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65.サリア様の最期

※人の死ぬ表現があります。苦手な方はご注意ください。

 私はエリスさんを連れてパーティーで開放されている庭園に移動した。道中話しかけてくる人はいたがエリスさんが機転を利かせて「彼女いま具合が悪いので」と言って断ってくれていた。

 庭園にもカップルや何か密談をしている人などいたが、圧倒的に室内会場に比べて人は少なかった。それにお互いの不文律により一定の距離を開けているところもちょうど良い。


「さて、カイトのことかカイトに聞けないこととは何でしょう?」


 エリスさんは察しが良い。あのメンバーの中でカイトとエリスさんの2人は同期である。だからカイトにまつわることはエリスさんに聞くのが1番良いと思ったのだ。


「はい、サリア様の最後の戦いとその最期についてご教示いただけませんか?」

「なるほど。何故いまそれを?」


 エリスさんは鋭い。嘘はつけないなと思った。


「会場で色々耳に挟みました。その中に1年半後の最終決戦についての話が聞こえてきまして。本当に恥ずかしい話ですが、はじめ国王陛下から魔物の討伐依頼を頂いた時、私はてっきり今湧いている魔物の討伐だけ行なえば良いのだと思っていて、混沌を討伐することは考えていませんでした。混沌を打ち払ってくれとは言われませんでしたから。でもそれはきっとフェアリーアイでなければできません。サリア様が必死で伸ばした期限まで後1年半、私はこの間に混沌を打ち払う策を立てなければならない。今日それを自覚して危機感が芽生えました。だからまずはサリア様の最期について伺いたいのです」

「お願いされていないのであればあなたが考える必要はないのでは?国王陛下は混沌の対策を進めていますよ」


 それは確かにそうなのかもしれない。この長い年月、陛下が無策でいるはずがないだろう。


「単に不安なんです。サリア様でも勝てなかった敵を相手取らなければならない。自信なんて少しもありません。でもじっとしてもいられないんです。何かしないと不安で押し潰されそうで。だから、まずは知りたい。少しでも情報がほしい。陛下がどれくらい策を講じているか分かりませんが、話を聞いたら私も何か対策を検討することができるかもしれません。策はあるに越したことはありませんから」


 無知による不安が私の焦燥を余計に駆り立てる。身体の前で組んでいた手がいつの間にか震えていた。エリスさんはその手に気が付いたのか、両手で優しく包み込んでくれた。


「分かりました。国王陛下もカイトも時期が来たら話すつもりだったのでしょうが、アリサさんが今これほどご不安なのであれば、僭越ながら私から先にお話ししましょう」


 そう言ってエリスさんは話し始めた。



「アリサさんは神殿をご存じでしょうか?」


 本で読んだことがある。王都から北に少し行ったところに神殿が立っていて、その入口の石壁に神話が刻まれているという。そしてその神殿の地下は試練という名の迷宮になっており、最奥には神々が置いていった秘宝が眠っていたという話である。過去形なのは既にこの迷宮は過去のフェアリーアイによって攻略済で、秘宝は確かお城で保管しているはずだった。


「本で読みました。地下に迷宮があって、神々の秘宝があったんですよね?」

「はい。秘宝とは大魔法が1つ記された石盤のことでした。光の極大魔法と銘打たれたその魔法は、膨大な魔力を有した1人のみが発動させられる魔法で、まぁ簡単に言えばフェアリーアイを持つ者にしか使いこなせない代物です」

「そんな魔法が」

「そうです。神話にはこう記されています。『我は試練の先に手助けの導を置いておく。これに臨み、導を頼りに混沌を打ち払うことができた時、我々はまた地上に降りてこよう』」


