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72.信を得る

※バトルシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

※虫の描写があります。苦手な方はご注意ください。

 カイトに案内された先にはプールサイズの大きな露天風呂があった。


「凄く広いね」


 この量だったら全員に散布できるだろう。


「他の皆は?」

「他の兵団と外で待機中だ。アロマ水が散布されたら一斉に出て行って討伐する。俺も行くから5

分後に始めて欲しい」

「分かった」


 露天風呂の柱に時計がかかっていたので、カイトが立ち去って5分経過したことを確認してから私は箒に跨る。そして魔法でアロマ水を巨大な水球にして、施設の外に持ち出した。水球を先導するように飛んで、劇場の上空に位置づける。


(風魔法は必要なさそうだわ)


 遠くの方まで散布するなら風に乗せた方が良いと思っていたが、操られた人々は劇場付近に固まっていたので、そこまでしなくても良さそうだった。


「エクリクシー―爆散せよ―」


 私は巨大なアロマ水の塊を内側から爆発させた。その勢いで水が同心円状に散らばってアロマ水の雨のように人々に降り注ぐ。操られている人々の首元から次々と黒いフェアリーが落ちていった。

 潜みながら回りを取り囲んでいた兵団の人たちは、それを合図に前に進み出る。奇跡兵団の人たちが暴きの魔法をかけて子蜘蛛が露わになると他の兵団員たちが魔法や剣で次々と倒していった。自由になった兵団の人たちも戦いに加わっているようだった。


「ブロヒフォトス―光の雨―」


 人に当てないよう注意を払いつつ、私も手薄な部分を中心に光の欠片を放って援護する。宿主を失った子蜘蛛自体は非力なため今は一方的に蹂躙している状態だ。子蜘蛛の数はまだまだいるが、これを続けていれば問題なく掃討できるだろう。


(ん?何?)


 ところが、子蜘蛛を隠している黒いフェアリーたちが一斉に不審な挙動を取り始めた。それまで地面で這いつくばっていたはずなのに、いつの間にかフワフワと飛び始めたのだ。しかもはじめはバラバラに飛んでいた黒いフェアリーたちはいつの間にか私の下に集中してきているようだった。


(何が起きているの?)


 私は思わずやってしまった。


「エクテーシー―暴け―」


 激しく後悔したのは魔法を使った後だ。それまで黒いフェアリーという天然のモザイクがあったから対応ができていたものの、暴きの魔法によりその全容が見えてしまった。こぶしほどの大きさもある夥しい数の蜘蛛がお尻から糸を飛ばして風魔法に乗って下から私を狙ってきていたのだ。どうせみんな忌避剤臭いならフェアリーアイを乗っ取ろうという魂胆なのだと唐突に理解する。理解はしたがそのあまりにも気持ち悪い光景に私は絶叫してしまった。


「ぃいいいいやぁああああああ!!!!来ないでぇええええええ!!!!」


 今まで蓄積していたもの含めて、ストレス値がここで限界を迎えてしまった。


「バラメガリフローガ!!!!―大業火炎球―」


 地上の人たちを巻き込まないよう子蜘蛛たちにだけ狙いを定め、私は高火力の火魔法を放つ。明らかにオーバーキルなのだが、「子蜘蛛、滅すべし!」という私の切なる気持ちが表出した。しかしこれで結果的に全ての子蜘蛛を一掃することが出来たから結果オーライか。

 私は落ち着きを取り戻すために劇場の屋根に着陸した。足に力が入らなくてそのまま頽れる。


(こ、怖かった……)


 あの大量の蜘蛛に身体中を這われていたかもしれないと想像するだけで鳥肌が立った。


(とりあえず立てるようになるまでここにいよう)


 もう何だか色々疲れたので仰向けになって空を見上げる。大分時間が立っていたけれど日はまだ落ちていなかった。


「アリサ?怪我でもしたのか?」

「わっ!吃驚した!」


 私は飛び起きた。劇場はヨーロッパのオペラとかを公演していそうな重厚感のある建物で、屋根伝いにも来れそうにない場所だったので、まさか誰かが来るとは思っていなかったのだ。


「カイト、どうやって登ってきたの?」

「オークリーに足場を出してもらった。で、怪我は?」

「していない」

「立てるか?」

「それが……」


 蜘蛛が怖くて腰が抜けたなんて恥ずかしいなと言い淀んでいると、カイトはしゃがんで目線を合わせてきた。


「蜘蛛、そんなに苦手だったのか?」

「なっ!もしかして」

「まぁあれだけ叫んでいたら聞こえる」


(うわぁ、穴があったら入りたい!!)


