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75.北山からの討伐依頼

 風邪が治って王都に戻り少しした頃、私とカイトは連れ立って国王陛下の執務室に呼ばれていた。2人一緒に呼ばれることは珍しい。


「北山にバジリスクが出た」


 陛下は開口一番そう言ってきた。


「北山ってドラゴンが住む場所でしょうか?」

「そうだ」


 神話では妖精人と呼ばれていた種族が他の4種族を陥れた罰によって女神イヒネイカにドラゴンの姿に変えられ、納得できなかった彼らは急峻な北山に住み着いているとのことだった。


「バジリスクは恐ろしい魔物だが古くから討伐方法は確立されているから、本来お前を派遣するほどではない」


 バジリスクと言えば猛毒の蛇だったはずだ。毒牙は勿論のこと、全身に毒を持ち、移動した道は毒に冒され、喉を潤した泉や川は汚染されるか干上がり、その吐く息でさえ猛毒で草木は枯れ、石は砕けるという。そしてその蛇と目があったものは石化して死ぬ、あるいは驚きのあまり心臓が止まって死ぬと言い伝えられている恐ろしい怪物だ。しかし弱点もあって、鏡に移った自分の視線で石化して死んでしまうし、雄鶏の鳴き声を聞くと逃げ出すし、イタチの最後っ屁はバジリスクにとっては猛毒である。きっと似たような討伐方法があるのだろう。


「しかし依頼をして来たのがドラゴンというところが少し厄介だ」

「サリアですか」


 カイトがそう言った。私はいきなりサリア様の名前が出てきて困惑してしまう。


「どういうことでしょうか?」

「混沌が襲撃する少し前、ちょうど今時期だったな、サリアはドラゴンと和平を結んでいた」


 神話の話だと姿を変えられたドラゴンは4種族や神々を憎しみ、時折4種族を襲撃に来ると言われていた。ただもともと5種族は兄弟であり、他の4種族はいつの日かドラゴンの負の感情が和らぎ、また5種族が仲良く暮らせることを夢見ていたのだ。和平が本当ならサリア様は偉業を成し遂げていたことになる。


「サリアは和平の証に、その年の秋に行なわれる収穫祭にドラゴンを招いていたのだ」


 収穫祭は国を挙げてのお祭りらしく、全国民が各地域でその日にそれぞれ豊穣の祝いとして盛大にお祭りを開く習わしになっている。王都も勿論例外ではないので、その催しにドラゴンを誘致していたとのことだった。


「だが結局、混沌の襲撃でその年の収穫祭は立ち消えになった。そればかりか仲立ちになっていたサリアもいなくなり、ドラゴンとの関係は宙に浮いてしまっている状態だ」

「ドラゴンの襲撃はそれからあったのですか?」

「いや、ない。それに今回はドラゴンの長老から依頼がきたから、敵対心は既に無くなっているものと思われる。内容としてはバジリスクを倒してほしいというものだが、その時にサリアを派遣してきてほしいと言われてな」

「はい」

「長老にサリアはいないと伝えたところ、今代のフェアリーアイを派遣してほしいと要望されたのだ。正直長老が何を考えているのかは分からないが、こちらとしてもドラゴンとはなるべく波風立てないようにしたい。様子見含めて討伐に行ってくれないか?」


(今回は討伐よりも宙に浮いた関係性についてドラゴン側がどう思っているのか探りを入れてこいってことね)


 ドラゴンの長老がサリア様から私に指名を代えてきたのは謎だが、まぁ代用品とでも思われたのだろう。


「承知致しました」

「そしてもし和平の話が消えていないのであれば、今度の収穫祭に参加するように約束を取りつけてはくれないだろうか?ドラゴンとの和平はサリアの悲願だったのだ」


(サリア様のやり残したこと、心残りか)


「善処致します」


 こうして私たちは北山の地に赴くことになった。



 北山は国の北端に位置し、王都から馬車で道程2日の距離だ。私はまた馬車に揺られながらカイトにあれこれ質問を重ねていた。


「バジリスクってどんな魔物なの?」

「巨大な毒蛇だ。毒牙にかかれば治癒魔法をかける間もなく即死する」

「全身に毒を持っている?猛毒の息を吐くとか?」

「全身に毒はないが、猛毒の息は吐く。その息は草木も枯れるし石も砂になってしまう」

「じゃあ目があったら石化する?」

「する。詳しいな、アリサの世界にもいたのか?」

「いや、口承伝承で伝わってきているだけ」


 というか空想上の産物である。本当は砂漠にいたコブラのことを指しているのではないかと言われており、話に尾ひれがつきすぎて恐ろしい化物と化しているだけだ。


「討伐方法は?」

「鏡を利用して視線を反射させることでバジリスク自身を石化させるんだ。今回の荷積みの中には鏡の大盾を持ってきている」


 やはり鏡が利用されるらしい。


「何でバジリスクは石化させちゃうんだろうね?」

「え?」

「だって石化させたらせっかくの獲物が食べられなくなるから勿体でしょ?毒牙を持っているならそれだけで十分捕食ができるはずなのに、どうして石化させちゃうんだろう?」


 カイトが答えに窮していると、横からオークリーさんが返してくれた。


「石化攻撃は捕食のための手段ではないのではありませんか?例えば大勢に囲まれた時に石化攻撃があると逃げやすいでしょうし」

「ああ、なるほど」

「でもせっかくの獲物だと思って飛び掛かろうとした時に目が合って石化したら食い損だよな」


 レオンさんの言うことも最もだと思った。


「獲物を狩るときは目を閉じるとか」

「基本蛇だからバジリスクも目を閉じないはず」

「蛇は目蓋がないんだっけ」

「そう」


 代わりに透明な鱗で目を守っている。

 結局この話は謎のまま終わった。古くから討伐方法が確立されているということだったし、恐らくバジリスクの生態研究なんてニッチなことはやっていないのだろう。私は代わりにカイトに気になっていたことを訊ねた。


「ねぇ、話変わるけど、サリア様はどうやってドラゴンと和平したのか聞いても良い?」

「良いけど、別に大したことはしていない。というかサリアの話の中ではかなり仕様もない部類に入るけど聞くか?」

「何それ、むしろ気になる」


 サリア様の話に仕様もない部類が存在するというのか。

 私に催促されたカイトはサリア様のことを語り出した。

次回は今日の20時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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