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49.取り急ぎの謝罪

 謹慎3日目。またしても来客があった。リリアンさんに誰か訊ねるとアギオスさんが来ているようだ。


(会うの気まずいな)


 奇跡兵団の人たちは熱狂的な信者が多く、今回のことで私に対してはかなり暴徒化しており、アギオスさんなど信仰篤い信者の筆頭のため会うのは憚られた。しかし、せっかく足を運んでくれているのに会わないわけにも行かず、私は覚悟を決めることにした。部屋の魔改造についてはリリアンさんに再び注釈をお願いした。

 アギオスさんが部屋に入ってくる。陛下と同じようにはじめのうちは部屋の様子を伺っていたが、私と目が合って急に態度が改まった。その目は軽蔑よりも辛苦を湛えていた。


「お久しぶりです、アギオスさん。このようなお部屋と身なりで恐縮です」

「アリサさん、申し訳なかった」

「え?」


 アギオスさんは私に会うなり急に頭を下げてきたのだ。


「ひとまずお顔を上げてください。一体急にどうしたんですか?」


 私は戸惑いを隠せなかった。アギオスさんにそんなことをされる覚えはないからだ。


「髪を切り、牢屋であなたを苦しめたのは私の愚息なのですよ」


 なんと、あの怒り狂った信仰心の篤い奇跡兵団の男性はアギオスさんの息子だったのか。


「昨日、余罪として牢屋での件を知り、矢も楯もたまらず来てしまった。本当に済まない」

「アギオスさんがやったことじゃありませんから。頭をお上げください」


 まさかこんな平身低頭で来られるとは思わなかった。これはこれでやりづらい。


「とりあえずおかけになってください」


 私は椅子に促した。アギオスさんはおずおずと座る。


「…アギオスさんは私に対して、その、怒ったりしていないんですか?」

「はじめは憤りを覚えた。やはりフェアリーアイとして、イヒネイカ様と同じ黒い髪を持つ者として闇属性魔法を使用したあなたを許せないと思った。息子も恐らく同じことを言っていたはずだ」

「ええ、そうですね」

「しかし、あの裁判で神々の怒りを買ったなら神々が直接手を下しに来るだろうという陛下のお話を聞いた時、私はとても納得した。その通りだと思った。我々があなたを断罪するなどお門違いなのだと。だから私はもう怒ってはいない。他の奇跡兵団の者は私のように心がついていかずまだ反感を持っている者も多いが、直に収まるだろう」


 そうであってほしいと私は願った。


「今の息子はまだ心の準備や聞く態勢ができていない。今後ゆっくり時間をかけて何度も話をしていくつもりだ。取り急ぎ息子に変わって謝らせてほしい。申し訳なかった」


 アギオスさんが机に額がつきそうなほど頭を下げる。


「顔を上げてください」


 アギオスさんと目が合う。


「やはりアギオスさんに謝ってもらうことではありません」

「しかし」

「謝罪は本人からでなければ意味がないと私は思います。特段謝罪が欲しいわけでもありませんが、どうしても気が済まないということでしたら、いつかご子息様が改心された際にでもまたいらっしゃってください」


 謝ったら許してもらえるなんて、謝罪を免罪符にされても困る。ましてや身内からの謝罪なんてあってなきようなものではないか。アギオスさんの自己満足に付き合うほど私はお人好しではない。まぁ別に本人から誠意ある謝罪が欲しいわけでもないのだが。


(本人から謝られたところで、しばらく心の傷は癒えない)


 私は母親から謝られたら許してあげなさいと言われて育ったので、基本的に許してしまうのだが、許したところで心の痛みはすぐには消えてなくなりはしない。なんだか損をした気分になる。謝罪をしたという相手の自己満足に付き合ってやるくらいなら、そっとしておいてもらう方がよほどマシだと思ってしまう。


(ひねくれているのかな、私)


 でも、アギオスさんからの謝罪は私の心の琴線に少しも響いてこないのだから、厳しくても許してほしい。


「いつになるか」

「良いですよ。取り急ぎの謝罪なんて必要ありません。それに本人が自分のやったことは正しいと考えを改めないのであればそれはそれで謝罪をしてもらう必要もありません」


 アギオスさんが項垂れる。私は残酷なことを言っているのかもしれない。この人はきっと私から許しが欲しかったのだろうから。


「この話はこれで終わりにしましょう。それはそれとして、アギオスさんにはまた機会があれば稽古をつけて頂きたいのですが難しいでしょうか?」

「こんなことになってもまだ私に稽古を付けてほしいと?」

「ご子息様と私のいざこざにアギオスさんは関係ありませんよ」


 アギオスさんはポカンとして、やがて諦めたように笑い始めた。


「全くあなたは手厳しいが怜悧で正しい。どうやら私は間違っていたようだ」

「問題の切り分けを行なっただけです」


 大体良い大人である息子の尻を両親だからといって拭こうとしているのがおかしいのだ。


「無駄な時間を取らせて済まなかった」

「いいえ、とんでもないです。アギオスさんとこうしてお話が出来て良かったです。本当にまた稽古付けてくださいね」

「その時は厳しくするぞ」

「勿論そのつもりです」

「体調もその、ゆっくり休んで。お大事にな」


 謝ろうとしたが呑み込んだのだろう。


「はい、ありがとうございます」


 アギオスさんは帰って行った。



 そしてその日の午後、また来客があった。今度はカイトだ。


「調子どうだ?って本当に涼しいなここ」


 カイトも入ってくるなり部屋を見回していた。なお、最近ではリリアンさんが何かと理由をつけては私の部屋にいたがるようになっていた。職務に忠実な侍女でさえ駄目にする涼しさなのだ。まぁ涼しいとは言っても外の暑さよりはマシというくらいだが。ちなみに私は独りの時間も確保したかったので、リリアンさんの控え室にも同じ冷房システムを導入してあげることでこの問題を解決した。


「まぁ、ぼちぼち」


 最近はサラダとパンに冷製スープをつけてもらうくらいには食べられるようになっていた。


「牢屋の件、国王陛下から聞いたよ。犯人見つけてくれてありがとう」

「ああ、礼には及ばない」


 カイトは事もなげにいう。

 リリアンさんがお茶を持ってくるまでは近況報告など当たり障りのない話をして過ごした。やがてお茶が出てきて本題に入るのかなと思っていたが、カイトがなかなか話し出さないので私から聞くことにした。


「明日から討伐行くの?」

「んー」


 何かを悩んでいるようだった。


「どうしたの?」

「いや、やっぱりアリサはもう少し休もう」

「…討伐依頼出ているから来たんじゃないの?」

「だけどまだ体調万全じゃないだろう?」

「それはそうだけど」


 カイトは少し過保護すぎると思った。


(でも、もし本当に行かせないつもりならあんな煮え切らない返事はしないかも)


 ということは何か迷いがあるのだろう。もしかしたら切迫した状況なのかもしれない。


「ちなみに次の遠征先はどこ?」

「南の島」

「南の島!」


 私の胸は高鳴った。

次回は今日の20時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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