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45.異端審問

※1話に収めたかったので少し長めです

「裁判を始める」


 厳かな雰囲気と共に裁判が始まった。


「まずは本件に関して、先日の討伐の総指揮にあたっていたカイト・カーライルより報告書が上がっている。これを要約すると、被告のアリサ・クロダとオークリー・ティンバーレイクが夜の見張りにあたっていた際、討伐対象の魔物に奇襲を受け、ティンバーレイクが食われかけた。その時被告が魔物に闇属性魔法に属する昏倒魔法をかけて助け、ティンバーレイクがこの魔物に止めをさしたと書いてあるが、この状況について間違いはないか?」

「はい、間違いありません」

「何故この時、他の魔法ではなく昏倒魔法をかけた?」

「オークリーさんはこの時魔物の口に剣をつっかえさせて呑み込まれるのを耐えている状況でした。その奇跡のようなバランスを保ちながら救出する魔法を考えた時、少なくともその時の私には昏倒魔法以外の救出方法が思いつきませんでした」


 異端審問は思った以上にまともだった。もっと信仰心について問われるかと思っていたが、その状況における闇属性魔法の妥当性を考慮してくれるようだ。


「致し方ない状況に思えるが、何か他にこの状況について意見のある者はいるか?」


 ここで奇跡兵団の1人が手を挙げた。


「そもそも初手で光の防御を使ったのが間違いではありませんか?」


 それは私も同じことを考えていた。


「なるほど。では討伐の際、光の防御は使われなかったのか?」

「光の防御は1、2度であれば受けられる耐久性があり、奇跡兵団の人たちも防御として使用していました。仰る通り他の防御などを使えばそもそもそのような事態にはならなかったのかもしれませんが、日頃から彼女が最も使用する防御として咄嗟に出たということであれば頷けますし、それほど妥当性を欠いた判断ではないかと存じます」


 ギルバートさんが反論してくれた。泣きそうだ。

 国王陛下は何かを思案するように自分の豊かな顎髭を撫でていた。


「ふむ。では他に意見のある者はいるか?」

「はい」


 またしても先ほどの奇跡兵団の人だった。


「その者は闇属性魔法という卑しく下品な魔法を使い、更には魔物を打ち取るよう近衛兵を唆したのです。結果唆された近衛兵はこの魔物を打ち取り、討伐は終わりましたが、この者の名誉は大きく損なわれたのではないでしょうか?」

「オークリー・ティンバーレイク答えよ」

「損なわれていません」

「他には?」

「はい」


 また同じ人だった。


「本案件とは外れますが、以前8つ頭の巨大蛇の魔物が現れた際の討伐方法として大量の酒が用いられておりました。しかし兵站で輸送した記録もありませんし、ダソス森林という酒造もない場所であれほど大きな魔物を酔わせる酒など入手出来ません。これは物的証拠はなくあくまでも我々の推測ですが、この者が闇属性魔法の酒生成魔法を使用した可能性があります。納得のいく回答を頂けないでしょうか?」


(今更掘り返されたか)


 あの時のことは私が色々と派手に立ち振る舞ったこともあって、酒がどこから湧いてきたのか怪訝に思う余地など皆なかった。それが今回私が捕まったことを受け、ふと疑問に思った人が出たのだろう。完全に別件逮捕であるが、どうするつもりなのか。


「全くの別案件だな。では魔狼の件についての検討は以上で良いか?…では巨大蛇の魔物の件についてもまとめてこの裁判で扱おう。分けるのも面倒だ」


 裁判を別日にされたら再び牢屋行きになるところだったので私としては有難い。もうあの牢屋に戻るのは勘弁願いたいところだ。


「被告、回答せよ」

「はい、事実です」


 今更物的証拠など出ては来ないが、否定したところで納得のいく回答を出すことは出来そうにもなかったので大人しく認めることにした。


「何と!では先日の討伐の際、被告は咄嗟に闇属性魔法を使用したと供述しておりますが、もしかしたら常習していた可能性もあります!」


 水を得た魚のように奇跡兵団の男性は私の供述に対して喜んだ。


「念のため被告に聞いておくが、今まで闇属性魔法は何度使用した?」

「全部で2回使用しました」


 本当は3回だ。最初の1回は本当にお酒が作れるか部屋で試していたのだが、それはまぁノーカンにさせてほしい。

 国王陛下が苦笑した。


「まぁ、そう言うだろうな。他に嫌疑がないのであれば、この裁判では2回の闇属性魔法使用について扱うが良いな?」


 流石にもう叩かれてもホコリは出てこなかった。


「うむ。では被告よ。討伐の際、酒でなければ倒せなかったと思うか?」

「分かりません。あの手の魔物を酒に酔わせて倒すというのは私の国の古くから伝わる討伐方法であり、それ以外の方法を検討しておりませんでした。また、私が討伐依頼を頂いた時、喫緊の問題であり、一刻の猶予も許されない状況でした。大量の酒を王都から運ぶ場合、輸送に何日も要します。そんな時間はとてもありませんでしたので私は現地で酒を作りました。他に良い討伐方法があったのかも知れませんが、比較的被害の少ない方法であの魔物を倒せたとは存じます」


