82.収穫祭
収穫祭当日、私たちはお城でドラゴンさんたちが来るのを今か今かと待っていた。今日の流れとしてはお城で5種族の長たちが集合した後、祭り会場である城下町へ赴いて和平の盃を交わし、その後は民衆と一緒にお祭りを楽しむといったラフな構成だ。現在4種族の長は既に集まったものの、ドラゴンさんたちがなかなか来ずに皆気を揉んでいた。
「本当に来るのか?」
「怖気づいて来ないのではあるまいな?」
「来たとてどのような顔をすれば良いか」
「しかし5種族で宴ができるのは神話の頃からの宿願ではないか」
4種族の長たちは国王陛下以外懐疑的なようだった。ちなみに実は魚人、鳥人、獣人族の長とはダンスパーティーの時に既に面識があった。魚人族の長はリーコさん、恰幅の良い鯰顔でフィンさんと同様青白い水色の肌をしている。鳥人族の長はオーさん、頭が梟で知的な顔立ちだ。獣人族の長はファダスさん、象の頭を持っておりそれに合わせて巨体である。陛下含め壮年の男性と言った感じで、ドラゴンの長老だけが飛びぬけて老いている。時期長のようなシルヴァさんならちょうど良い年齢層かもしれない。
やがて北の空にドラゴンさんたち一向が見え始めた。流石に全員は呼べないので選抜された者たちだけだ。勿論中にはシルヴァさんもいる。長老はドラゴン2人に抱えられて来ていた。
「遠路はるばるよくぞいらっしゃった」
「本当にこの日が来ようとは夢にも思わなんだ」
国王陛下と長老は固く挨拶を交わし、他の種族長もそれに倣っていた。
「サリア姫も元気にしておったかのう?」
「はい、おかげさまで」
長老にサリア様と勘違いされているということは陛下含めこの場の全員に周知してある。
無事に5種族の長の面会も済んだところで、会場へ向かうことになった。種族長は馬車に乗り、私たちはその後ろを随行する。要するにパレードだ。馬車はゆっくり進み、民衆たちの拍手や喝采に種族長たちは手を振って応えていた。城下町は春のお祭りの時よりも賑わいを見せており、私も思わずはしゃいでいた。
「出店の数が増えている!」
「春は食べ物の出店がほとんどだったけど、収穫祭になると収穫物を売る店が増えるからかな」
北のメイン通りの半分を過ぎたところで左右に出店がずらりと並んでいた。カイトの説明通り、春の時には見かけなかった八百屋さんや穀物を売る店など収穫物をそのまま売る出店や、ジャムや干物など食材を加工したものを売る出店などが多く立ち並んでいた。この調子だと広場は勿論のこと四方のメイン通りの半分くらいまで出店で埋まっているのではないだろうか。
(プライベートで遊びに来たかったな)
収穫物を買い込んでひっそりと和食パーティーでもしたかった。今の時期からでも鍋は美味しいし、炊き込みご飯、かぼちゃの煮物、焼き茄子、キノコのバター醤油炒めなど、南の島でもらった和食調味料はまだ残っているので夏の時と違ってやりたい放題できるというのに。
(やばい、お腹空いてきた)
まさに食欲の秋である。
「何を見ているんだ?」
「秋の食材。どれも美味しそうで買って何か作りたかったなぁって」
「え、アリサさんの料理俺も食べたい!」
「レオン、お前もう少し遠慮ってものをしろ」
同期コンビのレオンさんとギルバートさんは今日も元気である。
「そうねぇ、国王陛下にも何か作ってくれって言われているし、そのうち何か作るわ」
「アリサさんのそのうちって結構長いですよね」
「エリスさん、ソンナコトナイデスヨ」
半年以上行動を共にしているせいか、私のそのうちと今度に引っかかってくれなくなっていた
。
(自分1人分なら良いんだけど、他人に食べさせるとなると緊張するのよね)
失敗できないプレッシャーが私を台所から遠ざけている。
「凄い、お花屋さんまである」
私は話題を逸らした。目に入ったお花屋さんは秋の花を中心に切り花やドライフラワー、ちょっとした植木鉢まで置いてあった。中には私の誕生花によく似た花も売られていた。
「あ」
「ん?どうした?」
「いや、すっかり忘れていたんだけど、そう言えば私、誕生日過ぎたのかなって」
「「「「「えっ」」」」」
皆がぎょっとしてこちらを向いてきた。その謎の圧に私は何かやらかしただろうかと考え、すぐに答えにたどり着く。
「え?……あ、そう言えば皆さんの誕生日伺ってなかったですね」
誕生日を祝うなんてイベントをしばらくやっていなかったのでうっかり失念していたが、皆にはこんなに良くしてもらっているのだから誕生日プレゼントの1つや2つ用意しておいてしかるべきだった。むしろここまで綺麗さっぱり忘れてしまっているのはとても失礼だったかもしれない。
「いや、僕たちのことはどうでも良いんですよ!アリサさん、誕生日いつですか?」
どうやら違ったらしい。エリスさんが訊ねてきたので何だかよく分からないまま答える。
「んー、こっちとあっちの暦が微妙に違うので正確な日にちが分からないんですよねぇ。季節で言えば秋の始め頃ですが、日数的には夏の終わり頃には年を取っていたかもしれません」
「なるほど」
「おいくつになったんですか?」
「オークリーさん、女性に年齢を訊くのは失礼ですよ」
「すみません…」
私の予想ではきっと1世紀近く私の方が年下なのだ。却って言うのが憚られる。しかし私が言わなかったとしてもフェアリーアイの誕生の周期を考えれば自ずと答えが導き出せてしまうので、いつかはバレるだろう。
「失礼、カイトちょっとこっち」
エリスさんが後方にカイトを呼んだ。後ろを向いて肩を組んで何か話している。ここも同期なので仲が良い。警備のことで何か気になることでもあったのだろうか。
そんなどうでも良いことを話しているうちに広場に到着していた。前回ステージが設置されていた噴水前には春よりもずっと小綺麗なステージが建設されていた。そのステージの前には白いテーブルクロスのかかった長いテーブルが置いてある。恐らくここに5種族の長が並び、特等席でステージを観覧するのだろう。
町の雰囲気は私が想像していたよりも悪くなかった。もっと排他的な空気を想定していたのだがそんなことはなく、ドラゴンたちの友好的な意思が伝わったのか関係の雪解けのような温かなものさえ感じられた。
5種族の長はステージに登った。シルヴァさんも登壇している。これから5兄弟の盃を交わすのだが、ドラゴンの長老はもうお酒が飲めないのでシルヴァさんが代わりに飲むことになっていた。私たちはステージ脇でその歴史的瞬間を見る手筈だ。
もうすぐで杯が配られようとした時、隣のカイトが後ろを警戒した。他の皆の空気もピリついている。何かと思ったら後ろには騎士兵が1人立っていた。
「何か用か?」
「はい、フェアリーアイへ通達、国王陛下がこの後の段取りについて変更したいとのことで、ここでは少し騒がしいのであちらでお話したいのですが?」
「もうすぐで盃の儀が執り行われる。その後にしてくれないか?」
「この後の日程に関わってきますので至急と仰せつかっております」
カイトは他の皆と何か目配せしていた。
「…分かった。オークリーも頼む」
呼び出しにはカイトの他、オークリーさんも来るらしい。
(何だろう?)
何だか珍しく物々しい雰囲気だなと思ったが、騎士兵が後ろを向いて歩き出したところでカイトが耳打ちをしてきた。
「あいつ、騎士兵じゃない」
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




