80.飲み比べ対決
※お酒は20歳になってから。
※飲み比べは非常に危険な行為ですので、皆様は真似しないでください。お酒は楽しく飲みましょう。
「何を考えているんだ!」
珍しくカイトが鬼の形相で怒ってきた。まさかこんなに怒られるとは思っていなかったので私はたじろぐ。
「そ、そんなに怒らなくても」
「いいえ、今回はアリサさんが悪いですよ」
エリスさんもカイトの肩を持った。
「アリサさん、お酒はあまり嗜まないでしょう?僕たちと飲んだ時だって1‐2杯しか飲んでなかったのに、飲み比べの勝負なんて無謀ですよ」
「はい、お酒はあまり好きではないので」
「飲み比べは根性でどうにかなるものではありません」
ギルバートさんも諭してくる。
「何もそこまで体張る必要なかったんじゃねぇの?」
「今からでも棄権の申し出をしてきましょうか?」
レオンさん、オークリーさんまでそんなことを言ってくる始末だ。
「皆さん一旦落ち着いてください。心配してくれて凄く嬉しいんですけど、私実はお酒飲める方です。だから心配しなくて大丈夫ですよ」
5人とも無言でこちらを見てくるが、誰も信用してくれていなかった。
「私だって負け戦を申し込んだわけじゃありません。それこそ元の世界で培ってきた経験というか必勝法があるので絶対勝ちます」
「必勝法って?」
カイトが胡散臭いとばかりに聞いてくる。
「自分のペースに巻き込んで勝つ」
「そんなスポーツじゃないんですから」
エリスさんが突っ込んできた。皆に全然信用されなくて私はがっくりと肩を落とす。
「じゃあとりあえずやってみて、駄目そうだなと思ったら白いタオルでも投げ込んでください。飲み比べはコンディションが命なので私ちょっと夕方まで寝てきます」
夜明け前に起きたので寝不足気味だ。勝負は今日の夕方からになったのでそれまで少し寝ることにした。皆何か言いたそうにしていたけれど、私の意思を尊重してくれたようだった。
夕方、広場には大勢のドラゴンさんたちと近衛兵の皆が集まっていた。
「絶対に無理はするなよ」
「分かっているよ」
カイトが口酸っぱく言ってきた。
(こんなに信用されないもんなんだな…)
皆心配してくれているのは分かるが、私は内心結構傷ついている。
「では両者前へ」
審判みたいなドラゴンさんが声をかけてきた。相手はシルヴァさんだった。
「シルヴァさんが相手ですか」
「ああ、手加減はなしだ」
席につく。お酒は最初からウイスキーにしてもらっていた。ワインやビールを飲んでも腹が膨れるばかりで決着がつかないからだ。ちなみにお酒は討伐前に国王陛下よりドラゴンへの贈答用として別の馬車で運んできていた。大量にあるのでまさか飲み比べで飲み切るという事態にはならないだろう。
「全てのものに感謝を込めて、いただきます」
「いただきます」
私はウイスキーのショットを煽った。
(うわ、質より量って感じの味だ)
思わず顔を顰めてしまった。味が尖っていてまろみがない。苦手な味だ。
(どうせならまろやかな味の良いウイスキーが飲みたかったな)
昔はコスパ重視だったけど、大人になると高いものをチビチビ飲むことに豊かさを感じていたから、こういう酒は懐かしかった。
そもそもサリア様の酒豪の話を聞いて、私はこう思っていた。
『フェアリーアイの肝臓には浄化魔法がかかっているのではないか』
実はかくいう私もうわばみ、ザルを通り越してワクだった。
黒歴史の大学生時代、これはもう時効だと思っているが、現役合格を果たした私は各サークルが主催する新入生歓迎会にタダ酒目的で全て顔を出した。そして誰よりも酒を浴びるほど飲んで帰ったのだ。当然注目を浴びないはずがなく、気が付いたらいつの間にかバッカスとあだ名がつけられてしまっていた。
(いや、今考えても不名誉すぎる!)
