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52.巨大イカの討伐

※バトルシーンが含まれます。苦手な方はご注意ください

 これぞ南の海という美しさだった。果てしなく続く空と海の青さと、白い雲のコントラストは素晴らしいの一言に尽きる。そしてその綺麗な景色の中を箒1本で飛んでいる高揚感といったら半端じゃない。脳内麻薬が出ているのではと思うほど快かった。

 風をきってどんどん進む。途中両手を離して全身で風を浴びた。私はいま自由だと思った。この開放感がたまらない。生きている喜びを全身で味わっていた。


 やがて魔物が出るというポイントに到達した。確かに海の色がそこだけ濃い。それにとんでもなく大きかった。


(気を引き締めないと)


 いつまでも遠足気分でいてはいけない。

 私はちょうど良い緊張感と集中力に達した時、上空から先手を打った。


「ドーリーブロビー―雷の槍―」


 ジャブ程度に打ち込む。敵がいると分かったのか、10本の細長い触手が一斉に海面から襲ってきた。

 はじめは触手をしならせて鞭のように叩きつけて来るような攻撃や巻きついて来るような攻撃だった。私は全方位に注意を払いながら前後左右、そして上下の高低を活かして避ける。途中避けきれないものは光の防御を使って攻撃をいなした。


「バラコラシー―業火の球―」

「ブロビー―雷―」

「レピダアネモス―風の刃―」

「ベロスフォトス―光の矢―」

「ハリキペトラ―石の礫―」


 その触手攻撃の最中、どれが一番効果的な攻撃なのか調べたかったので、様々な属性魔法を触手に次々と当てていく。どれも大して変わらない気がしたがやはり水の中にいるなら雷が一番有効か。


「っと、危ない」


 思わず触手に叩きつけられるところだったが、昨夜のうちにアクロバット操法も身に着けていたので、辛くも何を逃れる。今は手足を使って箒にぶら下がっている状態で、私の頭上には海があった。


(本体は全然海から出てこないのね)


 できれば直接攻撃を当てたいところである。私はすぐに元の状態に戻ると触手を上手く避けながら急降下を始めた。自分を囮に使ってイカの本体を海面から引き摺り出したかった。海面のかなりギリギリのところまで近づく。私は触手に警戒しつつ、海面を旋回しながらイカが釣れるのを待った。


ジリジリする。イカとのチキンレースだ。しばらくの間はにらみ合いが続いていたが、やがて痺れを切らしたのはあちらの方だった。


(来た!)


 海面が一層暗くなったのを合図に私は急上昇する。少し遅れてザバーン!という水しぶきの音が聞こえた。私の上昇速度が速いかイカの口の方が速いか。


(この速さなら勝てる)


 このまま逃げ切って、敵が最高到達点に来た時に高火力の攻撃を繰り出そうと考えていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。


(何だあれ?)


 触手が見たこともない動きをしていた。10本の触手を器用に格子状の蓋のようにし、落下させてきたのである。まるで天井が落ちてくるトラップのようだった。


(やばい。今から横に逸れることもできない)


 どうしようと思った。しかし考える余裕は残されていない。私は触手を突き抜けるしかないと思った。


「バリストラフォトス!―光の極太矢―」


 普通の光の矢の何倍もの出力と範囲を誇る魔法である。柔らかい触手は見事に貫通していた。これなら私の身幅くらいは通れるはずだと思ったがその前に触手は痛みでばらけていた。

 私はちらりと後ろを見る。巨大な丸い口がすぐ下にあった。それが上昇を止めてゆっくりと降下を始める。本体へ攻撃するなら今しかなかった。


「フェイキブロビー!―神の雷―」


 バリストラフォトスに引けを取らないほど高火力の雷魔法だ。それを5本同時に放った。ここで確実に仕留めたかった。


 ギュィイイイイイ!!!!


 巨大なイカの凄まじい断末魔だった。思わず耳を塞ぐ。それでも身体中に振動が響いてきた。やがてそれが終わるとその巨体はゆっくりと傾いで海に叩きつけられた。どうやら絶命したようだ。


(良かった、仕留められた)


 私はほっと溜息を吐いた。


(そう言えばこの死体どうするんだろう?)


 通常魔物を討伐したら死体は火で焼いて処理をしていた。このまま海に沈めてしまって良いのか判断がつかない。魔物だからちゃんと後処理をしないと汚染物質に変わったりするのだろうか。

 私は浜辺に死体を打ち上げることにした。風魔法で水流を操って死体を運ぶ。それなりに時間を費やしたが何とか岸まで持ってくることができた。砂浜に着地し久しぶりの地面の感触を踏みしめる。空も良いがやはり最終的に人は地面に戻ってくるのだと思った。

 討伐が終わったのに何だかみんな静かだ。


(何か引かれている?)


 闇属性魔法は使用していないのだが、畏怖のような眼差しを向けられているような気がした。


「アリサ、お疲れ様」

「お疲れ様です」

「お怪我はありませんか?」


 カイトと近衛兵の皆が近づいてくる。こちらはいつも通りだった。

「何かあったの?」

「いや、何かあったと言うか、アリサの戦いぶりをみて皆放心状態なんだ」

「この間の件でアリサさんの実力に疑問を持っている人も多かったんだと思います。それが今回の討伐で払拭されたというところでしょうか。ここの人たち限定の話ですけど」


 オークリーさんが説明してくれた。


「大体あの巨大多頭蛇の時の治癒人数を考えればアリサさんの実力を疑うなど愚の骨頂ですよ」

「そうそう、魔狼は魔法が聞きにくくてちょーっと相性が悪かっただけだもんな」


 エリスさんがさも当然というふうに言い、レオンさんが前回のことを慰めてくれる。


「私は毎回驚かされますけどね」

「本当にな」


 ギルバートさんとカイトが苦笑いしていた。


「みんな、ありがとう」


 やっぱりみんなは私の味方でいてくれるらしい。温かい気持ちになった。


「さぁ、後は南の島に救援に行くぞ」


 カイトは呆然としている人たちに魔物の後処理を命じると共に、十数名ほどピックアップして南の島の救援に同行するように指示を出した。

 馬車で港町まで乗りつける。海はたくさんの漁船と思しき帆船が停泊しており、桟橋や防波堤、灯台などもあった。街並みは王都とは少し違って壁に漆喰が塗られているのかのっぺりしていた。それはそれで趣があって良い。


 私たちは先に依頼人の家に赴いて討伐完了の報告をした。今回の依頼人はこの町の町長さんである。かなり憔悴していたので討伐が終わったことを伝えたら諸手を挙げて喜んでいた。そしてすぐに南の島に救援に行くことを告げて挨拶を終える。何か立ち去る口実がないと食事や宴会など色々とややこしい話になってしまうのだ。

 私たちは町長さんのお家を後にすると漁港の方に歩いて行った。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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