 私は両手で顔を覆って悶絶した。あんな大絶叫を王都中の人々に聞かれているなんて羞恥心が半端じゃない。

 私が嘆いていると、頭をポンポンと優しく叩かれた。


「そんなに苦手なのによく頑張ったな」


(ああもう本当嫌になるくらい優しいんだから)


 不意にそういうことをしてくるから泣きそうになるし勘違いしてしまうのだとクレームを入れたかったが、グッと堪える。そういうカイトの優しさに助けられてもいるし、甘えている自分もいるから厄介なのだ。


「虫とか蜘蛛とかムカデとかああいうの凄い苦手なの」

「うん」

「こぶし大の蜘蛛なんて初めてみたわ」

「そうか」

「あんなに沢山いたから気持ち悪くて鳥肌立ったし」

「うん」

「あのね、笑わないで聞いてほしいんだけど、いま吃驚しすぎて腰抜けちゃって立てない」

「分かった。じゃあアリサが立てるようになるまでここにいる。担いで戻っても良いんだが、それじゃきっと格好がつかないだろうから」


 カイトは隣に腰を下ろした。


「どういうこと?」

「皆下でアリサのこと待っているんだ」

「なんで?」

「今日の1番の功労者だから」


 私はよく分からずに首を傾げた。カイトはそんな私を見て苦笑いした。


「子蜘蛛の正体の看破、避難の手助けと治療、子蜘蛛の討伐。王都中パニックになったが今日の死者は0だ。空を飛ぶフェアリーアイの機動力に誰もが驚いていた。地方の連中もアリサの戦いぶりを見て感心していたし、奇跡兵団の奴らももう君のことを悪く言えないと思う」


 図らずもこの王都の襲撃を上手く治めたことで、私に懐疑的な人たちの心を懐柔することが出来たというわけだ。


「そっか。それは良かった」

「アリサは本当によく頑張っているよ。まだこっちに来て半年も経っていないのに」

「ふふっ、ありがとう」


 カイトに褒められると嬉しい。


(やっぱり私、好きなんだな)


 誰にも言わないから、この気持ちに諦めがつくまで好きでいさせてほしいと思った。



 話しているうちに、足に力が入るようになってきた。


「立てそう」

「良かった。じゃあ行こうか」


 カイトは立ち上がると当然のごとく手を差し伸べてきたので、私はその手を取って立ち上がる。屋根の端まで来ると、皆こちらに気が付いたようで見上げてきた。軒先の人たちは私たちが降りる場所を確保するために少し避けてくれた。私とカイトは手を繋いだまま屋根から飛び降り、魔法で着地をする。

 その後は色々な人に労いや感謝、応援の言葉などをかけられた。皆頼りないと思っていた私を見直したような感じである。私もそうやって声をかけられて認められるのは素直に嬉しいし、頑張ろうという気になった。


「現金な奴らだよな。アリサさんは地方の討伐でも成果を上げているのに、こうやって自分たちの目の前でアリサさんの実力を見ないと信じられないなんて」


 包囲を抜けた後、レオンさんが不服そうにボソッと呟いた。


「レオンさんありがとう。でもそういう人たちの気持ちも分かるし、結果的にこうやって丸く収まったから良いんじゃない?」

「アリサさんは優しすぎ」

「そうかなぁ」

「そうだよ。もっと主張した方が良いよ」

「が、頑張る」


 紆余曲折はあったものの、こうして二度目の王都襲撃は無事に幕を閉じたのだった。

ここまでご覧いただきありがとうございます!第3章完です!

次の第4章は起承転結の転に入ります。物語が大きく動きます。

少しでも気になった方は評価・ブクマ登録等ぜひよろしくお願いしますm(_ _)m

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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