵団の中で近づく際に何か示し合わせた符号でもあるのか、とにかく皆の反応から見てこの人は偽物らしい。
「誘いに乗ったふりをして、人の少ないところで捕まえる。アリサは俺たちより前に出てこないで」
「分かった」
(私が狙われているってこと?)
魔物からならいくらでも狙われているのだが、フェアリーアイだと判明してから人に狙われるのは初めてだ。一体何の目的だろう?また身代金だろうか。しかし近衛兵2人の護衛がついているのに私を狙うのは豪胆すぎる気もする。2人さえ出し抜く何かがあるというのなら私も十分に警戒しなければ。
噴水のある広場を抜ける。メイン通りに立ち並ぶ出店の後ろ側に路地裏があるのでそこに誘導された。入った瞬間、オークリーさんが目にも止まらぬ早さで不審者の腕を捩って壁に押さえつける。
「目的はなんだ?」
オークリーさんが訊ねた。騎士兵を模した不審者は歪んだ顔で笑った。
「ハハハッ!俺の目的は既に果たしている」
「何?」
「俺はフェアリーアイをあの広場からおびき出すのが目的だ。あんたにはどんなことができるか分からないからな。念のため遠ざけたかったんだよ。後のことは別の奴がやってる」
「どういうこと?」
「和平なんてさせるかよ」
その言葉を聞いてゾッとした。
(広場で何かが起きている!)
私は弾かれたように駆け出した。広場からは大分遠く離され、ステージの状況が見えない。人も多いので元の場所に戻るのには時間がかかりそうだ。今日は式典だからと箒を置いてきた自分を呪った。
(何か、乗れそうなもの)
ちょうど近くの出店に箒が立てかけてあったのでそれを拝借することにした。
「自分だけ行こうとするな!」
「じゃあカイトも乗って!」
以前カイトとの箒の2人乗りには気恥ずかしさもあって断ったのだが、今はなにふり構っていられない。私たちは急いで箒に乗って、人混みの頭上を飛んでいった。
やっと見えたステージでは皆が杯を仰いでいた。そして、シルヴァさんが手から杯を落として昏倒したのが見えた。
「シルヴァさん!」
その光景を見ていた者たちは護衛含めて皆呆気に取られている。その間に私とカイトはステージに到着した。
「フェラペヴォ!―治癒せよ―」
私は間髪入れずに治療に入った。
「謀りおったのか!!」
長老が私の後ろで怒鳴っているが、今はそれどころではない。
「違う!誰かがこの和平を決裂させるために一服盛ったんだ!」
カイトが間に入って説明してくれた。それを受けて他の種族長も長老を宥め始めるが、他のドラゴンたちも興奮し、収まりがつかなくなっていた。
「シルヴァを返せ!」
「今治療中です!」
「殺そうとしているのではないか!?」
「そうだ、俺たちは騙されたんだ!」
「シルヴァから離れろ!」
とうとうファイアドラゴンの1人が私に炎のドラゴンブレスを吐いてきた。
「アミナネロー!―水の防御― アリサは治療に専念して!」
私より早くカイトが防御魔法を展開した。しかしその攻撃を皮切りにドラゴンたちは飛翔し、集まっていた民衆を襲い始め、警備に当たっていた兵団たちは総出で迎撃態勢に入る。流石に数の利があるので町中をドラゴンに蹂躙されているということはないが、襲撃の様子は魔物と大差がないように見えてしまう。最早和平どころの騒ぎではなかった。
(どうしたら…)
私も私で手を離すわけにはいかなかった。ここでシルヴァさんに死なれたら本当に和平は立ち消えになってしまう。
「アリサさん、治療はどれくらいで終わりそうですか?」
「体躯からいって後5分くらいだと思います」
ギルバートさんが訊ねてきた。いつの間にか皆ステージに上がってドラゴンさんたちから狙われている私を守ってくれていた。
「シルヴァを、シルヴァを返せ!」
「だから今治療中だって言ってんだろ!」
いつも近接を任されているレオンさんが物怖じすることなく剣技でドラゴンさんを翻弄している。エリスさんも前衛で戦っていて、カイトとギルバートさんが後衛に残っていた。
種族長が場を治めてくれればと思うが、ステージの反対側では長老も長老で興奮しており、4種族長の説得虚しく全く話に耳を傾けようとはしてくれていないようだった。
(早く、治療が終われば)
シルヴァさんを返してあげればドラゴンさんたちも落ち着くのではと思った。というかそれくらいしかこの捩れた糸の戻すきっかけが分からなかった。
やがて時間は過ぎ、皆5分凌ぎきってくれたところでシルヴァさんの治療も終了した。
「治療終わりました!」
私たちがシルヴァさんから離れるとすぐさまドラゴンさんたちが回収しに来た。治療は終わったがシルヴァさんは寝たままだ。しばらく起きないかもしれない。
「シルヴァ、大丈夫か」
「息はしている」
私は努めて冷静にドラゴンさんたちに話しかけた。
「シルヴァさんは無事です。時期に目が覚めると思います。ですから一度落ち着きましょう。私たちに敵意はありません」
「うるさい、裏切者めが」
「え?」
「国王の手先か知らないが、お前が和平になど来なければこんなことにはならなかったのだ。国ぐるみで我らを嵌めやがって」
「そんな、違います!決してそのようなことは」
「うるさい!黙れ!誰がお前の話など聞くか!」
「ここまで来たら徹底的にやれ!皆殺しだ!!」
「誰が和平など結ぶものか!」
ドラゴンさんたちの興奮は鎮まってくれなかった。
(せっかくここまでこぎつけたのに)
国王陛下にサリア様の悲願だと言われた。私もそれを叶えたかったからここまで頑張ったというのに。それがどうだ、誰に盛られたか分からない毒1つ、悪意1つで呆気なく崩れ去ろうとしている。怒りで頭がクラクラする。毒を盛った犯人にも、耳を貸さないドラゴンさんたちにも。
私は箒を拾い上げて飛び、城下町の中心である広場の噴水の先に止まった。大量の魔力を込める。沢山の土属性のフェアリーが集まって来た。
(まだ、まだまだ全然足りない)
フェアリーが足りない。これでは魔法が発動しない。そう思ったら急に他の属性のフェアリーたちが茶色に変化し始めた。
(魔力を余分に多くあげるとフェアリーの属性が変化するの?)
ここに来ての大発見である。しかしこれで私の周りのフェアリーの大多数が茶色になった。魔法が発動できそうだ。
「メガロノダス!!―生育せよ―」
ゴゴゴゴと地鳴りが聞こえたかと思うと、噴水が壊れ、そこから大きな1本の木が生えてきた。その成長は留まることを知らず、根は大きくうねり、幹は広場を埋め尽くさんほど太く長く伸びて王都中に枝葉を伸ばした。その成長途中で空を飛んでいたドラゴンたちは枝に搦め取って身動きできないように縛り付けることも忘れない。
私はこの場にいる全員に力を誇示するために、王都を覆いつくさんばかりの、世界樹にも似た大樹を顕現させていた。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




