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64.晩餐会にて

 晩餐会のはじめに国王陛下と私の挨拶が簡単に行われた。私の考えた挨拶はそれはそれはもう当たり障りのない定型文のような無難な挨拶だ。それが終わると皆それぞれ食事をしながらお喋りに興じていた。


「アリサ、少しこっちに来てくれ」


 陛下に呼ばれたのでついて行くと、そこには妃殿下がいらっしゃった。挨拶をしろということなのだろう。


「お初にお目にかかります、クロダアリサと申します」

「私はメアリーと申します。お噂はかねがね伺っておりますわ。本当に、本当にサリアにそっくりでいらっしゃる」


 妃殿下は泣き笑いのような複雑な表情をした。それはそうだろう、自分の亡くなった娘によく似た赤の他人とこうして対面しているのだから。


「不躾で申し訳ございませんが、この手に抱いても?」

「ええ、構いません」


 妃殿下は断りを入れてから私をそっと抱いてきた。私もそっと抱き返す。温かなその腕に抱かれると、ふと自分の母親に抱きしめてもらっているような錯覚を起こして泣きそうになってしまった。やはり母親という存在は偉大である。


「ごめんなさい。少し娘を思い出してしまって」

「いえ、私も母のことを思い出しました」


 妃殿下も目に涙を浮かべていた。髪色と同じく薄ピンクの瞳には慈愛の念が浮かんでいる。


「こういうことを言うのは失礼かもしれないけれど、あなたはサリアの生まれ変わりなのかも知れないわねぇ」

「生まれ変わり、ですか?」


 今まで考えたこともなかったが、似ている容姿からそのように類推するのは自然なことなのかもしれない。


「ええ、あの子最後に言ったのよ、「どのような姿形になろうとも、この世界を見守っています」と。だから神様の思し召しで生まれ変わっても同じ姿で私たちの前に現れたんじゃないかしらって、そう思ってしまったの。急にこんな話してごめんなさいね。アリサさんはアリサさんなのに」

「いえ、もし仮に生まれ変わりだとしたら、記憶があれば良かったのですが、申し訳ございません」


 妃殿下の思いが痛いほど伝わってきて、私は思わず謝っていた。


「あなたが謝ることじゃないのよ。優しい子ね。こんなことを言い出した私が悪いのだから、気にしないで頂戴ね」

「痛み入ります」

「暗い話はこれでおしまい。ねぇアリサさん、主人にあなたの祖国の食べ物を食べさせたでしょう?気になるから今度私にも何か作って下さらない?」


 妃殿下はガラリと話題を逸らした。


「はい、お口に合うか分かりませんが、お召し上がりいただけますと幸いです」

「主人が初めて食べる味だけど美味しかったって、いたく気に入っていたの。だから楽しみだわ」

「左様でございますか」


 近くにいた陛下にも思わず視線を向けてしまった。好評だったとジョゼフ料理長からは聞いていたが、このように感想を頂けるとは思わなかった。


「また作ってくれ」


 陛下は少しバツの悪そうな顔をしていた。


「はい、是非」


 私は和食が褒められたのが嬉しくて、笑って快諾した。



 陛下と妃殿下の元を離れて会場を歩いていると、ダンスパーティーの時よりもずっと私に関する噂話が聞こえてきた。さっきまでは私が緊張して聞こえていなかっただけかもしれないし、晩餐会で談笑する話の肴として格好の的なのかもしれない。


「お噂通りサリア様にそっくりなんだな」

「生まれ変わりなのかしら?」

「髪は闇属性魔法を使った際に見せしめで切られたのだとか」

「見た目は麗しいけれど、内実が伴っていなければ仕方あるまい」

「こちらに来てから魔法を使い始めたらしい」

「1年半後の決戦は大丈夫だろうか?」

「討伐ではそれなりの成果を挙げているみたいよ」

「近衛兵の護衛もいるんだろう?それなりじゃ駄目だろう。やはりサリア様くらい有能でなければ」

「本当にあの子で大丈夫なの?闇属性魔法に頼るフェアリーアイなんて聞いたことないわ。こんなことで世界の終末は乗り切れるの?」

「しかしずっと探していたフェアリーアイが見つかったんだ。一安心じゃないか。それに国王陛下だってこの長い間ずっと手をこまねいていたわけじゃない」

「確かに、このまま隠棲されるんじゃないかってヒヤヒヤしたものねぇ」

「まさか異世界にいたとはな」


 パーティーに参加したくなかった1番の理由がこれだ。どうしたって好奇の目に晒されてしまう。良いことも悪いことも皆好き勝手噂する。今日はどちらかと言えば懐疑か。サリア様と比較し、私がフェアリーアイでは先の戦いが不安だと皆口を揃えて言っている。しかし、その不安は的を射ていると思った。


(そっか、そうだよね。このまま今のように魔物を討伐して終わりじゃない)


 サリア様が混沌から引き延ばした100年という期限がおよそ1年半後に迫っていた。誰かがその混沌を打ち払わなければならない。そしてその誰かはきっと私しかいないのだろう。

 あの時国王陛下からは魔物の討伐をしてほしいとしか言われておらず、余裕のなかった私も目の前の魔物のことしか考えていなかった。混沌については国の上層部が何か対策を考えているのだろうとしか思っていなかったのだ。しかしそれなりに余裕が出てきた今、フェアリーアイとして混沌との対決は他人事ではないと感じている。今後は国王陛下とも混沌の討伐について真剣に話し合わなくてはならないだろう。


(私にこの国の命運がかかっているんだわ)


 今更そんなことを自覚する。そんな危機感のない自分に嫌気がさす。サリア様と比較されて不安がられるのも無理はない。私だって自分自身に不安を感じているのだから。


(私が本当にサリア様だったら、生まれ変わりだったら、もう少し色んなことに自信を持てたのかな)


 パーティ中はそんなことを考えながら、知らない人に声をかけられては適当に会話をしていた。

 食事は全然喉を通りそうになかったが、一応何か採用されたものがあるか見に行ったらホットドッグとミルクレープ以外は採用されていた。それはこのパーティーの中で1番喜ばしいことだった。


 私は皆の噂話を聞いてからとある人物と話をしたくてその場所に移動していたが、少し歩くと誰かに話しかけられるので遅々として歩みは進まなかった。

 それでもようやく会場の隅に辿り着く。目的の人物はダンスパーティーの時と同じように立っていた。


「エリスさん、ちょっとお時間よろしいでしょうか?」


 エリスさんは驚いていた。


「僕ですか?カイトではなく?」

「はい、もしよろしければエリスさんに伺いたいことがあります」

「少し待っていてくださいね」


 エリスさんは曲がりなりにも警備をしているのでここを抜けてしまっては守りに穴を空けることになる。誰かに話をして引継ぎをしているようだった。


(やっぱり迷惑だったかな)


 正直今くらいしかチャンスがないと思ったので思い切って声をかけたのだが、段々後悔が勝って来た。


「あの、エリスさん、すみません。やっぱりまた今度でも」

「いいえ、大丈夫ですよ、アリサさんからご指名を頂く機会なんてそうそうありませんからね。それに警備は退屈ですから」


 そう言ってエリスさんは私に付き合ってくれた。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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