70.その切っ先が首に
※バトルシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
※虫の描写があります。苦手な方はご注意ください。
親方!空から男の子が!なんて思ったけれど、そんな甘くて心躍るロマンティックな展開ではなかった。カイトは剣を振り上げて、今まさに私の頭をカチ割らんと落下してきていたのである。
「アミナフォトス―光の防御―」
防御魔法を張ったのと剣がガキンと凄まじい音を立てたのは同時だった。奇襲に失敗したカイトは飛び退る。よく見たらボロボロの姿だった。
「後ろ!オークリーの石礫!」
「ティコスパゴス―氷の壁―」
カイトの助言を受けて私は魔法を使う。光の防御は万能で使い勝手は良いが多弾攻撃に脆いため、自分の背側に氷の防御を生成した。
「カイト、ごめん!」
そして光の防御が壊れた瞬間、私は吹き飛ばしの風魔法でカイトを思い切り後ろに吹き飛ばす。後続にレオンさんがいたのでカイトとぶつかって一緒に吹き飛ばされていた。
「ベロスブロビー―雷の矢―」
「ベロスフォトス―光の矢―」
右の屋根からはエリスさんの雷攻撃が、左の屋根からはギルバートさんの光の攻撃が襲ってきたが、視認できていたのでまた光の防御を張ってやり過ごした。
(囲まれた)
後ろの屋根にはオークリーさんがいて、同じ屋根伝いの前方にはカイトとレオンさんが、左右の屋根にはギルバートさんとエリスさんがいる状態だ。そして皆致命傷こそ受けていないものの、身体のあちこちに切り傷や擦り傷、火傷などを負っており、何とも痛々しい姿だった。
「アリサ、俺たちのことは良いから早く逃げろ」
皆カイトと同じようなことを異口同音に言ってくる。実際数の利を取られている上、あちらは戦闘のプロなので勝ち目はない。逃げたいのは山々だが、しかし中傷人を置いていくのも憚られた。
「シングラティシークラディ―枝葉の拘束―」
後ろにいるオークリーさんからの攻撃だった。どうやら考えている時間もなさそうだ。だったら自分のしたいようにしようと思った。私は足元を搦めとろうとしてくる樹木から走って逃れ、屋根の左側から飛び降りる。カイトとレオンさんが後を追ってきた。しかし私は地面には着地しなかった。
「プティシー―飛行せよ―」
飛ぶのにも慣れた私は、無属性魔法の浮遊魔法と推進力の風魔法をかけ合わせた飛行魔法を編み出していた。箒に乗ったらほとんどタイムラグなく浮上とスピードに乗ることができる。私はその勢いのまま左の屋根にいたギルバートさんに突っ込んだ。
ギルバートさんが居合の姿勢を取る。私は怯まなかった。飛行のスピードを殺さず真正面から向かっていき、最後の瞬間に箒から飛び降りてギルバートさんの胸に飛び込んだ。
「っ!!」
ギルバートさんは多分一瞬躊躇ってくれたのだと思う。私は躊躇わなかった。その子蜘蛛の命令に抗ってくれたほんの刹那の間に、私は剣の柄部分を膝で押さえて抜刀を防ぎ、慣性の法則に従って思いきり彼を押し倒した。
「ギルバートさん、ごめん!」
そう言うや否や私はポケットからさっき拝借してきた液体をギルバートさんに少し振りかけた。少しすると子蜘蛛はギルバートさんから離れたので魔法で倒した。
「アリサさん、これは?」
原液を振りかけたので強烈な匂いが漂っていた。ギルバートさんが顔を顰めている。
「説明はあとで!一旦逃げましょう。乗ってください」
私は箒を拾ってギルバートさんを後ろに乗せるとその場から避難した。4人の追撃からは何とか逃れられたようで、はるか上空の安全圏に避難をする。治療もしようと思っていたのだが、気が付いたらギルバートさんは自分で治療を終えていた。
「これは、アロマオイルでしょうか?」
「そうです。今振りかけたのは柑橘系の匂いで、蜘蛛が嫌がる匂いなんです。原液いきなり振りかけてすみません。被れないと良いんですけど」
ちなみに他にもハーブ系、ミント系、カフェインの匂いを嫌う。これらの匂いは忌避剤として用いられ、スプレーをすると蜘蛛が寄り付かなくなる。アロマオイルも本当は希釈してスプレーするのだが、今はそんな余裕がなかったので原液を振りかけた。しかし効果は覿面だった。これを希釈してみんなに振りかければ子蜘蛛は吃驚して一斉に身体から離れるだろう。これで一気に討伐できるはずだ。
