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68.襲撃はいつも突然

※バトルシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

※虫の描写があります。苦手な方はご注意ください。

 ここ数日は派遣要請もなく、私は暇を持て余していた。カイトたちは仕事で城下町の警備に駆り出されている。というのもパーティーに参加した人達は城下町に宿泊しており、パーティー終了後も何日か観光してから帰るため、警備を手厚くしておく必要があるのだ。お城には泊めないんだなと思ったが、考えてみたらあれだけの参加者を泊めるほどの宿泊場所がないし、それに城下町に泊まってもらう方が経済が潤うのでそうしているのだろう。

 私はといえば、昼間からお風呂に入っていた。


(朝でも夜でもない、日の高いうちから入る風呂って何でこんな贅沢なんだろう)


 これは恐らく他の人たちが働いている時間に入っているからこその特別感だ。罪悪感がないわけではないが、私だってここ1か月ずっと忙しかったのだから今日くらいこんなプチ贅沢を味わったって文句は言われないはずである。混沌との戦いの憂いが晴れたわけでもないが、それにばかり拘泥していても神経が擦り減ってしまうし、現状できうる限りのことはやっている。今はしばし休息の時だ。

 まだまだ暑い夏の盛りだったのでぬるま湯に浸かっていた。しかも今日はそこにハッカオイルを数滴垂らしている。清涼感のある良い香りが心地よく、贅沢気分に拍車がかかっていた。


「はぁ、気持ち良い」


 一生浸かっていたい、そう思っていた時だった。


カーンカーンカーン


「嘘、でしょ?」

(誰か嘘だと言って)


 私の聞き間違いでなければあれは王都の警鐘の音だった。

 その時、風呂場の扉がノックされた。リリアンさんだ。


「失礼致します、アリサ様。大至急お上がりくださいませ。王都が襲撃されております」


 鬼気迫った声だった。


「はい…分かりました……」


 こうして私の豊かな時間は終わりを告げた。


(何も入浴中に来なくたって良いじゃない!)


 私はプリプリしながらバスタオルで身体を拭く。いつ来るか分からないのが緊急事態。そう分かっていてもやはりもっとこうタイミングってものがあるんじゃないかと思う。

 髪はいつも魔法で温風を生成して乾かしているのだが、そんな時間はないのでタオルドライで手早く済ませた。夏場だし外に出たらあっという間に乾くだろう。さっさとインナーをつけ、先ほどリリアンさんが入口に置いてくれた制服を着て風呂場を出た。


「南の方からの襲撃です」

「分かりました」


 南の島から帰って来た後にマイ箒を購入していたので、それを携えて窓から飛び立った。


(カイトたちと合流する?でも場所分からないし)


 そう言えばこういう緊急事態にどう対処するのかは特に打合せしていないので、どうするのが1番良いのか分からない。とにかくまずは現場に急ごうと思った。

 お城の城壁を越えると、はるか遠くにある王都の南の城壁に大きな蜘蛛の魔物がいるのが見えた。この距離から肉眼で確認できるので相当大きい蜘蛛だ。


「うわ、蜘蛛」


 私は思いっきり顔を歪めた。節足動物は全般苦手である。生理的嫌悪感が強い。大学生時代に木造アパートの1階部分に住んでいたのだが、蜘蛛やらGやらカマドウマやらゲジゲジやらが時折出るともう大騒ぎだった。特にGとは激戦だったがあれは思い出したくもない。生まれてこの方ムカデやヤスデにはまだお会いしたことはないが、万が一出くわしたら昏倒するのではないだろうか。

 しかしよく見たらその大蜘蛛の頭には大きな氷柱が突き刺さっていて、魔物は動いていなかった。


(良かった、私が準備している間に討伐終わっていたみたい)


 あの大蜘蛛を相手にしなくて良いことにほっと胸を撫で下ろす。まぁ念のため駆け付けましたよとアピールするために現場には向かおうと思う。討伐は終わっていたのでのんびり飛行した。今日は快晴だ。夏の空は開放感があって良い。あとは暑くなければ尚良いのにとどうでも良いことを考えた。

 ところが、町に近づいてみると様子がおかしかった。討伐が終わっているはずなのに人々が逃げ惑っている。緊迫した雰囲気がまだ解けていなかった。


(どういうこと?)


 よく見たら町の人が暴れている。いや、町の人だけじゃない、各兵団の隊員たちも手近な人に襲いかかっていて、あちこちで魔法の攻防が行われていた。


(まさかクーデター?)


 状況が全く掴めない。ひとまず地面に降り立って手近にいた正気の騎士兵に声をかけた。


「何が起きているんですか?」


 騎士兵の人は私が誰か分かったようですぐに状況を説明し始める。


「すみません、私にもさっぱりで、あの大きな蜘蛛を倒してしばらくしたら皆何かに操られているかのように暴動を起こし始めたんです」


 どういうことだろう?混乱の魔法でもかけられらのだろうか?


「ん?」


 騎士兵の男性が不思議そうな顔をした。


「どうしました?」

「いや、首元がチクッとした気がして」


 男性が首に手を伸ばそうとした時だった。その腕が急に震え出したかと思うと、ゆっくりと腰に伸びている剣を握り始めた。


「な、んで?身体が勝手に…」

「え?」

「逃げてください!」


 騎士兵が腰を低くし突っ込んできた。私は咄嗟に光の防御でこの攻撃を防ぐ。奇襲の居合が効かなかったからか今度は距離を取って火の魔法を打ち込んできたが、先ほど張った光の防御が全て弾いた。


(操られている?)


 首元に違和感があると言っていた。正面からでは見えなかったので、私は実力行使に出ることにした。


「すみません、少し手荒なことをします。 シングラティシーフォトス―光の拘束―」


 騎士兵の肱元と足首に2つの光の輪が形成される。はじめは大きな輪だったそれらは狙いが定まると一気に縮んで騎士兵を拘束した。バランスを崩して騎士兵が俯けに倒れると首元が露わになる。そこには1匹の黒いフェアリーが張り付いていた。これには既視感がある。


「エクテーシー―暴け―」


 認識阻害魔法で姿を消していた魔物が姿を現した。


「ひっ!」


 そこにはこぶし大ほどの蜘蛛が張り付いていた。茶色くてフサフサしている。あの大蜘蛛の子供ということか。そしてそれが皆の首元に張り付いて寄生し、宿主になった人々は身体の自由を奪われ操られているのだろう。こぶし大の蜘蛛を子蜘蛛と呼ぶには抵抗があるが、そこは一旦目を瞑ることにする。


「バラフォトス―火の球―」


 騎士兵が火魔法を唱えた。また私への攻撃かと思ったが、その火の球は何故か男性自身へと向かっていった。

次回は今日の23時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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