67.手助けの導は
パーティーが終わった夜のこと。私は不思議な夢を見ていた。
(ここは、どこだろう?)
広い草原の只中に荘厳な建物が立っていた。まるでパルテノン神殿を彷彿とされる白い大理石の重厚な建造物である。私は正面入口と思しきところまで歩いていった。よく近づいてみると正面の石壁に何か文字が彫ってある。手近な行を読むに恐らく神話が記されていた。
(ここは神殿か)
今日エリスさんと話をしたから夢に出てきたのだろうか。本のイラストでしか見たことがないのに、彫刻の細部までくっきり見えた。私の想像力は随分逞しいらしい。
正面付近を見回っているといつの間にか入口に人が立っていた。
「イヒネイカ様!」
本日も尊いお姿である。私が駆け寄ると女神イヒネイカは入口を指差した。
「ここに入るのですか?」
一歩踏み出そうとしたら女神イヒネイカは首を横に振った。しかし指は入口を指したままだ。
「入らないのですか?」
私は女神イヒネイカが何を言いたいのか分からずに首を傾げる。女神イヒネイカも困っているようだったが、また首を横に振った。
(何だろう?)
何だか謎かけみたいだ。入るけど入らない。駄目ださっぱり分からない。
女神イヒネイカははい、いいえなら答えてくれるので私は色々質問することにした。
「ここに何かあるのでしょうか?」
女神イヒネイカは頷いた。
「でもここは既に攻略されていて、石碑を持ち帰っていると聞きました」
美しい女神はフルフルと首を振った。
「え?」
私は戸惑う。しかし女神は何度も首を横に振っている。
「…じゃあここはまだ攻略しきれていないということ?」
女神は先ほどとは打って変わってコクコクと頷く。
「それなら手助けの導もまだ何か残っているのですか?」
再び頷いた。
私は愕然とした。サリア様が使った光の極大魔法は中途半端だったから混沌を倒すことができなかったのだ。
「サリア様にはそのことを知らせなかったのですか?」
詰問に近い声が出てしまった。女神イヒネイカはサリア様の夢の中にも何度か姿を現しているはずだ。導が中途半端だということをサリア様が知っていれば、そしてここを攻略していれば混沌を打ち払えたのではないか?
女神イヒネイカは俯き、悲しそうな佇まいで軽く首を横に振った。私が更に質問を重ねようとした時、突風が吹き荒んで思わず目を閉じてしまった。それでその夢は終わりだった。
翌朝、私は居ても立っても居られずに国王陛下への謁見を申し込んだ。陛下は忙しい中何とか時間を融通してくれたみたいで今日の夕方にお会いできることになった。
私はその日1日は気も漫ろで何も手につかなかった。導が中途半端だったばかりに死んでしまったサリア様に思いを馳せ、サリア様とカイトの悲恋を嘆いた。そしてあの女神イヒネイカの意味深な態度と唐突な夢の終わりについてもあれこれ考えてしまう。しかし考えても何1つ分からなかった。私はやはり持っている情報量が少なすぎるのだ。
ようやく時間になり、陛下の執務室へと赴いた。陛下はいつもの通り机の前に座っている。
「昨日はあのような場にご招待いただき、誠にありがとうございました」
「大儀であった。して、余に何か用があると?」
「はい、混沌の討伐方法についてです」
私は単刀直入に話すことにした。
「昨夜、パーティーで色々と伺いました。陛下は転移魔法を応用させた異空間への封印、もしくは光の極小魔法で混沌を討伐することをご検討なさっていると」
「そうか、お前には時期になったら話そうと思っていたのだが、手間が省けたようだったな」
「はい。そしてちょうど昨晩イヒネイカ様から神託がありました。神殿にはまだ混沌を打ち払う導が残っているとのことでした」
「…やはりそうなのか」
「え?」
陛下の返事に私は吃驚して声を上げてしまった。
「どういうことでしょうか?」
「実は混沌が襲撃してきた際、サリアも同じような神託があったと言っていた。それでサリアは神殿に赴いてくまなく探索したが、結局その導を見つけることができなかったのだ」
