62.まるで王子様のような
そうして忙しかった1か月が終わり、パーティー本番当日になった。
(気が重たい…)
私はまだパーティーに出なくても良い理由を探し求めていたが、こんな時に限って私が出動するような魔物は現れていなかった。全く使えないにもほどがある。
「アリサさん、お着替えしましょうねぇ」
リリアンさんは嬉々としてした。多分私のことを着せ替え人形か何かだと勘違いしているだと思う。
今日のドレスは一段と着たくなかった。今までで一番気合が入っているのが分かる。ミントグリーンと白を基調にした爽やかなドレスで、上半身は鈴蘭のような可憐なパフスリーブ、大きく開いた胸元はデコルテが露わになっている。涼しいと言えば涼しいか。しかし下半身はこれでもかというほど布を使ってボリュームを出しており、本当にお姫様が着るようなドレープドレスだった。暑苦しいったらない。
嫌々お着替えが済んだら髪のセットに入った。髪がボブくらいになったのでリリアンさんがアレンジのし甲斐がないと嘆きながらも、サイドを捩ったハーフアップに花の髪飾りをふんだんにあしらって華やかにしてくれた。お化粧も勿論欠かさない。
「今日のドレスにカイト様から頂いたペンダントはよく映えますねぇ」
「…そうですね」
本当にこのドレスのためにあるのではないかというくらい良いペアリングだった。
事前の説明によれば私は会場まで専属護衛であるカイトにエスコートされ、その後は陛下と衆目の中でダンス、あとは男性から申し込みをされたら踊るというのを夕飯時まで繰り返し、夕飯前に陛下から紹介され簡単に挨拶をするという流れだ。
時間になるとカイトが迎えに来たのだが、私はその姿を見て呆然としてしまった。
(どこの王子様?)
白いシャツと胸元にはお洒落なジャボ、濃い赤色のテールコートは金の縁取りと刺繍が施されている。それに今日はいつもと違って髪をオールバックにセットしていた。キリっとした佇まいはまるで絵本に出てくる白馬に乗った王子様のようである。
(ああ、格好良いな)
初めて会った時はこの世で見たこともないような美青年だと思った。今は少し違う。本当に目を奪われる。心底格好良いと思ってしまう。そう思った途端、胸が締め付けられるような気がした。
「お時間はよろしいので?」
リリアンさんの一言で私はハッとなる。カイトも今我に返ったというふうに慌てていた。暑いのか顔が少し赤くなっている。首に手を当てて少しの間目を閉じていたが、やがて目が合うと少し寂しげに微笑みかけてきた。
「…間違いなく、今日の主役は君だ、アリサ」
「え?」
カイトが私の手を取る。
「誰もが君の美しさに魅了されるだろう」
いつもなら真に受けないはずのキザな台詞を上手く流せなかった。
「アリサ?」
恐らく今の私は顔が真っ赤だ。カイトの目をまともに見れなくて顔を横に背けてしまう。
「ご、ごめん。ちょっと恥ずかしくて。ええと、カイトも今日は王子様みたい」
「あ、ありがとう」
何だか変な空気が流れたところでリリアンさんが割って入った。
「分かりましたから早く出発してください」
私たちは背中を押されて部屋を追い出された。
カイトの腕に手を添えてパーティー会場に向かう。自分が物凄く緊張していることが分かった。
(落ち着け、自分)
暑いはずなのに手の指先が冷えている。気付かれないように深呼吸をするがちっとも改善されなかった。
「パーティー、気が重いか?」
「あ、うん」
多分この緊張はパーティーだけのせいではないのだが、そういうことにしておこうと思った。
「実は俺も気が重い」
「そうなの?」
「ああ」
意外だった。そんなふうには見えない。
「カイトは逞しいね。全然そんなふうに見えない。何度も出ているんでしょ?」
「何度出ていたって緊張くらいするさ」
「そっか、じゃあ初参加の私が緊張するのは当たり前ね」
「そうだな」
何だかそう言われると気が楽になってきた。それにカイトといつも通りの会話が出来ていることにも安堵する。
「みんな会場内を警備している。すぐ近くにいるはずだから、俺が見つからなかった時はみんなを頼れば良い」
「分かった」
「ライアンみたいな不審者に声をかけられたら迷わず言うこと」
「ふふっ、あんな人そうそう見ないわ」
「そうだと良い。さぁ行こう」
会場が見えてきた。
大きな会場には既に沢山の人々が集まっていた。獣人、鳥人、魚人そして人間、様々な種族の人々が集まって仲良く談笑している。春に行った町のお祭りを思い出すが、その時よりも一層煌びやかだった。来ている服の意匠の細やかさ、会場の豪奢な装飾の数々、私の冷房システムの氷は古代ギリシャかローマのような芸術的な美の裸像の彫刻となって会場に華を添えていた。何と言うか、やはり皆洗練された気品溢れる人々が集まっているようだ。
「カイト、こっちだ」
カイトが声をかけられたと思って見たら顔立ちがそっくりなダンディが立っていた。
(絶対カイトのお父さんだ)
ブロンドの髪色、エメラルドグリーンの瞳は完全にカイトに遺伝している。ハリウッドスターですと紹介されたら納得しそうなほど渋格好良い。眼光が鋭いのは近衛兵団団長という立場だからだろうか、歴戦の猛者といった威風がある。
(カイトも年を取ったらこうなるのかな?)
そしてさらに年を取ったらヴィンセントさんみたいになるのかもしれない。
「私は近衛兵団団長のシノーラス・カーライルと申します。愚息並びに我が隊員がいつも大変世話になっています」
私が見惚れていたばかりにシノーラスさんから挨拶をさせてしまった。
「とんでもないです!カイトや皆さんには本当にいつも良くしてもらっていて、私の方が大変お世話になっています!」
私は慌ててお辞儀をした。それを見てシノーラスさんが朗らかに笑う。笑った柔らかさはカイトに似ていると思った。
「話に聞く通り、物腰柔らかな可愛らしいお方だ」
なるほど、カイトの女性への世辞の上手さは父親譲りというわけだ。
「君にはいつも感謝をしている。本当はもっと早くに挨拶をしたかったのだが中々予定が合わなくてね、この場を借りて失礼するよ」
「いえ、滅相もないです」
するとシノーラスさんは別のところにいた他の2人にも声をかけ始めた。なんと騎士兵団と魔法兵団の団長さんたちだった。騎士兵団団長のスタンリーさんは野性味溢れる雰囲気で、失礼だが騎士兵というより傭兵のような無骨さを感じさせる。魔法兵団団長のヒューゴさんは反対に理知的でクールな印象だ。2人にもシノーラスさんと同じように日頃からの感謝と挨拶が遅れたことの謝罪をされた。特にスタンリーさんにはヤマタノオロチの際に多くの隊員の治療に当たったことを物凄く感謝された。あの時一番負傷兵が多かったのが騎士兵団だったのだ。
「あなたがいなければ我が隊は壊滅していたかもしれません」
「いえ、そのようなことは」
確かにあの時多くの人員が割かれていたのは事実だが、それは誇張しすぎである。
団長さんたちには比較的好感触だったので少し安心した。
(奇跡兵団の団長さんは挨拶なしだけど)
何ならこっちから挨拶に行けば良いのかと思ったが、火に油を注ぐことになりかねないので止めておいた。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




