76.サリア様は如何にして和平に持ち込んだか
※ちょうど良い区切りがなく少し短めです
「サリアはある日、北山付近で偶々手負いのファイアドラゴンの子供を見つけて介抱した。そのドラゴンの子供はお礼がしたいから家に来てほしいとサリアを招待したんだ。人とのいざこざとかよく分かっていないほど幼かったんだと思う。それでサリアは興味本位で招かれることにした」
「勇気あるなぁ」
私なら間違いなくそこで固辞している。それにそんなサリア様に散々忠告したけど聞き入れてもらえず、甲斐甲斐しくついて行っているであろうカイトを想像するのも面白い。
「案の定蜂の子をつついた騒ぎになった。まぁ一応サリアは姫という肩書があったからすぐに襲われることはなかった。でもいきなり姫が棲家に来たら驚くだろう?国の使者だろうかとか、それこそ宣戦布告に来たんじゃないかとか。結局ドラゴンたちは右往左往した挙句、ドラゴンの長老が出張ってきてサリアの対応をすることになった」
サリア様は助けたドラゴンの子供に招かれたことを説明し、子供も釈明してくれたから長老は納得し場も収まった。それで終わるはずだった。
「ところがサリアはもののついでとばかりに「これを機に和平しませんか?」と提案したんだ」
「豪胆ね」
神話時代から続くわだかまりをそんなあっさりと提案するなんて、普通の胆力ではできそうにない。
「長老は当然、長年の因縁をそんな簡単に片付けられるわけがないと言って断った。そしたらサリアは飲み比べをして自分が勝ったら和平に応じてくれと言い始めた。長老は唖然としていたよ。体躯に差がありすぎるし、何よりそんな重要な問題を一国の姫が飲み比べで解決しようとするなんて馬鹿げていると。でもサリアは本気だった。そちらが勝てば問題ないだろうと相手を焚きつけて、本当に勝負をすることになったんだ」
「凄い」
「サリアは気付いていたんだろうな。もう随分とドラゴンの襲撃もなかったし、ドラゴンたちにも和平を望む気持ちがあるということを分かっていたんだと思う。ただ長年の確執が凝り固まって、振り上げた拳の降ろす先が見つからなくて困っていたから、そんな勝負を吹っ掛けたんだ」
破天荒な行動の裏には鋭い洞察力があったということか。
「それで勝ったの?」
「ああ。サリアは驚くほど酒に強かった。ドラゴンの長老相手にも初めから負けるつもりでなんか挑んでいないよ。勝負がついたあと流石に心配になって声をかけたんだが、ケロッとしていた」
私は面白くて笑ってしまった。
「全然仕様もなくないじゃない」
「そうか?」
「だってそれでちゃんと勝って和平しているもの」
カイトは渋い顔をした。きっともっと素敵なサリア様を知っているからこそ、この話が仕様もない部類に思えるだけで、私からして見たらこの話だって十分サリア様の魅力が伝わってくる良い話だと思う。
(やっぱりサリア様は凄い)
サリア様は私が聞くお話の断片だけでもとても魅了されてしまう女性だ。カイトの心を掴んで止まない理由も頷ける。私の唯一の救いは、私もサリア様のことが人として好きで、とても尊敬していて、この人には勝てないなと思えることだろう。
2日の道程を終えて北山の麓まで到着し、そこで1泊した。翌朝、私は朝日に照らされた北山を見て吃驚した。屹立した山並みは岩肌が見えており、ほとんど禿山に近い。山に入ろうとしたらドラゴンたちにすぐバレるだろう。天然の要塞といった感じで、ここを棲家にしたのも頷ける。
「これ登るの?」
「迎えが来るはずだ」
カイトが答える。その言葉通り、少ししたら山の上の洞穴からドラゴンが3人、麓に向かって降りてきた。ちなみにこの世界ではドラゴンを何人と数える。妖精人であった頃の名残だ。
私はゲームのボス級のドラゴンを想像していたのだが、間近で見るとキリンくらいの大きさだった。翼を広げるともっと大きく見えるが閉じていると比較的コンパクトに思える。しかし見た目は想像通りのドラゴンで、爬虫類のような固い鱗に鋭い爪と牙、蝙蝠のような翼の見た目は失いかけていた中二病心をくすぐってくる。体表の色はファイアドラゴンなら赤色、アイスドラゴンなら水色といったように使える属性魔法と体表が対応しているようだ。
リーダーのような凛々しいアイスドラゴンさんが話しかけてきた。
「お前が今代のフェアリーアイだな」
「はい、アリサと申します」
「私はシルヴァ。確かにサリア姫によく似ているが違うようだ。まぁ良い、長老が待っている。さっさと全員乗れ」
2人ずつ分かれてドラゴンの背に乗ることになった。私はカイトと乗ることになったけれど、鞍もない上に爬虫類のような体表なので滑り落ちそうで怖かった。ちなみに荷物類はドラゴンさんたちの後ろ脚に引っかけてもらっており、箒も預けてしまったので猶更落ちたらどうしようと不安だった。正直ドラゴンに乗るくらいなら箒で飛んだ方がよほど楽である。
「私、やっぱり箒で後を追うよ」
「ドラゴンの背に乗る機会なんてそうそうないから、せっかくだしこのまま行こう」
「でも、落ちそう」
「俺も支えているし、しっかり捕まっていれば大丈夫だ」
カイトはほとんど私を抱えるようにして落ちないように固定してくれていた。それは大変有難いのだが、密着度合が半端じゃない。でもそんなことに構っていられないほど乗り心地も悪い。落ちても着地の魔法があるから大丈夫だと自分に言い聞かせても恐怖心が拭えなかった。自分の魔力で乗るのとは何かこう安心感が全然違うのだ。
様々な外的ストレスに対して私は目を瞑り心頭滅却してやり過ごす。程なくしてドラゴンたちの棲家である洞穴に到着した。中に入るとエントランスのような広場になっていて、そこからいくつか奥に続く通路があった。恐らくその通路が各ドラゴンたちの部屋に繋がっているのだろう。
入った広場には苔むしたアースドラゴンさんが介助役を伴って待っていた。このドラゴンさんが長老で間違いなさそうだ。
私は早速長老と話をすることになった。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
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