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54.生魚の料理

 ペンションの中は外見同様に白壁だった。ドアは真っ青に塗られているのがまた良いアクセントになっている。王城の白い石造りとはまた異なる異国情緒だ。食堂も同じ造りで、テーブルと椅子も白く塗られていた。統一感があって凄くお洒落である。4人掛けのテーブルは恐らくいつもは離れて置いてあるのだろうが、今は縦長にくっつけられ、食堂の真ん中に置いてあった。そこに隊員20名がちょうど座れるようになっている。

 座席は自由席だったが、やはり皆気心知れた人たちで固まるので、私もカイトたち近衛兵に交じって食事を摂らせてもらうことになった。


「この度は窮地を救っていただき、本当にありがとうございます。ささやかではございますが、お食事をご用意いたしましたのでご賞味ください」


 そう言って次々と料理が運び込まれてきた。メインはカルパッチョで、その他にクロックムッシュ、季節野菜のサラダ、スープはニンジンの冷静スープだろうか。


(流石に和食ではないか)


 ほんのり期待していた自分が恥ずかしかったが、どれも美味しそうだ。


「本日はメインにこの島の名物である生魚のカルパッチョをご用意致しました。今回は新鮮な白身魚を使用しています」

「お、これが噂の!やったなアリサさん!」

「そ、そうね」


 レオンさんが嬉しそうにしているが、私は内心がっかりしていた。


(完全に早とちりしたわ)


 生魚を使う料理なんて刺身以外にないと思っていたが、まさかカルパッチョだったとは。


(ってことは、醤油もないか)


 名物の生魚料理がカルパッチョだった以上、和食の線は潰えただろう。私は自分が思っていた以上に期待していたことを自覚した。そしてその勝手な期待が呆気なく崩れ去ったことに意気消沈していた。


(お刺身食べたかったなぁ。まぁこんな白と青で統一されたお洒落な場所に醤油がある方がおかしいか)


 変な理屈をつけてでも自分を宥めないとメンタルがやられそうだった。というかもう大分落ち込んでいた。



 食事終わり、カイトがそっと話しかけてきた。事情を知っているカイトだけが私の異変に気がついていたようだ。


「アリサ、残念だったな」

「うん、そうね。生魚のカルパッチョは予想外だった。多分探している調味料もないわ」


 正直まだ心の整理はついていない。私は生魚の料理に期待しすぎていたのだ。


「まぁでも記念に同じ異世界人の話は聞いてみようと思う」


 滞在時間はあと1時間くらいか。今は食事の後片付けで忙しそうにしていたので、一息ついた頃に話しかけようとは思っていた。

 その時、1人の騎士兵がカイトを呼びに来た。


「隊長、欠航の旗が上がっています」

「何?」


 カイトが急いで外に出たのにつられて私も見に行く。確かに桟橋の所に欠航を合図する赤旗が掲げられていた。そう言われてみれば先ほどよりも雲が分厚く、また風も出てきて波が高くなっている。


「ただの雨なら良いが、嵐なら数日は帰れないな」


 ここで足止めを食うのは痛手だが、自然現象なので仕方がない。カイトはペンションに戻ると帰りの船が来るまでの間、宿泊できないか交渉していた。どのみちこの数日は観光客からの収益もないオーナーとしてはこのビジネスチャンスを逃すはずもなく、二つ返事で了承をしてくれた。皆この事態には悲喜交々といった感じだ。


 オーナーさんたちは急いで部屋の清掃をしていた。魔法があるとは言えそこそこ時間がかかる作業だったので、それまでは食堂やロビー、談話室などで思い思いに過ごした。


(オーナーさんたち清掃が終わったら私たちの夕飯作らないといけないよね)


 滞在時間が伸びたので話を聞く機会は増えたが、今日話しかけるとしても夜になりそうだった。しかもオーナーさんたちにとって多忙な1日で疲れていることを思えば明日でも良い気がする。どのみち記念会話みたいなもので、こちらとしては急いでいない。大体約200年前の異世界人なら江戸時代後期くらいではないか。その人のお孫さんと私が話したところで共通の話題など存在するのか?私は段々億劫になってきた。和食調味料が手に入らない以上、知らない人と話をするメリットが湧かないのだ。


(ああ、早く帰りたいな)


 荒れ狂う海を見たところで何も面白くないだろう。私は目を閉じ、今朝の海と空を思い出した。あんなにも輝いて見えたのに今は灰色だ。絶望に打ちひしがれている自分の心模様でも映しているのだろうか。



 やがて部屋の清掃が終わると、客室へ案内された。女性は私1人なので1人部屋をあてがってもらった。食事の時間だけ決まっており皆と顔を合わせるが、あとは自由行動だ。風呂は1階に大浴場があって時間内であればいつ入っても良い。こちらの世界は風呂文化が発達しているので古代ローマのように公衆浴場がある。実はお城にも大浴場があるが、お城に勤めている人全員が入れるお風呂なのでかなり広く、ごみごみしていてせわしなかった。1度使って以来、お城では贅沢にもずっと客室風呂を使わせてもらっている。お湯は自ら魔法で生成しているので許してほしい。


 雨が降ってきた。風もかなり強いので嵐になりそうだ。この感じではここで2、3日は足止めを食らうかもしれない。外出することもできないので私は大人しく持ってきていた本を読むことにした。ちなみに船が欠航して足止めされることも加味して一通り自分の荷物は持ってきていたのだ。まさか本当にこんなことになるとは思わなかったが、備えあれば憂いなしである。


 夕飯の後には近衛兵のみんなからお酒に誘われた。どうやら食堂では夕飯時からお酒が提供されるらしい。あまり気分ではなかったがこの機会を逃すと皆とはなかなかお酒を飲めないだろうなと思って混ぜてもらうことにした。乗り気ではなかったものの参加してみれば楽しく、少し気が晴れた。お酒と仲間の力は偉大である。


 食堂の営業が終了して宴会がお開きになり、私はお風呂に入りに行くことにした。本当はアルコールを摂取した後にお風呂は良くないのだが、大して飲んでいないので大丈夫だろう。大浴場には私1人、貸し切りである。優雅な気分で湯舟につかり、疲れを癒した。


 お風呂から上がって長い廊下を歩く。廊下の先の右側には食堂があって、この廊下のちょうど右側の真ん中辺りには従業員専用と書かれたドアがあった。きっと厨房か休憩スペースなのだろう。暑いからか部屋のドアは開いており、代わりに中が見えないよう衝立で目隠しをしていた。


 そこから、この世界では嗅いだことのない匂いが漂ってきていた。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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