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63.ダンスパーティー

 会場の雰囲気に幾分か慣れた頃、開始の合図が出された。皆会場の隅に寄るとほどなくして国王陛下と妃殿下が入場した。どちらも国を背負うものとして贅を尽くした衣装に身を包んでいる。特に妃殿下の美しさは息を呑むほどだ。初めてお見かけしたがマダムを具現化したような女性で、薄ピンクの長い髪を綺麗に束ね、見事なティアラをつけている。白と紫を基調としたドレスは大人の女性といった感じで、全ての動作に気品が漂っていた。その2人が会場中央の開けた場所で音楽に合わせて優雅に踊り始めた。


(私あの後に踊らなきゃならないの?)


 2人とも踊り慣れてプロ顔負けだったのだ。

 永遠にこの時間が続いてくれと切に願ったがあっという間に熟年カップルの堂に入ったダンスは終わってしまった。


「行っておいで。あんなに練習したんだから大丈夫だ」


 カイトがそう言って私を見送る。そうは言ってもあんなダンスを見せられた後でこんな注目を浴びながら踊るなんてストレスの極みである。私はガチガチに緊張した。それでもきちんと作法通りに前に進み出て陛下と組み、音楽が鳴ると身体は練習通りに動き始めてくれた。反復練習の賜物である。


「ダンスは初めてと聞いていたが、サリアより余程上手いではないか」

「えっ」


 陛下が小声でそんなことを囁いた。


「あいつはダンスが嫌いでな、練習もロクにしなかったから本当に最低限しか踊れなかった。そのくせ本番でわざと余の足を踏むのだ。こんな余興を作りやがってと言わんばかりの目でな」


 やれやれと陛下は笑った。私も何だかほっこりして笑ってしまった。陛下とサリア様の親子関係が垣間見えた気がしたのだ。

 物凄く緊張していたけれど、陛下のお話のおかげで最終的にはカイトの練習の時よりも伸びやかに踊れた気がした。最後は向かい合って礼をする。拍手が聞こえた途端、終わったのだと自覚した。陛下と私が場所を空けると皆がワラワラと中央スペースを埋めて行った。ひとまず第一関門は突破したようだった。



「僕と踊っていただけませんか?」

「いや私と」

「いや、この俺と」


 私は陛下と別れるや否や、10人以上の殿方に囲まれていた。


「えっと」


 壁の華を決め込むつもりだったのだが、そうはいかないらしい。ダンス教師は誰を選んでも良いと言っていたが、私は優柔不断だし、世相にも疎いので誰を選んだら良いのか分からなかった。


「お手を」


 その時すっと脇から私に近付いて手を取って来た人がいた。


「よろしければ俺と踊っていただけませんか?」


 カイトだった。私が困っているのを見かねて助けに来てくれたのか。あまりにもスマート過ぎる。


「はい」

「選んでいただき、光栄の至りに存じます」


 いつかしたみたいに手の甲にキスをされた。私が硬直しているのを尻目に、カイトは繋いだ手を引っ張って殿方の包囲から抜け出した。私を誘った男性陣はちょっと悔しそうにしていたが専属護衛が相手なら仕方がないみたいな感じで渋々別の女性を誘いに行っていた。


「助けてくれてありがとう」

「ん?」


 カイトが怪訝な顔をした。


「私が誰を選んだら良いか分からなくて困っていたから助けてくれたんでしょ?ありがとう」

「いいや?アリサと踊りたかったから誘ったんだが?」

「え?」


 どうやら純粋にダンスのお誘いだったらしい。誘ってくれるかなとは思っていたが、まさかこんな先陣切ってまで誘ってもらえるとは思っていなかったので私は吃驚した。


「なんだ、ただの役得か」


 カイトが残念そうな顔をしたので、私は慌てて言った。


「ごめん、違うの!そう言うわけじゃ…なくて…」


 言ってて段々尻すぼみになっていく。そう言うわけじゃないならどういうわけなんだろう?


「誘ってくれて嬉しい、ありがとう」


 赤面しつつもその気持ちだけは素直に伝えた。カイトはクスっと笑って、それ以上追及してこなかった。私は気まずくなって話題を逸らす。


「ねぇ、こんなことカイトに聞くの失礼かもしれないけど、私あなたの後は誰と踊れば良いのかしら?」


 ダンスの相手は1人1回までで同じ人とは踊れないことになっていた。


「アリサが本当に誰でも良いなら、一番最初に声をかけてきた人と踊れば良いんじゃないか?」

「そんな適当で良いの?」

「別に構わない。ただあの調子だと申し込みされ続けるだろうから適度に休憩を挟んだ方が良いと思う」


 会場の隣の部屋には休憩室があり、ドリンクを飲めるようになっていた。


「分かった、不自然にならない程度にたくさん休憩するわ」

「そんなに踊りたくないのか?」

「本当は壁の華になりたいくらい」

「それは無理だろうなぁ」


 2人して苦笑した。

 そんな話をしているうちに音楽が始まったので私はカイトと踊り始める。


「何か、陛下の時よりも緊張していないか?」


 カイトが小声で話しかけてきた。


「そ、そんなことないわ」


 否定するものの少し声が上擦ったので説得力に欠けてしまった。陛下も陛下で緊張したが、今日のカイトはいつにも増して身目麗しい。陛下とはまた違った緊張の仕方をしている自分がいた。


「そう言えば陛下と何を話していたんだ?」

「え?」

「ダンス中、何か話していただろう」


 よく見ているなと思った。


「ダンス始めたばかりなのにサリア様より上手だって褒めてくれたの」


 そう言うとカイトが小さく吹き出した。


「確かに既にアリサの方が上手い。あいつは下手くそだったからな。ははっ、懐かしい」


 カイトが目を細めて笑う。なんて優しい顔だろうと思った。


(ああ、やっぱり、サリア様には敵わないな)


 でもおかげで私の緊張は幾分か解れていた。



 カイトと踊り終わると案の定また多くの男性に囲まれたので、私は最初に申し込みして来た人を相手に選んだ。見知らぬ人と踊るのはそれはそれで別の緊張感があるし、踊りだけじゃなく自己紹介やら雑談やらもしなければならない。私は2回踊って1回休むを繰り返した。体力よりも気力の方が持っていかれるのだ。

 会場にはカイトの言う通りオークリーさん、エリスさん、レオンさんとギルバートさんがそれぞれ警備に当たっていて、休憩の間に1人ずつ簡単に挨拶しに行った。

 永遠に続くかと思われたダンスパーティーだったが、何とか終わりを迎えた。この時点でどっと気疲れしていたが、まだ晩さん会が残っているのだった。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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