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59.夏のパーティーの招待状

 慣れ親しんだ王城に帰ってきた。数か月もいると流石に自分の家のような安心感である。

 私がリリアンさんのお茶でほっと一息ついていた時だった。


「そう言えば、ご不在中に招待状が届いておりました」

「招待状?」


 リリアンさんが手紙を渡してきたので受け取った。はて、そんなものをもらういわれはないのだがと私は訝し気に見つめ、封蝋を確認する。王家の印が押されていた。ますます訳が分からない。開封して中身を確認するとパーティーの招待状だった。


(こ、これは、もしかして?)


 以前カイトが言っていた国王陛下主催の夏のパーティーの招待状ではなかろうか。


「リリアンさん、これって何かの間違いじゃ?」

「宛名は間違いなくアリサ様だったはずですが」

「このパーティーって一定の年収がないと参加対象にならないやつですよね?」

「はい。ですからアリサ様にも来ているかと」

「私まだ数か月しかいませんけど」

「魔物討伐の褒賞金が既にパーティー参加資格の金額に到達しているということでしょう」


 何ということだ。そんなに高額所得者になったつもりはないのだが。


「それにアリサ様の場合はフェアリーアイでもありますから、どのみちパーティーの招待は来たと思いますよ」


 私はげんなりした顔をした。リリアンさんはそんな私は嗜める。


「アリサ様、そのようなお顔はするものではありません。招待されるのは誉れ高いとされるパーティーですよ」

「だって、格式高いんですよね?」

「はい」


 リリアンさんは何故かニコニコ嬉しそうだ。


「私の見間違いでなければ舞踏というのがプログラムの中に入っているのですが」

「はい、参加者全員がはじめに踊りに興じます。その後は打ち解けた参加者が談笑しながら美味しい料理に舌鼓を打ちます」


 それはつまり社交ダンスパーティーということではないか!


「私多分当日体調不良か、もしくは魔物の討伐に向かっていると思います」

「今から勝手に予定を組まないでください」


 リリアンさんが鋭い突っ込みを入れてきた。


「でもダンスなんて踊れませんし」


 どうせなら社交ダンスのない異世界に辿り着きたかったものだ。


「参加者全員が踊れるものですから、そう難しくはないはずですよ」

「あと1か月しかないんですよ?マナーも覚えないといけないですし」

「アリサ様なら大丈夫です」


 真面目な顔をして頷いている。全くリリアンさんは私のことを過大評価しすぎである。


「不参加という選択肢は?」

「重大な理由がない限りはありません」


 リリアンさんにきっぱりと言われる。一縷の望みが絶たれてしまった。


(魔物討伐の傍らダンスレッスンとマナー講座?)


 多忙を極める1か月であることが確定して私は辟易した。



 ところが話はそれで終わらなかった。少しして国王陛下から呼び出しを受けたのだ。


(一体何が?)


 私は何かやらかしただろうかとビクビクしながら執務室へ向かった。


「突然呼び出してすまないな」

「いえ」

「招待状は届いているな?」

「え?あ、はい。パーティーの招待状なら頂きました」


(討伐のことではなくパーティーのこと?)

 話の行先が掴めなかった。


「実は今回のこのパーティー、銘打ってはいないがお前のお披露目会を兼ねている。簡単な挨拶を用意しておいてくれ」


 それは全く寝耳に水である。私は多分いま相当な間抜け面をしているだろう。


「それは、どういう?」

「言った通りだ。春のうちは控えていたが、これを機に紹介しておこうと思ってな」

「…左様でございますか、畏まりました」


 今私がここで何を言っても無駄だろう。お披露目も挨拶も決定事項のようだった。


(ますます逃げ出したいわ)

 物凄く気が重たくなってしまった。


「それからもう1つ」


(まだ何かあるの?)

