表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/162

44.地下牢生活

 地下牢は複数人で入る雑居房ではなく独居房だった。私に対する一応の配慮なのかもしれないが、牢獄の中でも最下層に位置するここは牢番が明かりを持ってこない限り真っ暗闇だ。本来であれば凶悪犯罪者でも入れておくところではなかろうか。まぁでもここしか独居房が開いていなかったのかもしれないし、そもそもここしか独居房がなかったのかもしれない。いずれにしろここは酷く暗く、そして静かだった。しかしあの森の闇ほど怖くはない。ここには私を捕食するものはいないからだ。


 異端審問は国王陛下の都合もあり7日後に行なわれることになった。魔物の討伐は大丈夫だろいうかとそれだけが気がかりだった。

 私は暗いところも静かなところも平気だったので、ここでの生活は楽だろうとはじめのうちは勝手に思っていた。ところがそんなことはなかった。


「飯だ」


 ご飯は1日3食、必ず決まった時間に牢番が運んでくる。私はその牢番が完全にいなくなったところを見図って、魔法で小さく火を灯した。手には相変わらず特注の縄がかけられていたが、私から魔法を奪えるほどではない。


「今日もダメか」


 持ってくる食事はかびたパン、酸っぱくて変な味のするスープなど、大抵悪くなっているものばかりだった。誰かは分からないがきっとわざわざあの牢番を買収してこんな陰湿な嫌がらせをしてきているに違いない。そんな奴に負けたくなかった。人間水を飲まないと数日で死んでしまうが、食べ物に関しては7日間絶食したとしても死なない。コップに入っている濁った水は部屋の隅に捨て、代わりに水魔法を使って喉を潤した。食べ物に関してはそのまま手をつけなかった。せめてもの抵抗心のハンガーストライキである。


 元々私はかなり生活習慣がおざなりで不摂生だった。夜型人間で休日は気付いたら朝ということはザラだったし、何かに夢中になっていると何食も抜いていた。だからこの独居房でのこうしたサバイバル生活は当初予定していたよりは過酷だったが乗り切れるとそれなりに自信があった。

 はじめのうちはずっと寝て過ごした。寝てしまえば暗闇も空腹も関係ない。食事の回数で何日経ったかは正確に把握できるので精神的には余裕があった。


 しかし流石にずっと寝ていると3日目あたりから寝れなくなった。そしてその辺りから異変が起き始めた。私がそのまま目を瞑って横になっていると両親の死んだときのことがふと浮かんできた。私はそれを振り払うため目を開けたが、なんとそこにも両親が横たわっていたのだ。


「う…わ…」


 吃驚した。目を開けても閉じても両親がだらりと横たわっている。


「あの時、あんな提案してくれなければ良かったのに」


 母の声でそう聞こえた気がした。その時、自分が闇に冒されかけているのだと分かった。


「ミクロフォス―小さな灯―」


 部屋が明るくなるとそれらはすぐに立ち消えた。思わず漂っているフェアリーを抱き寄せて蹲る。フェアリーはずっと抱いていると仄かに温かくてほっとするのだ。

 両親だけでなく、カイト、オークリーさん、エリスさん、レオンさん、ギルバートさんが死んでいる姿も順々に見た。皆が私を苛む幻聴も聞こえてきた。


「アリサは本当に使えないな」

「アリサさんが魔法の選択を誤ったからこうなったんですよ」

「アリサさん僕のことは守って下さらないんですか?」

「アリサさんのせいで死んじゃったよ」

「アリサさんが助けてさえくれれば」


 周囲の人たちの視線と囁き声も聞こえた。


「今回のフェアリーアイは頼りないわねぇ」

「サリア様が生きていてさえくれれば」

「闇属性魔法に頼らないと討伐できないんじゃ先が思いやられるわ」

「卑しい下品な魔法使い」


「やめてっ!!分かっているわよ!うるさい!そんなこといちいち言われなくても自覚している!」


 思わず耳を塞ぎ叫ぶ瞬間が何度もあったし、段々と情緒が不安定になっていった。結局この暗闇で嫌なことばかり想像してしまう自分がいるのだ。親しい人が死ぬかもしれない。苛まれるかもしれない。誰かに期待外れだと失望され、サリア様と比較され、使えないと揶揄され、下品だと罵られるかもしれない。取り巻きには実際そんなことを言われていたので余計胸にささっていた。でも一番怖かったのは突然聞こえてきたカイトからの失望の声だった。