 酒を使った討伐方法については陛下に相談していたことだが、それに触れたら今度は陛下にあらぬ疑いがかけられる可能性もあったのでその辺りは省いて話した。


「討伐方法については他に検討の余地はあったかもしれぬな。しかしこれについてもやはり情状酌量の余地というのは十分にあると思うが、何か他に意見のある者はいるか?」

「はい」


 再び同じ人だった。どうしても私を追放したいらしい。国王陛下もげんなりした顔をしたが、発言を許した。


「国王陛下の過去の判例の傾向として、闇属性魔法使用に関する妥当性を基準に裁判を行なっていることは重々承知しております。しかし、今回に関しては話が違います。被告はフェアリーアイという神々の寵児です。この者が闇属性魔法を使用することはイヒネイカ様ひいては神々への冒涜に当たります!今回はそのこと自体を問題として取り上げるべきではないでしょうか?」


 それはもう証明や弁明はできない。私は冒涜したと思っていないけれど、彼らにとっては冒涜行為なのだ。その話は永遠に平行線をたどってしまう。信仰心や気持ちの問題であり、そこに論理的思考は存在しないだろう。まぁ本来の異端審問とはそういうしょうもない話ではあるのだが。


 そもそも異端かどうかと聞かれれば私は異端だ。異端とは同じ宗教内でも教典などに対する解釈の違いで、正統とされる教義から外れた考えを持つ者のことをいう。私は女神イヒネイカは光と闇の二面性を持つ存在だと解釈している。そのため闇属性魔法が卑しく下品な魔法であるとは考えていない。それはきっと正当な解釈からは外れているだろう。というか異端者どころか異教徒の可能性すらある。

 一応私はこの世界の神話もそういうものとして受け止めている。それにこの世界には本当に神々が、特に女神イヒネイカは存在するのだろうと強く実感もしているのだ。あの2回の夢は私の脳が勝手に作り上げたものではないと何故か確信しているのである。


(あの夢の中ではイヒネイカ様に闇属性魔法の使用は裁かれなかったと言っても、きっと信じてもらえないんだろうなぁ)


 私がそんなことを考えていると、国王陛下が突拍子もない質問をしてきた。


「…フェアリーアイか。ちなみに被告は神々にお会いしたことがあるか?正直に申してみよ。夢でも幻想でも何でも良い」


 まるで私の心の中を見透かしたような質問だ。吃驚して無言で見返してしまったが、陛下は焦らず私の回答を待っている。私は正直に話すことにした。


「夢の中で2度、イヒネイカ様と思しき女性にお会いしたことがあります」

「夢の中ぁ?何をふざけた話をしているんだ?」

「黙れ。お前に発言を許していない」


 陛下の鋭い返しに奇跡兵団の人は押し黙る。


「それはどのような場所だった?」

「はじめは明るいお花畑で、色とりどりの花と蝶に囲まれてお会いしました。2回目は暗いお花畑で、黒い花と蝶が舞う場所でした」

「そうか。被告が夢の中でお会いした女性は女神イヒネイカで間違いないだろう。何故なら余の娘のサリアも同じような夢を見たことがあると話したことがあるからだ。明るい花畑も暗い花畑も息を飲むほど美しい場所で、女神イヒネイカは心臓が止まるほど神々しかったと話していた」


 陛下が目を細め、遠くを見つめる。サリア様と話した時のことを思い出しているに違いない。


「フェアリーアイの者たちは我々の感知しえない部分で神々と繋がっているのだろう。本当に被告が神々を裏切り冒涜しているのであれば、神々がその能力や身目を直接奪いに来るはずだ。裏を返せば彼女がフェアリーアイとしての力を持つ限りは信仰深く、神々の寵愛を受けているということなのだろう」

「陛下自らこの者を弁護するおつもりですか!?サリア様がそう仰っていた証拠でもあるというのですか?」


 奇跡兵団の人は国王陛下に食い下がった。凄い胆力である。


「サリアがその時の夢を画家に描かせたものがどこかに残っているはずだ。後で見せてやろう。何なら画家を呼びつけてその時の会話を証言として聞いても良いが?」


 陛下は冷ややかだった。盾突かれたことに内心ご立腹しているように見えた。


「…いいえ、承知致しました。ご無礼をお許しください」


 流石にそこまで陛下に言われてしまっては追及する気は起きなかったらしい。奇跡兵団の人は歯をギリギリと食いしばっていた。


(サリア様と国王陛下に救われたな)


 その証明は実に鮮やかだった。


「他には何もないな?」


 国王陛下は再三手を上げてきた奇跡兵団の人を見たが、この人ももう出し尽くしたようで、挙手をする者はいなかった。


「では判決を言い渡す。被告アリサ・クロダよ、まず魔狼討伐の件はやむを得ない状況であったと推察するが、禁法に抵触していることは事実である。よって大金貨5枚の罰金、巨大蛇討伐の件については私利私欲のために使用したわけではないが、討伐方法について熟考の余地があったと考えられるため大金貨15枚の罰金、並びに3日間の謹慎処分とする」


 私は思いの外軽い罰金で済んだことに驚いた。しかも3日の謹慎なんてゆっくり休めと労われている気さえした。


「異論がなければこれにて閉廷」


 こうして異端審問が幕を閉じた。

次回で第2部完です、労いのために少し甘いシーンを入れてます。

次回は今日の20時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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