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53.いざ南の島へ

「わぁ、大きいね」


 物資を積んだ帆船は近くで見るととても大きかった。3本のマストには三角の帆がついていて、操縦するためか縄が張り巡らされている。船には詳しくないのでどうやって操作をするのかさっぱり分からない。


「船に乗ったことは?」

「1回だけある」


 考えてみたら帆船はおろか、元の世界の船だってロクに見たことはない。旅行で1度だけ乗ったことがある程度だ。そう言えばその時は酔い止め薬を飲んでいたので船酔いにはならなかったが、元の世界の船よりも明らかに揺れそうな今回の船は果たして大丈夫だろうか。


「船酔いが心配かも」

「馬車が平気なら大丈夫だと思うが…」


 駄目なら海に吐くしかないだろう。それをするくらいなら独りで箒に乗って南の島に行った方がマシかもしれない。ちなみに箒は何かあった時のために借りたままだ。


(まぁ自分で行きたいって行ったんだし)


 後は船酔いした時に考えようと思った。

 水夫数名と隊員20名で南の島へと向かう。海は穏やかで船酔いの心配は必要なさそうだった。風属性魔法を操れる水夫が帆に風を当てて推進力にしている。馬車よりも早かった。


「まさか任務で南の島に来るとは思わなかったよな」


 レオンさんが嬉しそうに話し出した。


「まぁ確かに。普段なら島に5日間は滞在することになるからな」

「移動も含めたらとんでもない長期休暇だよね」


 オークリーさんとエリスさんは苦笑いをしながら現実的なことを言う。ちなみに今回は当日中に帰ることになっている。島に行ったら1度観光客を乗せて船が帰り、また私たちを乗せるために来てくれることになっていた。


「俺、せめて名物だけでも食って帰りたい」

「良いですねぇ、私も気になります」


 レオンさんがそんなことを言うので、思わず私も同意してしまった。


「アリサさんもご興味がおありで?」


 ギルバートさんが意外だとでも言わんばかりだ。


「だって生のお魚なんて珍しいじゃないですか。それだけ新鮮なんだなぁと思って」


 カイトには話しているのだが、和食調味料目当てで今回の討伐に乗り気だったことは少し不謹慎というか恥ずかしいので伏せておいた。


(まぁでも今回は醤油と味噌分くらいは働いたと思う)


 滞在中に見つけられたら良いなぁと淡い期待を抱いていた。


「時間があったらな」


 レオンさんと私はカイトに釘を刺される。

 そんな雑談をしていたら1時間はあっという間だった。


「綺麗…」


 着いた島は自然豊かな場所だった。見渡す限り透明度の高い綺麗な海と白い砂浜は勿論のこと、思っていた以上に緑が生い茂っている。植生が本土とは少し違う気がした。建物は手前の場所にはある程度立っているが、他はポツンポツンと立っている程度である。そしてその建物がまた皆示し合わせたかのように白色の外壁でできていて、とても美しかった。


 船が到着するや否や、島にいる人たちがワラワラと集まってきた。私とギルバートさん、それに奇跡兵団の数人で体調不良者などいないか確認し、必要であれば赴いて治療することになっていた。その他の人たちは荷を下ろして配ったり持って行ったりする。また観光客の人たちに荷造りを急がせて船で帰ってもらう必要もあった。


 幸いなことに体調不良者はいないということだったので私たちも物資配給に回ることになったが、それも正直あまりすることはなかった。というのも島は反対側まで徒歩でおよそ1時間くらいのこじんまりとした小島で、現地住民の人数は多くなかった。しかも住民は皆顔見知りかつ協力的だったので遠くの家の物資も「○○さんのところに届けておくわ」という田舎のノリであっという間に掃けていったのだ。


 物資の配給が終わる少し前に観光客を乗せた船が出て行った。戻ってくるまでに約2時間かかる。それまで自由時間になったのだが、とあるペンションのマスターのご厚意で隊員全員にお昼ご飯が振る舞われることになった。料理ができるまでに30分はかかるということだったので、それまではのんびり過ごすことにする。


 朝は晴れていたのに、この頃になると少し日が翳ってきていた。それはそれで気温が上がらなくて良いのだが、せっかくここまで来て爽やかな景色を拝めないというのも少し残念な気持ちになった。人の気持ちとはままならないものだ。


「どこに行くんだ?」

「ちょっと過去の異世界人について聞き込みに行こうと思って」


 私が1人で行こうとしたらカイトがついてきた。


「1人で大丈夫だよ」

「いや、暇だし散歩がてらついて行く」


 みんなとのんびりすれば良いのにと思ったが、ついてきてくれるのは有難いので黙っておくことにした。


「で、どうするんだ?」

「少し年齢が高めの現地住民にとりあえずどこに住んでいたか聞いてみる」


 この世界の人たちは長命なので何なら過去の異世界人と顔見知りの人がいてもおかしくないと思っている。

 桟橋の前方の開けた場所がこの島で一番建物が多いので、ひとまず人口密度の観点からそこへ向かった。


「あれ、みんな家に入っちゃった?」


 散策しても出歩いている人がいなかった。


「物資が届いたから家に入っているんじゃないか?あとはちょうど昼時だし」

「なるほど」


 こんなことなら物資を配給している時にどさくさに紛れて聞いておけば良かった。

 それでも粘り強く歩いていると、ちょうど前庭の家庭菜園で何かを採集しようとしているおばさんを発見した。普段なら自分から見知らぬ人に声をかけるなんて絶対にしないのだが、今回は醤油と味噌がかかっていたので覚悟を決めて声をかけた。


「すみません、少しだけお話伺ってもよろしいでしょうか?」


 おばさんは吃驚した様子だったが気の良い返事を返してくれた。


「あら、さっきはありがとうね、助かったわ。それでどうかしたの?」

「昔ここに異世界人が住んでいたと伺ったのですが本当でしょうか?」

「ああ、それならあそこのペンションを営んでいるのがご家族よ」


 おばさんはわざわざ道に出てきてその建物を教えてくれた。


「え?あそこですか?」


 おばさんが指さしたペンションはちょうどお昼ご飯を頂く予定になっているところだった。


「そう。今はお孫さんが経営しているわ」


 ということは過去の異世界人は祖父にあたるということか。


「ご教示いただきありがとうございます」

「いえ、何もないところだけどゆっくりしていってね」


 おばさんと話し終わったらもう良い時間になっていたので、件のペンションへ戻ることにした。


「ちょうど良かったな」

「うん。ご飯の後にでも話が聞けたら良いんだけど」


 というかお昼ご飯に和食が出てきたら最高なんだけどと思うのは流石に期待しすぎか。

次回は今日の20時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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