「サリアだったらもっと上手くやってくれたのに」


 多分一番聞きたくない言葉が幻聴となって聞こえたのだと思う。本人から言われたわけじゃないのに人の猜疑心というのは留まることを知らない。そして闇がそれを増長させる。

 私は幻覚や幻聴が襲ってくる度に小さな明かりを灯し、フェアリーを抱き寄せた。光とぬくもりは偉大である。魔法が使えなかったらもっと危なかったかもしれない。途中までは暗闇に負けたくないという変な意地があって幻覚や幻聴が襲ってくるまでは我慢していたが、最後の方は牢番が来る時以外はずっと灯りを付けて過ごした。


 4日目の朝の食事は腐っていなかった。あちらとしても餓死されるのは困ると思ったのだろう。死なない程度にいたぶりたいといったところか。私は頑固なので勿論この食事も抜くつもりだったが、カイトに食べられるなら食べろと叱られた気がしたので結局食べることにした。その次の食事は腐っていたので食べなかった。なまじ1食食べてしまったのには後悔した。却って空腹が辛くなってしまったのである。もしかしたらこれも敵の策略だったのかもしれない。それでも食当たりは避けたかったので、必死の思いで私は空腹を堪えた。

 そんなふうにして折り返し地点に来ていた。


(あと半分の日程を発狂せずに過ごせるかしら?)


 少し自信がなくなっていた。

 しかし幸いなことに5日目の昼頃、私は独居房から出された。予定では2日後に行われるはずだった異端審問が、国王陛下の取り計らいで本日になったということだった。牢番は少し残念そうにしていたが、私は少し参っていたので国王陛下の計らいに頭が下がる思いだった。

 久しぶりの地上は眩しく、思わず開けていられなくて目を閉じた。少しずつ目を開閉して光に慣らしていく。独居房でも小さな灯りを見ていたためか部屋の前に着く頃には何とか目を開けられるようになった。


 部屋の扉が開く。今回は裁判所のような場所だった。部屋の前の壇上には国王陛下が鎮座しており、中央には被告人が立つような場所と、左右と後ろには傍聴席が設けられていた。傍聴席にはたくさんの人が座っていた。私はその人たちを見て、何だか急に恥ずかしくなった。独居房には風呂なんてないので、ポケットに忍ばせていたハンカチを水魔法で濡らして身体を拭いていた。ハンカチが汚れる度に浄化魔法もかけていたので、そこそこ身綺麗にしていたつもりだが、やはり限界がある。特に髪はかなり油ぎっていた。ちなみに身体に浄化魔法をかけることもできたはずだが、それだと魔法を使っていることがバレる可能性があるため止めておいた。


 傍聴席にはカイトやいつもの近衛兵の姿が見えた他、アギオスさんの姿も見えた。アギオスさんは癖のある茶色い髪と豊かな髭を持っていてペテロのような面持ちだ。奇跡兵団の中でもかなりの上官で基本王城にいるため、稽古はスパルタだが私の稽古に付き合ってくれる優しい人である。そのアギオスさんが険しい顔つきで私を見てきていた。あの人も信仰深いお人なので、きっと裏切られたと思っているに違いない。アギオスさんにそう思われるのは胸が痛かった。

 それでも、私には譲れないものがある。自分がどれほど失望されても、間違ったことはしていない。信念は曲げたくなかった。


 私は中央の壇上に登った。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