48.禁法たる理由
謹慎2日目。思わぬ事態が起きた。
「あの、アリサ様、国王陛下がお見えになっているのですが如何致しましょうか?」
(謹慎中だから誰も来ないと思って部屋魔改造してる!というか何故国王陛下自らお見えに?私が謹慎中だから?)
私は慌てふためく。
「ど、どうしましょう、リリアンさん」
せっかく改造した部屋だが一度片付けるしかないだろう。
「片付け」
「いえ、アリサ様。よろしければこのままお通ししましょう」
「え?」
「お待たせするのも失礼ですし、私がお通しする前にアリサ様の体調が優れないための措置だと予めお伝え致します」
「大丈夫ですか?」
「陛下はその辺りは寛容な方ですよ」
リリアンさんはそう言って一度部屋を出て行ってしまった。
(考えてみたら私お化粧もしていない…)
自分としては療養中だったので全く気を抜いていた。着替えも今からだと間に合わない。
私が右往左往していると国王陛下が部屋に入ってきた。
「このようなお部屋と身なりで大変恐縮でござます」
「良い。療養中であることはカイトから知らされているし、突然訪問した余が悪いのだ」
リリアンさんが言った通り、陛下は寛容なお人だった。カイトがいちいち報告しているのは、私が一応国王陛下の食客だからか。
陛下が椅子に腰掛けた後、私も正面に腰掛けた。
「…ここは涼しいな。何をしているのだ?」
そう聞かれたので私は打ち水やカーテン、氷の柱と扇風機代わりの風魔法、半冷凍のタオルについてその原理や効果などを簡単に陛下に説明した。
「なるほど」
陛下は興味深そうに話を聞いていた。
「すまない。早速本題に入ろう。今日はいくつかの説明と謝罪をしに来たのだ」
(謝罪?)
何も謝罪をされる覚えはないのだが、一体どういうことだろう?
「まず、一昨日の夜、カイトからお前の地下牢での処遇を聞いた。すぐに調べされたところ、牢番がすぐに口を開いてな、犯人はお前の髪を切った男と裁判中にやたら食い下がってきたあの男だと判明した」
どうやらほよど私のことを憎んでいたらしい。
「お前の髪を切った男は捕まっているからな、代わりに自分の部下であるあの男を使ってああいった嫌がらせをするよう指示を出していたとのことだ。勿論この2人には今後厳しい処分が下る予定である」
「左様でございますか。お調べくださり、またご報告まで頂きありがとうございます」
「牢屋でのことは災難であった」
「お気遣い痛み入ります」
ここで話が区切れたのか、陛下はリリアンさんが出したお茶を一口飲んだ。
「…済まないが、2人は席を外してくれ」
陛下は人払いのためにリリアンさんとヴォイニッチさんにそう言う。すぐにこの部屋には私と陛下だけになった。
「次に闇属性魔法使用について、異世界から来たお前にはきちんと説明しておいた方が良いと思ってな。闇属性魔法を禁止したのは先々代国王のアルバートである。何故彼が禁止したのか分かるか?」
「闇属性魔法が卑しく下品な魔法だからではないのですか?」
「表向きはな」
私は首を傾げた。他に理由があるというのか。
「これは本来国王になった者だけが知らされることである。よってお前には箝口令を敷く。心して聞け」
「はい」
「アルバートが闇属性魔法を禁止した理由は、闇属性魔法の多くはリスクを伴う危険な魔法が多いからだ。例えば今回の昏倒魔法は外れれば術者が昏倒する」
私は吃驚して国王陛下を見た。そんなリスクがあるとは知らなかったのだ。
「その他には例えば莫大な魔力と引き換えに発動する魔法や、術者の命と引き換えに誰かを蘇生させる魔法など、術者に負担や代償が多くかかる魔法が多いのが闇属性魔法の特徴である」
「そのようなリスクが多い属性なのですね。恐れ入りますが1つご質問をよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「この世界の住人は必ず無属性魔法の他、属性魔法が1つ使えると伺っております。闇属性魔法のみしか使えない者はそれを禁止されると不憫ではありませんか?」
