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66.サリア様のダイイングメッセージ

「混沌の腹の中は異世界と繋がっているのではないかという話はご存じですか?」

「はい、伺っています。いつの頃からか、不毛の地よりおよそ100年に1度、異世界から人が来訪するようになったんですよね?そして異世界人の話によってその仮説が立てられた」


 座学でそう習っていた。


「そうです。異世界人の話によれば、気が付いたら何やら生物の腹の中にいて、次の瞬間には吐き出されていた。自分を吐き出した生物を見ると黒くて大きな禍々しい怪物で、皆腰を抜かしながら走り去ったということでした。黒くて大きな禍々しい怪物なんて不毛の地でもそうそういません。だから混沌の腹の中から来たのではないかと推察されたのです」


 不毛の地に投げ出された異世界人は回りを見渡し、水平線の彼方に立派な人工物を見つけてそこを目指して歩いてくる。それがこの国というわけだ。だから運良く辿り着く者もいれば途中で力尽きて死んでしまう者もいる。直近でいえば223年前の異世界人はこの国に辿り着いたが、123年前と23年前は異世界人が来なかったということなので辿り着かなかったのだろう。

 ちなみに辿り着いた異世界人によると、道中魔物には襲われなかったらしい。これは神話の「そこは不毛の地。生者が足を踏み入れてはならない。誤って踏み入れた場合は命の保証はできぬ」と矛盾する部分で、その謎は未だに解明されていない。


「サリア様はどうせ食われるならこの謎を解明してみせる、手がかりを残すつもりだから見つけてほしいと陛下に仰ったそうです」


(サリア様、勇猛すぎる…!)


 死ぬ間際までそんなことを考えられるなんて、逞しいにもほどがある。


「陛下はその言いつけ通り、混沌が去って行った方角をくまなく調べさせました。不毛の地もその時ばかりは魔物の湧きが少なくて探すのにはうってつけだったのです。しかしなかなか見つかりませんでした。サリア様の意気込みは賞賛に値しますが、実際問題そのような状況で手がかりを残すことなど不可能ではないかと」

「それは、そうですよね」

「はい。でも季節が2つ過ぎる頃でした。サリア様の仰っていた手がかりが奇跡的に見つかったのです」


 陛下とサリア様の執念を感じさせる話だ。


「その手がかりというのは?」

「サリア様は出陣時、奇跡兵団の男性制服をお召しになっていたのですが、その制服の上着に血で転移魔法陣が記されていたのです」


 男装の麗人だったサリア様らしい服装だが今はそれは置いておいて、混沌の腹の中で見た転移魔法陣を自分の血で上着に転記したということか。まさしくダイイングメッセージだ。


「しかし状態が悪かった。サリア様は防護魔法を幾重もかけ、身につけていたあらゆる魔法石の装飾品をポケットに入れ手がかりを残したのだと思いますが、発見した時は上着もボロボロで血も滲んでおり、解析や復元にはかなりの年月を要する状態だったのです」

「それでも完成させたのですね」

「陛下には2つの目的がありました。1つはサリア様の異世界捜索。手がかりを残した後にサリア様が異世界に渡って難を逃れた可能性は十分にありました。そしてもう1つはこの転移魔法を応用して混沌を異空間に転移させるためです」


 まさかここで混沌の討伐の話に繋がって来るとは思わなかった。


「それって私の元の世界に混沌を転移させるということですか?」

「まさか。アリサさんの世界に迷惑をかけるわけにはいきませんよ。誰もいない何もない空間に混沌を飛ばして封印するつもりなんです」

「な、なるほど」


 しかしついこの間転移魔法が完成したという話だったが、決戦は1年半後である。


「その応用魔法陣は完成するのでしょうか?」

「基本ができれば応用は比較的スムーズですから、間に合うはずです。とはいえ、国民の中にはこの計画が本当に間に合うのか不安になっている方もいらっしゃいます」


 それはそうだ。私だって次善策はないのかと思ってしまう。


「もう1つ、陛下が研究していたものがありました。それが光の極小魔法です」

「極小魔法?それはどういう?」

「この魔法は極大魔法の応用です。極大魔法が極めて広い攻撃範囲を有した魔法であるのに対して極小魔法は極めて狭い攻撃範囲に極大魔法と同じ魔力を集約して打つ魔法と聞いています。この魔法は既に完成されており、あとは術者が会得するのみです」


