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50.和食調味料の可能性

 それは昨日読んでいた本の中に記載があった。約200年前の異世界人についての記述で、その者は最終的に南の島に渡ってその生涯を終えたという。


「リリアンさん、この世界には南の島が存在するんですね」


 部屋掃除に来ていたリリアンさんに訊ねた。地理の講義ではやらなかったのだ。


「ありますよ。南の海辺から天気が良いと島が見えるそうです」

「そこって不毛の地じゃないんですか?」

「ギリギリ違います。その島は観光地として有名で、特に富裕層に人気の場所です。確か5日に1度しか船が出なくて、かつ島に入るにあたって人数制限もされているので、庶民が行くにはなかなか敷居の高い所ですよ」


 そんな絶海の孤島なのか。船が5日に1度ということは当日中に帰るかあるいは5日間は島に滞在しなければならないということだ。数時間だけの滞在のためにわざわざ遠出したくはないけれど、5日間のお休みなんてそうそう取れないだろう。そう考えると確かに敷居が高い。


「いつか行ってみたいですねぇ。きっと景色が凄く綺麗なんでしょうね」

「はい、景色は勿論のこと、宿泊先のお料理も大層美味しいのだとか」

「名物とか郷土料理みたいなものがあるんですか?」

「何でも新鮮な生のお魚が食べられるみたいですよ」

「え?」


 私はドキッした。異世界人が渡った南の島で食べられる名物が生の魚というのは偶然にしては出来すぎてはいないだろうか。


(それってもしかしてお刺身だったりする?)


 そしてお刺身を食べるということはもしかして醤油が存在している?


(醤油があるなら味噌もある?)


 およそ200年前の異世界人が隔絶された島で食文化を育んでくれている可能性があるのかもしれない。


(泊まらなくて良いから行きたい…)


 そんなふうに南の島に行きたい欲が急上昇していた折のカイトからの話だった。渡りに船とはまさにこのことである。


「カイト、私、南の島行きたい!いや、行かせてください!!」

「…急にどうした?」


 明らかに上がった私のテンションにカイトはやや引き気味である。私は興奮気味に事の経緯を話した。


「つまり元の世界の調味料が南の島にあるかもしれないんだな?」

「そう!だから確かめに行きたい!」


 ここまで誰かに熱弁をふるったことがあろうか、いやない。カイトも私に気圧されたのか最終的には連れて行ってくれることになった。


「でも体調管理しっかりして、具合が悪くなったら正直に言うこと」

「はい」

「あと、南の島に行くといっても滞在時間はそんなにないはずだから、あまり期待しない方が良い」

「分かった」


 コクコクと頷く私。少し不安そうにするカイト。しかし約束は取りつけた。外が暑いなど言っている場合ではない。私はできうる限りの用意をしてその日は早く横になった。



「そう言えば今回の討伐内容は?」


 私は馬車に揺られながら隣に座っているカイトに訊ねる。昨日はうっかり聞きそびれていたのだ。


「海に巨大なイカが現れたらしい。陸からじゃ魔法が届かないし、船も魔法の効果範囲に入る前に触手に搦めとられるから現状打つ手がないと報告に上がっている」


 どうやら今回はクラーケンみたいな魔物のようだ。


「もしかして魔物が出て船が欠航しているとか?」

「その通り」


 5日に1度の船は渡航だけでなく生活物資の運搬も兼ねている。それが途絶えているのは島の人たちにとって大問題だろう。


「船が渡れなくなって今日で8日目だ。目標では明後日には支援物資を届けたい」

「島までは船でどれくらいかかるの?」

「1時間くらいでつく」


 海までは馬車で丸2日かかるから、明日の日の入り前か明後日の日中に討伐を終えていれば間に合うといったところか。


「生活物資がないと死活問題だよね」

「島では魚も野菜も取れるから食べ物には困っていないとは思うが」

「ああ、確かに」

「問題は観光客だな。足止めを食らってかなり困っているはずだ」


 この国の裕福な人たちは重要な役職に就いている人が多く、遊び惚けているわけではない。きっとたまに取れた長期休暇を満喫していたに違いないのだ。


(それでカイトも迷っていたんだ)


 私の体調が気になるが、島のことや観光客のことを考えれば早く討伐しなければならない。それであんな返事になったのだろう。


「簡単に言うけど、実際どうやって対峙しようね?」


 そう言ったのは向かいに座っているエリスさんだった。これにはオークリーさんが答える。


「陸までおびき寄せるか?」

「ああ、なるほど。船より安全か。じゃあ陸までどうおびき出そうか?」

「私また餌役ですか?」


 私が苦笑すると皆もつられて笑った。でも私が海辺にいるだけで敵が来てくれるならこんなに簡単な討伐方法はないだろう。


「アリサなら海をどこまで凍らせられる?」

「やってみないと分からないな。でも氷の上を歩きながら範囲を増やしていけばかなり遠くまで行けるかも」

「あ、湖の時みたいに海も割れません?」

「どうでしょう?」


 そうやっていくつかアイデアを出していった。こういうのは1つずつやってみないことには有効打が分からない。


(空が飛べたら良いのにな)


 この世界の浮遊魔法は何故か生物には使えない仕様になっている。私も何度か自分の身体を浮かせようと努力したが駄目だったのですぐに諦めてしまった。


「アリサ?大丈夫か?」


 カイトが窓の外を見てボーっとしている私を心配そうに見つめる。


「あ、ごめん、大丈夫」

「アリサさん、暑さに弱いって本当だったんですね。顔かなり赤いですけど大丈夫ですか?」


 エリスさんまでそんなことを聞いてくる。


「暑いですけど、やれるだけのことはやっていますし、こまめに水分補給をしていればきっと大丈夫です」


 私は氷嚢を首筋に当てながら言った。ちなみに馬車の幌も即席で外側を白地、内側を黒地にしてもらい、日の当たらない席に座らせてもらっている。制服は夏仕様のものが配給された。薄手の生地だが、防護のため長袖は変わらない。欲を言えば半袖が良かったが、この世界には日焼け止めがないので、長袖で日焼け防止を兼ねていると思えば諦めがついた。なお外に出る時はつばの広い白い帽子と日傘を差す予定である。水筒の中身には水と塩、砂糖に今回はレモン果汁も加えた経口補水液をたっぷり作ってきた。材料も持ってきているので遠征分は賄えるだろう。


「むしろ皆さんは随分と厚着に見えますけど、暑くないんですか?」


 見たところあまり変わっていない。ちなみに防寒のマントは春から既に脱いでいる。


「中のベストを脱いでいます。あとこのテールコートもボトムスも薄生地になっているんですよ」


 オークリーさんが答えてくれた。それでも暑そうだが、皆顔には出ていない。


「私も長くここに住んでいればいつか暑くなくなりますかね?」

「自分たちも暑いことには暑いですよ」

「全然暑そうに見えません」


 私は顎に伝う汗をハンカチで拭った。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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