「光属性魔法を使える者は闇属性魔法を扱える。この属性に関してはどちらか片方しか使えないということはないのだ。故に光属性に適性がある者に対する禁法である」
「…ご教示頂きありがとうございます」
やはり光と闇は一対なのだと私は思った。
「うむ。それでアルバートは禁止したのだが、はじめのうちはなかなか浸透しなかった。逆にリスクなしに便利な魔法も多い属性だからな。それでアルバートは人の信仰心を利用したのだ。結果はこの通り」
国王陛下は両手を広げた。
「闇属性魔法を使う者はいなくなった」
人の信仰心を利用するのはどの世界のどの時代の王様も変わらないらしい。
「この世界で闇属性魔法を使ってはならない理由が理解できたか?」
「はい、重々承知致しました」
何故闇属性魔法だけ禁止されていたのか。ずっと疑問だったし、非効率だとさえ思っていた。信仰という話をされても全然ピンとこなかった。それが今、術者の身を慮ってのことだと知り、すとんと胸に落ちた。
「それで陛下はあの裁判の基準を信仰心ではなく、闇属性魔法使用における妥当性に重きをおいて裁定しているのですね」
「そうだ。そしてこの事実は国王しか知らないから余が裁判官を務めている」
「何故、私にそのことをご教示下さったのでしょうか?」
そんな重大な秘密を知らされても、うっかり口を滑らせたらと思うと困ってしまう。
「お前は既に誰かのために2回も闇属性魔法を使用している。今後も躊躇いなく使われては困るのでな」
信仰心という理由では私の闇属性魔法使用を止められないと分かったからか。
「仰る通り、信仰という理由では納得しておりませんでした。危険だからという理由で禁法になったということであればその方がよほど頷けます」
「うむ。以後重々気を付けるように」
「はい、肝に銘じます」
陛下は1つ頷いた。
「では次は余の懺悔を聞いて欲しい。巨大多頭蛇討伐の件についてだ。あの時討伐方法についてお前から大量の酒が必要であると聞いていたが、王都から輸送するには時間がかかりすぎると言った。そしたらお前は自分で何とかすると答えたな」
「はい、そう申しました」
「あの時、余はお前が闇属性魔法を使用して酒を生成することが分かっていた。それでいて止めなかった。余は闇魔法と国難を天秤にかけ、魔物の討伐に重きを置いたのだ」
あの時既に見抜かれていたのか。
「それなのに余はあの裁判において討伐方法に熟考の余地があったはずだとお前を断罪した。余が闇属性魔法の使用を黙認していることが知れたら裁判そのものが立ち行かなくなる。その保身のためにお前をスケープゴートとして切り捨てたのだ」
陛下は立ち上がり、頭を下げた。
「済まなかった」
「頭をお上げください」
私も椅子から立ち上がる。
「今後の裁判のことも考えると国王陛下のお考えは致し方ないことと存じます」
闇属性魔法の使用を黙認していることが知れたら裁判官としての説得力がなくなってしまう。卑怯なことなのかもしれないが、仕方のないことでもある。
「許してくれるか」
「はい、あの時私も国王陛下を巻き込まないよう供述したつもりです」
「済まない、ありがとう」
そのことをわざわざ謝罪しに来るなんて、律儀な人だと思った。
その後は魔狼討伐の報酬について話をされて終わったが、国王陛下が去り際に突然こんなことを言ってきた。
「この冷房のアイデアをもらっても良いだろうか?」
好きに使ってくださいとお伝えした。
後日、城内では国王陛下の執務室について噂が流れていた。どうやら陛下は窓に庇を取りつけ、白いカーテンに新調することで部屋の明るさを確保したらしい。そして見栄えの悪かった盥と氷の柱は綺麗な器の上に氷の彫刻を乗せることで雅さと実益を兼ねたとのことだ。
(流石、庶民とは考えが違うわ)
溶けてなくなるものに一手間かけようとするなんて、真の上流階級の思考である。
ちなみに今後この冷房についても陛下のワンランク上のものが採用されて大流行りすることになった。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