私があの時狙われなかったのは事前にハッカオイルのお風呂に浸かっていたからだろう。他にも身なりの良い人たちや女性は香水などを使う機会があるが、一般男性や兵団の人たちは普通の日に使うことは少ない。この世界は風呂が発達しているので体臭を隠す必要もないし、こういう嗜好品は値が張るので、夏場の汗ですぐに落ちてしまうこの時期に何でもない時や職場につけていくのはよほどの洒落者でない限りはしないだろう。
私はギルバートさんに子蜘蛛の能力や特性など今までの情報を全て共有した。
「状況は分かりました。僕を真っ先に開放したのも光属性が使えるからですね」
「はい。他4人も開放したいのですがご協力頂けますか?」
「勿論ですが、何か策がおありなのでしょうか?」
「策と言うほどのものではありません。あの子蜘蛛たちは私をああやって追ってきますから、ギルバートさんは1人ずつ拘束して自傷行為をさせる前に子蜘蛛を取って倒してください」
「畏まりました」
子蜘蛛たちは宿主が拘束されることにあまり危機感がないので、比較的簡単に拘束することができる。
「では、先に誰か1人を開放して治療と状況説明をします。その後手分けして操られているもう2人を僕たちが相手しますので、アリサさんは残った1人の解放をお願いできますか?」
「分かりました」
2人で簡単に打合せした後、ギルさんを手近なところで下ろして作戦を開始した。
私はまた先ほど襲われた場所に飛んで向かう。操られた4人は私を見つけるとまた攻撃態勢に入った。
「構うなと言ったのに」
カイトが顔を歪めて言った。
「中傷人を放っておくわけにはいかないわ」
目の前で苦しんでいる人を助けたい。魔物討伐に関わる際密かに決めた自分の目標である。ボロボロの彼らは痛苦に耐えている。放っておくのは自分のポリシーに反するのだ。
会話はここで終わり、子蜘蛛たちの攻撃が始まった。私は皆の魔法効果範囲のギリギリ外を飛び、射出系の魔法以外はさせないよう注意を払った。光の防御魔法をつけながら飛んでいるので突風にも煽られない。子蜘蛛たちは私を落とそうと夢中になって攻撃をしてくるが、縦横無尽に飛べる私はその手の魔法では捉えられなかった。
その間にギルバートさんはオークリーさんに狙いを定めたようで、鮮やかな手口で後ろから拘束し子蜘蛛を退治していた。私がフェアリーアイの力を最大限引き出せていないように、寄生された人間のスペックが高くとも、操縦者のスペックが追い付いていないことにはどうしようもないのだ。
ギルバートさんはオークリーさんに治療と説明をしている間にも私は3人を上手く引き付けた。最近囮役が板についてきたなと自分でも思う。手早く打合せが終わったようで、ギルバートさんはレオンさん、オークリーさんはエリスさんの背後に回っているのが上空から視認できた。
(私はカイトか)
ギルバートさんとオークリーさんがそれぞれ襲撃し始めたのを見計らい、私も屋根の上にいるカイトに拘束魔法をかけた。
「シングラティシーフォトス―光の拘束―」
カイトの上半身と足首に光の輪が現れて、あっという間に拘束することができた。やはり子蜘蛛は宿主が拘束されることに全く頓着していない。しかも宿主が拘束されている間は自傷行為しかしないので、私は防御魔法を解いて討伐のために急降下する。しかしここでアクシデントが発生した。カイトが足場にしていた屋根には傾斜がかかっており、拘束したことでバランスを崩し屋根から転落しそうになっていたのだ。
「カイト、ごめん!」
私はカイトが屋根から落ちないよう拘束を解く。
「何で拘束を解いた!」
珍しくカイトが語気を荒げていた。私は何故怒られているのか分からなかった。
「だって落ちる」
「駄目だ!離れろ!」
そう言った瞬間カイトは右手を剣の柄にかけ、抜刀の姿勢でこちらに大きく跳躍していた。
(この距離で?)
急降下していたとはいえ、屋根との距離はまだあるはずだった。しかしカイトはそんな距離をものともせず一足飛びに近づいてくる。
(あ、殺される)
私はあまりに素早いカイトの動きについていけなかった。
「止まれぇええええええ!!!!」
カイトが叫び声を上げる。抜刀された剣の切っ先がキラリと光ったかと思うと、私の首元めがけて綺麗な軌道を描いた。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