「左様ですか」
女神イヒネイカが悲しそうに首を横に振ったのはそう言うことだったのかと納得した。
「サリアは神託の解釈違いだったのかもしれないと言っていたが、結局あの魔法では混沌には敵わなかった。やはり導が足りなかったのだろう。しかしその後も何度か探索隊を派遣したがやはり見つからなかった。それで余は別の方法で混沌を打ち払うことにしたのだ」
「もしよろしければ私も神殿に行き、その導を探したいのですがよろしいでしょうか?」
「お前がか?」
陛下は腕を組み、考え込んでしまった。サリア様含め多くの人たちが探して見つけられなかったものを今更探しに行っても仕方がないと思っているのかもしれない。
「それほど探しても見つからないということであれば、正直私が行ってもどうにもならないかもしれません。しかしイヒネイカ様が神託を出したということは私に探しに行くよう命じているのではないでしょうか?」
「いや、行くのは構わないのだが、時期が悪い。秋の最後の月から冬にかけてであれば魔物の襲撃はほとんどないから、それまで待ってはくれぬか?」
悩んでいたのは時期だったようだ。しかも魔物はずっと湧き続けるものだと思っていたが、そうではないらしい。
「魔物も冬眠するのですか?」
「冬眠なのかは分からんが小康状態に入る。混沌が不毛の地の西の果てからゆっくりと向かってきたのは秋の2ヶ月目だったが、なぜか最後の月に入ったら進行が止まったのだ。それと同時に魔物の進行も穏やかになり、冬にはほとんどなくなった。サリアもその間に神殿に向かった」
「承知致しました。ではその小康状態に入りましたら神殿の探索に行って参ります」
「そうしてくれ」
時期は先になるが神殿に行く許可が取れてほっと一安心だ。
「それからもう1つ、極大魔法と極小魔法を習得したいのですが、どのようにすればよろしいでしょうか?」
「両方ともまとめた魔法書がある。後で部屋に持って行かせよう」
「ありがとうございます」
要件が済んだところでちょうど謁見の時間が終了した。
その夜、本が届いたので早速読んでみた。この世界の魔法はイメージと魔力があれば発動するので、魔法書を読んでどういう魔法かを理解しイメージできれば血の滲むような特訓は必要ない。
光の極大魔法は光の球をより高火力にしたような魔法で、1つの疑似太陽を空に打ち上げて照射することにより魔物を殲滅するというものだった。その光球にフェアリーアイの全魔力を込めるのだから凄まじい威力だろう。ただし球の打ち上げから照射までには少しタイムラグがあるので、きっとこの間に混沌に逃げられてしまうに違いない。
(サリア様凄い。これを何回も使うなんて、私なら絶対心折れているわ)
考えただけでもげんなりしてしまう。正直通常の魔物討伐にも使えないかと思っていたのだが、よほど追い詰められない限りは使いたくない。まさに最終決戦用の魔法といった感じだ。
光の極小魔法は光の極太矢みたいなもので、身体の前で全魔力を込めた小さな光球を作ってから光線を放つ。ただし光の極太矢はあくまでも極太矢を光で形成して射出するのに対し、極小魔法は光球から高密度の光線を放つのでイメージとしてはレーザービームのような魔法だ。極大魔法と違って光球を打ち上げないので混沌に気取られなければ全魔力が注がれた凄まじい威力の光線をお見舞いすることができるはずだ。なおこれも通常時には決して使用したくない。
(これで混沌に勝てるのかな?)
有効打かどうかはやってみなければ分からないというのは何とももどかしい。それに本当はすぐにでも神殿に行きたいくらいだが、焦っても仕方がない。
(まだ後1年半の猶予はある)
私は自分にそう言い聞かせ、逸る気持ちを抑えるのだった。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




