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77.バジリスクの石化の謎

「申し訳ございません、私は今代のフェアリーアイのアリサと申します」


 長老は目が白く濁っていて焦点が合っていなかった。恐らく私の姿は見えていないのだろう。


「いいや?お前はサリア姫ではないか。耄碌してもワシの目は誤魔化せん」


 長老はフェアリーアイが短命であることや、そもそもサリア様が既に亡くなっていることなどを分かっていないようだった。私は困って思わず介助役のドラゴンさんを見る。視線に気づいたそのドラゴンさんは首をフルフルと横に振った。


(諦めろってことね)


 私は小さく溜息を吐いた。老いたドラゴンに話を合わせるしかなさそうだ。


「…戯れですよ、長老。お久しぶりです、サリアが参りました」

「ああ、ああ、一体何十年ぶりか。お前はワシと和平を結ぶと言ってから全く姿を出さんで、いつの間にかワシはこんなにも年老いてしまったわ!」

「申し訳ございません、大病を患っていたもので。しかしきちんと参りました。私がバジリスクを退治しましょう」

「もう既に5人もやられた。我が子同然の同志が5人もやられたのだ!2人は石になったまま動かない!」


 長老は切実に訴えてきた。それは魂の叫びにも似て私の心を揺さぶってくる。


「7名の方には心からお悔やみ申し上げます。これ以上被害を増やさぬよう万事取り計らいます」

「頼む、どうか頼む。もうお前だけが頼りなのだ。ほとんどの魔物は我らの敵ではなかった。それがあのようなおぞましい魔物がこの世界に存在するとは!ワシは恥を忍んでお前に依頼を出した。お前がまだワシらを見捨てていないのであればどうかあれを打ち払ってくれ!」

「見捨ててなどおりません。必ず打ち払いましょう」


 ドラゴンは長い間世間から隔絶して生きていたせいか、バジリスクの討伐方法を知らないようだった。


「長老、少し休みましょう」


 介助役のドラゴンさんが興奮している長老を抑えてそう言った。長老は促されるままに奥へを連れて行かれ、対話は終了した。



「すまない、嫌な役回りをさせてしまったな」


 長老との話の後、カイトが声をかけてきた。どうやらサリア様の役を演じながら国が放っておいたドラゴンの愚痴を聞かされたことに関して謝っているらしかった。


「カイトが謝ることじゃないよ、大丈夫」


 私は肩を竦めてみせる。別に自分のせいじゃないけど代わりに謝るなんて元の世界の仕事では当たり前で、それにいちいち自尊心を擦り減らすのは馬鹿げていた。サリア様に間違えられるのは多少自尊心が疼くけれど、気にしていたらやっぱり心がいくつあっても足りないので気にしないのが一番だ。

 バジリスクまでの道案内はシルヴァさんがやってくれることになった。どうやら今は犠牲になったドラゴンさんを丸飲みして消化中らしく、蛇のように動かずじっとしているとのことだ。


「ここの崖なら奴を背後から遠目で見ることができる」

「アリサは見ちゃ駄目だ」

「え、ちょっ、何で?」


 不意にカイトが手で私の目元を隠してきたので、色々なことに吃驚してしどろもどろになってしまった。


「フェアリーアイが石化しちゃ困りますからねぇ」


 エリスさんがさも当然のように言ってくる。


「それなら皆さんだって見るの危険ですよ!」

「重みが違います」


 ギルバートさんまでそんなことを言ってきた。


「今回、アリサは討伐から外れてもらう」

「そんな、今までの討伐だって十分危険だったじゃない」

「視線1つで石化してしまうのは危険度合が違うだろう。それにそもそも鏡の大盾を持って突っ込むだけの討伐にアリサを出す必要がない」


 長老の前であんなに自分が討伐しますと見栄を切ったにも関わらず、まさかの戦力外通告だ。


(というかカイトはいつまで押さえているつもりなの!?)


 私は予想外のことが起こりすぎてぐったりしてしまった。


「ん?あれは…」


 カイトが何か反応しているが目元を隠されているので状況が全く分からない。


「どうしたの?」

「もしかしてあれはアマルか?」

「そうだ、よく分かったな」


 シルヴァさんが答えている。


「アマルって?」

「…サリアが助けたファイアドラゴンの子供だ。石化している」

「嘘」


 誰も何も言わなかった。その無言が事実だと告げてくる。和平のきっかけになったドラゴンさんが石化しているなんてそんなやるせない話があるというのか。


「魔物は北山の裏から突如やってきた。尖兵を務めた3人は飛んでいる最中に石にされて落下し粉々に砕けてしまった。地上から仕掛けた4人も石にされたのだ」

「長老は石になったのは2人だと言っていた。目の前の石化しているドラゴンも2人のようだが?」


 カイトがシルヴァさんに訊ねる。


「石化した4人のうち2人は食われた」


 それで長老は5人やられて2人は石化していると言ったのか。


「石になったドラゴンを食べるのか?」

「そうだ」


 シルヴァさんの話だと1人目を丸飲みにした後は1か月近くかけて消化をしたという。今は2人目を消化中で、恐らくもうじき消化が終わり3人目が捕食される頃合いとのことだった。


「石になっても食べられるなら食いっぱぐれる心配はないな」


 レオンさんは先日の馬車の会話の謎が解けたと言わんばかりだった。


「早く片付けちまおうぜ」

「引き延ばしても仕方ないからね」

「そうだな、3人目が食われる前に片付けよう」

「鏡の大盾を準備しましょう」

「アリサは見えない位置まで下がって、ドラゴンと一緒にいてくれ」


 レオンさん、エリスさん、オークリーさん、ギルバートさん、カイトはもう退治する気満々だ。


「ちょ、ちょっと待って!」

「何だ?」


 バジリスクの話を聞いて、私は何かが引っかかっていた。それをすぐに言語化できないのがもどかしい。


「うーんと、バジリスクはなんでわざわざ石化した生物を食べるの?石を食べるなら戦う必要のないそこらへんの石を食べれば良いと思わない?」

「石の栄養素がただの石と生物の石とでは違うんじゃないか?」


 カイトがそう答える。石は石だと思ってしまうが魔法のあるこの世界ではそんなことも起こりうるのだろうか?


「シルヴァさん、石化したドラゴンさんが食べられるところを目撃した方はいらっしゃいますか?」

「私が見たが?」

「どうやって食べていたんですか?」

「どうと言われても、大きく口を開けて丸飲みだ。ああ、ただ毒牙を一度かけてから食っていたな」


 シルヴァさんがとても重要なことを思い出してくれた。それなら私の仮説にも筋が通る。


「アリサ、何が言いたい?」

「もし私の考えていることが正しければ、石化したドラゴンさんを元に戻せるかもしれない」

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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