 正直いっぱいいっぱいである。


「折り入って相談なのだが、振る舞われる料理のいくつかにお前のアイデアを入れてくれないだろうか?」

「はい?」


 私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「…失礼致しました。何故私にそのようなことを?」

「先日お前が料理に作らせたサラダがあっただろう?」


 パワーサラダのことか。


「あれが大層美味であった。冷房システムもそうだが、異世界の文化は我々とは少し違うようだ。そのお前のアイデアがほしい。勿論あくまでもアイデアをもらうだけであり当日はお前ではなく全て料理人が料理を作る。それにちょうど異世界の調味料類を手に入れたとも聞いているぞ」


 陛下がニヤリと笑った。


(カイトってばそんなことまで報告を…)


「パーティーの参加者は絞っているといってもそれなりの人数になるかと存じます。その人数を賄いきれるほどの量は入手しておりませんし、調味料類を作るのにも時間がかかりますので今回のパーティーには間に合いません」

「なんだ、そうなのか」


 陛下の眉尻が明らかに下がってしまった。


「折衷案と致しましては、その調味料類を使わずにこの世界にない料理のアイデアを出す、あるいは○○個限定といったように提供数を限定するというのはいかがでしょう?」

「ふむ、せっかくのパーティーで食べたいものにありつけなかった時のことを思うと提供数を限定するのは本意ではない。今回は前者にしよう。ただ、その…」


 言い淀む陛下の顔には「調味料類の味が知りたい」と書かれてあった。


「畏まりました。ただ、私も故郷の味をこの国の人たちに食べて頂きたい思いはあります。パーティーの料理とは別に何か作りたいと考えておりますので、その際にはお口に合うか分かりかねますが国王陛下もお召し上がりいただけないでしょうか?」

「分かった、そうしよう」


 ものすごく嬉しそうだった。


「料理人との試作など細かい日程はまた後で決めよう。余は目新しい料理を期待しているぞ」

「ご期待に添えるか分かりかねますが、精一杯努めます」


 食客として陛下に囲われている以上、このような異世界の文化提供というのは避けては通れないだろう。


(魔物討伐の傍らダンスレッスンとマナー講座と料理のアイデア出しと挨拶…というかお披露目って)


 私は廊下で独り深いため息を吐いた。



「なんかアリサさん、しんなりしてますね」

「エリスさん、そんな人を野菜みたいに」


 遠征最中の休憩途中だった。


「夏のパーティーに参加しないといけないんですけど、何分そういうパーティーに参加した経験がないのでダンスとマナーがおぼつかなくて。後はそのパーティーが私のお披露目会も兼ねているみたいで今から気が重たいんです」

「ああ、なるほど」


 エリスさんは納得したように頷いた。


「そう言えば皆さんも参加されますよね?」


 皆がいたら少しは心強い。


「いいえ、そのパーティーは基本的に兵は対象外なんですよ。当日は警備にあたっていますから」

「えっ、そうなんですか?」


 近衛兵というエリート集団ならかなりの高給取りのはずなので、てっきり皆参加すると思っていたのだ。


「パーティーが労いなら皆さんこそ労われるべきではありませんか?」


 以前カイトはパーティーは労いだと言っていた。それが本当なら命を賭して国を警備している戦闘員こそ労いの対象ではないか。


「僕たちは僕たちで別の慰労パーティーというか宴会があるんですよ。ご心配には及びません」

「へぇ」


 俄然そっちの方が気楽そうで良いなと思ってしまった。


「ああ、でもカイトはパーティーに出席するはずですよ」

「え?兵は対象外なんじゃ?」

「カイトのお父様は近衛兵団団長ですから、流石にお呼ばれします」


 兵団長は兵という枠ではなく国の重要人物という立ち位置で招待されるようである。そしてパーティーの招待対象者がお呼ばれすると家族や従者も参加可能らしく、カイトもパーティーに参加するというわけだ。ちなみにその場合、当人含めて5人までという人数制限が設けられているのだという。


「なるほど」

「ということでお披露目の気の重たさはどうにもなりませんが、マナーは僕たちが、ダンスはカイトが教えられるでしょう。…カイト!ちょっとこっち来て」

「え?」


 そう言うや否やエリスさんがカイトを呼び出し、早速事情を説明した。


「だから空いている時間にダンス教えてあげて」

「分かった」

「え、あ、でも皆さん忙しいでしょうし」

「アリサだって忙しいだろう」

「そうですよ。こういう練習はチリツモですから毎日少しずつでも時間を取ってやった方が良いですし、それにアリサさん、パーティーが気がかり過ぎてしんなりしていたじゃないですか。そういう心配事があると任務にも支障をきたしますよ」

「う、確かに」


 気も漫ろになっていては命取りになりかねない。


「分かりました、ご厚意に甘えます。よろしくお願いします」


 私はペコリとお辞儀をした。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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