こんなに誇れない話があろうか、いやない。
しかもそれだけに留まらず、我こそはバッカスに挑まんとする強者どもや下心見え見えの男たちが私にサシで飲み比べ対決を挑んでくる始末だった。仕方がないので私はそのことごとくを受け、全て返り討ちにした。飲み比べの千本ノックを自主的にほぼ1年やっていたのである。それでも肝臓の数値が正常値だったので自分っておかしいのかなと思っていた時期もある。ネットで調べた限り致死量に達しているような日があったような気がしないでもないのだ。
しかし私がそこまで荒れたのにはわけがある。両親が亡くなったのがちょうど私の大学二次試験日の夜だった。つまりメンタルがボロボロの中、自分の大学合格を知ることになったのである。幸い両親が貯金をしてくれていたので大学に進学することにしたが、それはそれはもう自暴自棄になっていた。それで大学1年間は酒に逃げた。けれど酒に溺れたかったのに、強すぎて溺れることができなかった。人生とは本当にままならない。結局酒に逃げることはできないと悟り、また酒が好きではないと自覚した瞬間にそういう飲み方とはスッパリおさらばした。
(昔取った杵柄とはよく言うけど、あの荒んだ時代に取った杵柄がこんなところで役に立つとはねぇ)
私はとにかく自分のペースを崩さずに杯を重ねることに集中していた。というのも最初はどう考えても体格の良いシルヴァさんがリードするに決まっているからだ。次々と杯に差をつけられたが、私は焦らなかった。時間は無制限、つまりギブアップするまで飲み続けられる。そして私はギブアップしないのでシルヴァさんが倒れてからも飲み続けて、杯数を1杯でも多く飲んだら私の勝ちである。
はじめはハイペースだったシルヴァさんの手が少し止まってきた。ウイスキーは酒精の高い酒なので、水のようなワインやビールと違ってガバガバと飲み進めることはできない。私はシルヴァさんに無言で挑発的な笑みを浮かべてみせる。それでシルヴァさんは自分が優勢にも関わらずペースを崩してどんどんと杯を重ねた。こういうふうに相手のペースを崩しておけば勝手に潰れてくれることもある。あの時学んだテクニックの1つだ。
それでもシルヴァさんは沈まずにかなり粘っていたので、私は心を折るためにピッチを上げ始めた。まだ相手の方が杯数は上なのに見るからに焦っている。飲み比べは焦ったら負けだ。だから実はシルヴァさんはさっきから既に私に負けている。
とうとうシルヴァさんは口元を押さえて外へ出て行ってしまった。私は静かに杯を重ね、ドラゴンさんより1杯多く飲み切ったところで審判のドラゴンさんに勝ち名乗りを受ける。会場中がこの大番狂わせにどよめいていた。
長老が私の元に歩み寄る。
「昔と変わらない、清々しい飲みっぷりだった」
「ありがとうございます」
「次こそは必ず呼んでくれ」
「勿論です」
私は長老に深くお辞儀をした。
皆の元に戻ると案の定質問攻めにあった。
「本当に何ともないのか?」
「平気だよ」
私はお水を飲みながらカイトに返事をする。
「アリサさんはお酒が飲めたのですね」
「はい、ワクです」
ギルバートさんが唖然としている。エリスさんも目を真ん丸にしていた。
「そんなにお酒が飲めるなら、何で僕たちと飲んだ時は全然飲まなかったんですか?」
「お酒を飲んでもジュースを飲んでも変わらないからですよ。それならジュースを飲んでいた方が経済的なので。それにお酒自体あまり好きじゃないんです。安いお酒は消毒液臭くて美味しくないですし、お酒にあんまり良い思い出がなくて。楽しい記憶がないと言った方が良いのかな」
お酒にまつわるエピソードはサリア様より仕様もない話を山と持っている自信がある。
レオンさんも興味があるのか訊ねてきた。
「大酒飲みの人って皆酒好きだと思ってたけど違うんだ」
「そうね。飲み会に行っていくら飲んでも自分は素面みたいに酔わないの、結構辛いのよ」
「そっかぁ、回りが盛り上がっている中それはキツイね」
「でしょ?」
それならはじめからジュースを飲んで素面でいた方がマシだ。
「ひとまずアリサさんもお疲れでしょうから、今日はもう解散しましょう」
オークリーさんが気を使ってくれたのか、ここでおひらきとなった。
次回は今日の23時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