 エリスさんが神話の該当する場所を諳んじた。


「秘宝というのがその手助けの導であり、光の極大魔法のことだったんですね」

「はい。混沌が魔物を引き連れて襲ってきた時、誰もがこの石盤の魔法を思い出しました。混沌に打ち勝てる魔法はこれしかないと」


 しかし、そうではなかったらしい。


「サリア様がその魔法を使用した時、混沌以外の魔物は全て消え去りました。しかし混沌だけはその光魔法が降り注ぐ前に地下に潜り込み、回避することができたのです」


 極大魔法も当たらなければ意味がないということか。


「混沌は魔物を生み出すことができますから、魔物を倒しても混沌を倒さないことには意味がありませんでした。サリア様は日を跨ぎ魔力を回復する度にこの魔法を打ち込みました。無論その時には我々も総力を上げて混沌の足止めを行いました。しかし何をどうしても回避してしまう混沌に、我々もサリア様もなす術ががなかったのです」


 アテにしていた魔法が届かない絶望は如何ほどだっただろう。


「加えて、サリア様が魔力を回復するスピードよりも混沌が魔物を創出するスピードの方が早かった。光の極大魔法で魔物が全滅するとはいえ、サリア様がそれを次に打つまでの間は魔物の足止めをしなくてはなりません。兵は有限ですから国の総力を上げても段々とジリ貧になっていきました。それにそれだけの威力のある魔法ですから、サリア様の負担も当然大きかった」


 魔法を使っては寝込み、使っては寝込みを繰り返したのだろう。私は全ての魔力を回復するのに3日3晩寝込んだ。寝ることで魔力を回復するとはいえ、それは身体にとっては異常なことである。負担は当然大きい。


「あのまま戦っていれば間違いなく国は滅んでいました。混沌はそんな我々を嘲笑うかのようにサリア様を所望し、サリア様は最終的にそれを受け入れたのです」


 エリスさんが俯く。聞いていても楽しい話ではない。語るのだって辛いだろう。


「カイトはサリア様とお付き合いしていたんですよね?その時カイトはどうしていたんですか?」

「お付き合いどころか婚約していましたよ。混沌との戦いが終わったら結婚する予定だったんです」

「そんな」


 なんてフラグを立ててしまったんだと私は思った。


「混沌から提案を受けた時、勿論陛下も妃殿下もカイトもサリア様が人柱になることには猛反対しました。けれど敗戦が濃厚になってきた頃、サリア様は陛下と妃殿下に人柱になる意志を伝えました。お二方とも愛娘の命と国の存続を天秤にかけ、断腸の思いでサリア様を見送りました。しかしサリア様はカイトにだけは言いませんでした。いえ、きっと言えなかったのでしょう」


 婚約の約束を反故にしてしまう後ろめたさもあっただろうが、それよりきっとカイトは必死になって止めるだろう。気持ちが揺らぐ可能性があったからこそカイトには言わなかったに違いない。


「カイトはちょうどその時負傷していて前線にはいませんでした。でもまぁ何か嫌な予感があったらしいのです。カイトが野戦病院を抜け出して前線まで駆け付けた時、今まさに混沌がサリア様を呑み込もうと大きな口を開けていました」


 エリスさんが悲痛な表情をしている。私もきっと同じような顔をしている。それはあまりにも酷な話だった。想像するだけでやるせない。


「カイトは助けに行こうと飛び出しましたが、僕含め多くの兵に止められました。その暴れっぷりといったら、本当に怪我人かと疑うくらいでしたよ。…そして、カイトの目の前でサリア様は混沌に食われました」


 それは想像をはるかに超える壮絶な最期だった。


「エリスさんも嫌な役回りでしたね」


 友人の最愛の人を犠牲にするために、助けに行こうと暴れている友人を止めなければならないなんて、胸が張り裂けそうだ。


「ええ、全く。誰もがあの戦いで大きな傷や痛みを負いました。でもやはりカイトが一番憔悴していたでしょう」


 陛下も妃殿下にもサリア様を失う覚悟をする時間があったが、カイトにはそれがなかった。憔悴して当たり前だ。


「サリア様はカイトに手紙を残していました。きっと陛下や妃殿下に伝えたような覚悟やカイトへの思いが綴られていたのだと思います。けれど彼を慰めるには足りませんでした。カイトはしばらく失意の中にいました。転移魔法陣の手がかりが見つかったのはそんな折です」


 どうやらこの話には続きがあるようだった。

評価・ブクマ登録などありがとうございます!大変励みになります(*^^*)

少しでも気になった方は評価・ブクマ登録などぜひお願いします!

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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