 なるほど、それはつまり。


「極大魔法と同じ量の魔力が必要になるから、私しか使えないということですね」

「お察しの通りです。しかし周期では23年前に生まれているはずの次のフェアリーアイがなかなか見つかりませんでした。ああ、ちなみにフェアリーアイが短命なのはご存じで?」

「はい」


 この国の人たちはどうやら人間で約250年、他の種族で約500年の寿命があるらしい。ただフェアリーアイだけは別でおよそ85年でその生涯を終える。人並外れた力がある分、寿命も短くされているのだろう。そのためフェアリーアイが2人擁立することはない。そして23年前は私が生まれた年だった。


「話が逸れました。陛下は23年前から国を挙げてフェアリーアイを探していましたが、見つけられなかった。それまでフェアリーアイという存在は羨望の眼差しでした。短い人生ではありますが皆魔法の才に優れ、華のある人生を謳歌していました。でもサリア様も今回のフェアリーアイも混沌を倒すという過酷な運命を背負わされているため、隠棲し名乗り出てこないのでは?と噂されていたのです」


 まさか異世界にフェアリーアイが生まれているとは誰も思わなかっただろう。


「ですからカイトがあなたを連れてきたのはこの国にとっては僥倖だったのですよ。あなたにとっては不運だったかもしれませんがね」


 サリア様をつれてくる目論みは外れたが、偶然にもフェアリーアイを発見することはできたわけだ。


「ちなみに今回のこのパーティーにおけるアリサさんのお披露目には2つの意味がありました。1つは異世界人来訪の周期がズレているにも関わらずアリサさんという異世界人が来訪したことを見せつけることで、転移魔法が完成したことを裏付け、国民に研究は順調ですよとアピールするため。そしてもう1つが長年探していたフェアリーアイが見つかったことをアピールし、国民を安心させるためです」


 それでわざわざお披露目が必要だったのかと合点がいった。きっと料理も私が異世界人であることの証明に一役買っているに違いない。


「そう言えばカイトの話をしていたのにすっかり話が逸れてしまいましたね。カイトはサリア様が遺した転移魔法陣の手がかりが見つかってから率先してその研究に携わりました。異世界にサリア様が生きているかもしれない。失意の底から抜け出すにはその望みに縋るしかなかったのです」


 それは私にとってはいたたまれない話だ。最初に会ったカイトを思い出す。最愛のサリア様が生きていて、会えたのだと全身で喜びを表現していた。そして私がサリア様ではないと知った時、取り繕ってはいたけれど、やはり酷く落胆していたのだ。


「カイトはサリア様と似ている私を見ていて、辛くはないんでしょうか?」


 本当は憎まれているとしたら悲しい。


「そんなことはないと思いますよ。自ら専属護衛を買って出ましたから。それにアリサさんが来てから随分笑うようになりました」

「そうですか」


(ああ、やっぱり)


 カイトの視線の先に私はいない。いるとしたらそれはきっとサリア様なのだ。


(まぁそれでカイトが辛くないなら良いか)


 胸がジクジクと痛む。それはまた蓋をして放っておくことにした。


「これで少しは不安が解消されましたか?」

「はい、話して下さりありがとうございました。あ、この話、カイトには内緒にしてもらえますか?」

「分かりました」


 こうしてエリスさんとの密会は終了した。

 戻るとパーティーは終わりに差し掛かっていた。


「アリサ、大丈夫か?」


 カイトが心配そうに様子を伺いに来た。どうやらさっきエリスさんが体調不良と追い返した人から話を聞いたらしい。


「うん、ちょっと人酔いして気持ち悪くなっちゃって。近くにエリスさんがいたから外まで連れて行ってもらったの」

「風に当たったらすぐに顔色が良くなったから大丈夫だよ」


 エリスさんも私の嘘に乗ってくれる。カイトはほっとしたようだった。


「そうか、良かった」

「心配かけてごめんね」


 私は優しい友人にそう言って謝った。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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