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69.市中蜘蛛パニック

※バトルシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

※虫の描写があります。苦手な方はご注意ください。

 操られた騎士兵の男性は私ではなく自分自身に向かって火魔法を放っていた。


「ああああ!」

「ラディステネロー―水をかけろ―」


 私はすぐに鎮火したが、いきなりの自傷行為に呆然としてしまう。


「バラフォトス―火の球―」

「バラネロー―水の球―」


 再び火の魔法を詠唱し始めたので私はすぐさまこれを打ち消し、素早く男性に近づいた。そして箒の柄で子蜘蛛を首から引き剥がしにかかる。


(ああ、気持ち悪い!!)


 直接触っているわけじゃないのに柄から伝わってくる子蜘蛛の感触がある。それに柄に張り付いたまま登って来るんじゃないかとか、飛び掛かって来るんじゃないかとか、節足動物が嫌いな人間はとにかく色々嫌な想像をしてしまうのだ。幸い子蜘蛛はすぐにコロンと石畳に落ちた。すかさず魔法で止めをさす。箒の柄や足裏で殺す度胸は私にはない。

 それが終わると光の拘束を解いて火傷を負っている男性を治療した。


「すみません、大丈夫ですか?」

「ああ、助かりました」

「なんで自傷なんか」

「分かりません。 自分の意識も残っていましたが身体は言うことを全く聞きませんでしたし、魔法を使う瞬間は乗っ取られていました……ああでも、もしかしたら拘束を解きたかったのかもしれません」

「拘束を解くためですか」


 寄生者の子蜘蛛は拘束から抜け出すために宿主の人体を全く省みず自傷行為をするということか。


「はい、あるいはあのように自傷行為をしたら拘束が解かれる可能性があるということを学習しているのかもしれません」

「なるほど」


 子蜘蛛にとって宿主の人は操る武器であり人質なのだ。下手にこちらから攻撃することもできないし、拘束をしても自傷行為に走られてしまうとなれば拘束を解くしかない。人の意識を残しているというのも非常に厄介でやりづらい。苦痛に顔を歪める人など誰も見たくはないのだ。

 騎士兵の治療が終わったのでこの人とはそこで別れた。私は空を見上げる。先ほどまで綺麗だと思っていた空には無数の黒いフェアリーが不自然にフワフワと漂っていた。


(子蜘蛛が飛んでいるんだ)


 蜘蛛は糸を上手く使って、まるでタンポポの綿毛のように遠くまで飛行するという。そしてそれはどうやら親蜘蛛の方から漂ってきているみたいだった。


(まずは操られる人を最小限にしないと) 


「リピアネモ―突風よ吹け―」


 私は箒に乗って王都中を飛び回りながら、空中に漂っている子蜘蛛を風魔法で親蜘蛛のところまで追いやっていった。1匹ずつなんて対応しきれないのでまとめて駆除をする算段だ。王都の北側のお城付近から南側の親蜘蛛のところまでなるべく取りこぼしのないように丁寧に子蜘蛛をまとめていく。もう良いかなと思ったところで初めて私は倒れている親蜘蛛の背中を見た。


「う…わ……」


 絶句した。親蜘蛛の背中は黒いフェアリーで敷き詰められ、蠢いていたのだ。今は認識阻害魔法で黒いフェアリーしか見えていないのがむしろ不幸中の幸いだった。この天然のモザイク加工がなければ私は失神していたかもしれない。

 また飛ばれても困るので私は早々に処理をすることにした。


「メガリフローガ―大業火炎―」


 親蜘蛛も子蜘蛛も一掃するため高火力かつ広範囲の火魔法を使って一気に蜘蛛を丸焼きにしていった。ここはこれで大丈夫そうだ。問題は散らばり寄生してしまった子蜘蛛の駆除だった。


(子蜘蛛は私を見ても宿主を乗り換えようとはせず、あくまでも宿主を操って攻撃を仕掛けてきた)


 自分を囮に使っても宿主とは引き剥がせそうにない。何か別の方法で宿主から子蜘蛛を離す必要がある。しかも既にかなりの人が操られているように見えた。これを1人ずつ引き剥がしていくなんて時間がどれだけあっても足りないので、まとめて引き剥がす良い方法を考えなければならないだろう。


(でもまずは避難勧告かな)


 操られていない町の人たちは一様に同じ方向に逃げていて、兵団の人たちはその町の人たちの援護と誘導をしているようだった。私は比較的余裕のありそうな魔法兵団の人に話しかけることにした。


「すみません!皆さんどちらに誘導しているんですか?」

「緊急避難場所に設定されている北側の劇場だよ。それよりも今何が起こってるか分かるかい?」

「子蜘蛛が人の首元に寄生して操っているんです」


 手短に私の持っている情報を全て共有した。


「そうか分かった。君は援護と誘導が間に合っていない場所に行って手伝ってくれ。その子蜘蛛の情報は皆の役に立つはずだ。俺もできる限り皆に共有していく」

「分かりました」



 私は防戦一方で膠着状態に陥っている場所を見つけては状況を説明し援護した。といっても操られている人は大抵私を狙って来たので、上空から引き付けている間に逃げてもらうだけで良かった。制空権を取るということは本当に偉大なことである。

 怪我人がいれば治療をしてから誘導し、操られている人の中でも怪我が酷い人がいたら各個撃破して治療を施していった。


 その避難援護中、ふと気になることがあった。町民の中では比較的男性の方が操られている気がしたのだ。あとは兵団の人たちも多く操られていた。逆に身なりの良い人たちは男女構わずあまり操られておらず避難に加わっていることが多かった。


(何の差だろう?)


 そう言えば何故あの時、私ではなく騎士兵の男性が寄生されたのだろうか。フェアリーアイとして狙われていないわけではないのに、あの時私は宿主には選ばれなかった。宿主として私は不十分だったのだろうか。それとも性差に何か関係が?しかし操られていない男性もいれば操られている女性もいる。単なる偶然か。


 そして避難勧告も終わりの時、偶々とあるお店の看板が目に入った。


「あ!そうか!」


 私はピンと来て思わずそのお店に入る。避難しているため勿論誰もいない。


(緊急事態だから許してください)


 火事場泥棒のようだが、後でお金は支払いますし謝罪にも来ますと内心謝りながらその店の商品を数本ポケットに入れた。


(あとは本当に効くか検証しなきゃ)


 これが当たりなら子蜘蛛を一斉に引き剥がすことができる。

 意気揚々と店を出た。この辺りは南側に近く、操られている人も北側の劇場を目指しているため人が少なかった。私は屋根よりも少し上くらいの高度を保ちながら、残りの子蜘蛛討伐について思索に耽りながら空を飛んでいた。要するに油断していたのである。


「っ!!」


 突然横から強風に煽られた。完全に不意を突かれた私はそのまま吹き飛ばされる。


(やばい、尖塔の壁にぶつかる!)

「リスミスティス―緩衝となれ―」


 すんでのところで魔法が発動し、壁への激突は免れた。私は地面が恋しくなってヨロヨロと近くの屋根に不時着する。


「危なかった…」

「アリサ、避けてくれ!!」

「え?」


 空からカイトが降ってきた。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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