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58.微妙な距離

 ライアンさんと別れたあと、私はカイトと2人で海に来ていた。


「ふざけんな!海のバカヤロー!!」


 私は憂さ晴らしに凪いだ海にあらん限りの力で叫んでいた。


「アリサ、落ち着け。他の人に聞こえたらどうするんだ」


 カイトが嗜めてくるが、今はそんなことを気にしている心の余裕はない。


「私がこの2日間どれだけ頭を悩ませたと思っているのよ!?私が何回断ったって聞く耳持たなかったくせに、フェアリーアイだって分かった瞬間手のひらを返したように「フェアリーアイは災厄を呼ぶからやっぱいいや」ってあっちから断ってくるなんて、恥をかかせるにもほどがあるわ!」

「結果として断れたんだから良いだろう?」

「そうだけど…そうだけど!」


 2日間の私の精神的ストレスに対する賠償をライアンさんに請求したい気分である。


「大体フェアリーアイは災厄を呼ぶって何よ!人を魔物みたいに言って」

「確かに謎だが、そうだな、フェアリーアイが生まれる年と異世界人が来る年は奇妙にも一致しているんだ。約200年前の異世界人がこちらに来たことを不運だと思っていたならフェアリーアイと関連付けて何かそう言った話を残した可能性はある」

「ああ、なるほど。それはあるかも」


 私はもっと吐き出したいことがあったはずなのに、カイトの話を聞いていたら急に怒りのエネルギーがなくなって、言いたいことが出てこなくなってしまった。代わりに助けてくれたお礼もまだだったことを思い出す。


「…助けに来てくれて、ありがとう」


 かなりぶっきらぼうな言い方になってしまった。


「どういたしまして。1つ聞いて良いか?」

「何?」

「何で言わなかった?」


 カイトは少し怒っているように見える。


「だって、ごく私的なことだったから」


 私は口を尖らせた。


「そうか。それでも皆心配していた。昨日なんか特に挙動がおかしかったからな。次から私的なことでも構わないから、悩んでいることがあるなら相談してほしい。俺でも他の誰でも良いから」


 告白ぐらい自分で対処しようと思っていた。独りで解決したいという自分の意地が却って皆を心配させていたのだ。本当に意地っ張りだなと思う。


「うん分かった。心配かけてごめんね。皆にも後で謝っておくわ」


 しかし話はそれで終わらず、なおもカイトは真剣な目を向けてくる。


「2日間も言い寄られ続けたのか?」

「言い寄られたというか、ずっと断れなかったの」

「そうか。俺としてはアリサがああやって他の男に言い寄られているのを見るのは心穏やかじゃないよ。ましてや2日も頭を悩ませていたなんて」


(何、それ)


 まるで嫉妬のような口ぶりに私は困惑した。


(やめて、勘違いしそうになる)


 綺麗な瞳に射竦められる。私は耐えきれずにつうっと横に視線を逸らした。

 途端、カイトの雰囲気がふっと緩んだ。


「きっと皆もそうだ。アリサがそんなことで沈んだ顔をしているのを見るのは嫌だったと思うぞ」

「う、うん。ごめん」


 早とちりをしかけて私の心臓は早鐘を打っている。妙な言い回しに聞こえたが、心配しているということを伝えたかっただけなのだろう。


「それに相談してくれていたらもっと良い芝居ができた。どのみち茶番であることは逃れられなかっただろうけどな」

「ははっ、確かに」


 私は苦笑して見せた。


「悪かったな、急にあんなことを言って。吃驚しただろう」

「吃驚したのはそうだけど、でもすぐに助けてくれるための嘘だって分かったから。それに…」

「それに?」

「それに、結果的にライアンさんを撃退できたわけだし」


 思わず変なことを言いかけそうになった自分がいた。


(違う。これは、違うから)


 カイトに他意があったわけじゃない。あれは茶番。本当に滑稽な、馬鹿馬鹿しい、底の見え透いた、お粗末な芝居だ。あれは特にきっと誰も見ない。面白くも何ともない話だ。


(でもこんなにも胸が苦しいのは何故だろう?)


「アリサ、俺は」

「何?」


(俺はサリアのことしか見ていない?)


 知っている、分かっている。勘違いしないから安心してほしい。


「俺は……まぁでも即興にしてはよくできていた方だと思う」

「そうかもね」


 カイトも何かを言いかけたけれど、別の言葉に挿げ替えたようだった。

 それからお互い無言になってしまって、変な時間だけが流れていった。



「アリサちゃん、これ言っていたお土産」


 ライアンさんとのいざこざはあったがそういったことを知る由もないオーナーさんたちは私に使い切れるか分からないほど大量の調味料類と大豆を持たせてくれた。


「こんなに良いんですか?」

「大丈夫。こっちは種麹。これは特に涼しい場所で保管するかいっそ冷凍しておいた方がもつよ」

「分かりました、ありがとうございます」

「今度はゆっくりおいで」

「はい」


 私はいそいそと船に調味料類を詰め込んだ。


「何々それ?」


 レオンさんが興味津々で聞いてくる。


「これはね、私の故郷の調味料類」

「え!?マジ?超気になる!食べたい!」

「卑しいぞ、レオン」


 ギルバートさんが嗜めるが目線は調味料類に釘付けだ。


「嵐の最中にそんなものを入手していたんですね」

「確かにレオンの言う通り気にはなるな」


 エリスさんもオークリーさんも興味深そうに見つめていた。


「お前ら、貴重な物なんだからたかるな」

「カイトは気にならないわけ?」

「そりゃ気にならないと言ったら嘘になるが」


 まさか皆の視線をこんなに釘付けにするとは思わなかった。


「お口に合うか分からないですが、帰ったら何か作りましょうか。ご心配をおかけしたお詫びにでも」


 ライアンさんの件は先ほど経緯を説明して皆に謝罪済みだった。


「本当!?」


 レオンさんが目をキラキラ輝かせていて、「アリサさんお料理ができるのですか?」とギルバートさんはちょっと失礼なことを聞いてくる。


「楽しみですね」

「ああ」


 そうやって笑うのはエリスさんとオークリーさん、カイトは「安請け合いして大丈夫か?」と心配していた。


「不味くても文句言わないでくださいね」


 私は一応保険をかけておくことにする。

 色んな思いが綯い交ぜになりながら、日が暮れる前に南の島から船が出航したのだった。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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