40.深手
※バトルシーンが含まれます。苦手な方はご注意ください。
「何をするの?」
「相手が望むような状況を作っておびき出して討伐する」
カイトの作戦は、まずかがり火を増やして他の人が見張りにつけるようにし、私が見張りを下りる。そして自分たち近衛兵は騎士兵団の制服を来て、騎士兵団の誰かに近衛兵の制服を来てもらい、前衛の見張りに立つ。この時、近衛兵の制服を来ていない人たちだけの場所を1カ所だけ作り、その場所に自分たちがスタンバイする。敵が襲撃しやすい状況や場所をわざと作ってそこに誘いこみ、自分たち近衛兵の連携で敵を討伐するという算段だ。
「私は何をすれば良い?」
「アリサは休んでてくれ」
「そう言うわけには」
「大丈夫だ。かがり火を増やしているから敵は恐らく突撃してくる。そしたら草むらの音で大体の位置は分かるから、あとはギルが正体を暴いてくれる。それにどうせ襲撃があったらアリサは起きるだろう?なら休めるうちに休んでおいた方が良い」
私は納得がいかなかったが、カイトは頑として私を休ませたいようだった。
(どのみち起きるのは間違いないし)
お言葉に甘えて少し休ませてもらうことにした。
そして夜半。カイトの策に敵が嵌った。
「敵襲!」
私はガバッと起き上がると即座にテントを飛び出した。騒がしい方に向かって走る。光の球が空に浮かんでいた。ギルバートさんのだろうか。
テントの端まで来るとカイトたちが騎士兵団の制服で戦っているのが見えた。ギルバートさんとオークリーさんは魔法補助で、エリスさん、レオンさん、カイトが三方向から魔獣を囲んでいるようだった。既に戦闘は始まっており、今はレオンさんを飛び越えて敵が森に逃げようとしているところだ。レオンさんは魔狼を飛ばせないよう、咄嗟にその鼻面に小爆発する火球を打ち込む。敵は吃驚して一瞬怯んでいた。
「ラソフォトス―光の投げ縄―」
「バリアペトラ―重石―」
その隙にギルバートさんが光の拘束魔法の1つを使って魔獣の首にひっかけた。同時にオークリーさんが土魔法でその投げ縄の一端を巨大な岩で抑える。魔狼は首の縄など気にせずそのまま勢いよくレオンさんを飛び越えようとした。力づくでどうにかなると思ったのだろう。しかし縄が伸びきると巨大な岩の重石で魔狼は思いっきり首を引っ張られて空中で仰向けになった。この機会を逃さず、エリスさん、レオンさん、カイトが大きく飛んで斬りかかった。
敵は斬りかかる3人を確認すると、大きく身体を反時計回りに捩った。魔獣の左側から斬りかかっているカイトをその右前足で地面に叩きつけ、前方にいたレオンさんを尻尾で薙ぎ払う。レオンさんは大分遠くまで吹っ飛ばされていた。しかし右側から斬りかかっているエリスさんの対処ができず、着地した瞬間、左前足の付け根にエリスさんの鋭い突きが刺さる。肩甲骨に刺さったのか、エリスさんは剣を抜こうとしても抜けず、そのまま離脱した。
ギャウウウウウン!!!!
「カイト!レオンさん!」
私は思わず飛び出そうとしたが、隣にいた騎士兵団の人たちに止められた。
「今向かっては危険です!戦いを見守るしかありません」
「そんな」
でもこの人たちの言うことも確かだ。私が今出て行っても足手まといにしかならない。魔法が大して通じないのだから。カイトもレオンさんもすぐに起き上がっていたので、私は戦いの行く末を見守ることにした。
魔獣は痛みで呻いたがそれも一瞬のことで、すぐにオークリーさんが作り出した巨大な岩を破壊しに走り出した。その岩を守るように真正面からオークリーさんとギルバートさんが斬りかかりに行く。魔狼は両前足を振り上げて叩きつけた。2人とも飛んでその勢いのまま敵の頭部を捕らえようとするものの、雄叫びの空気砲によって吹き飛ばされてしまう。魔狼は再び両前足を持ち上げて岩に振り下ろすと、巨大な岩は粉々に砕け散ってしまった。
自由になった魔狼は再び森に帰ろうと走り出したが、前方にはカイトがいた。
「アパティスパゴス―氷の逆茂木―」
鋭い氷の障害物が生成されると、全力で走る魔獣の胸元にぶつかった。強靭な肉体で氷の方が壊れていたが、少しの足止めにはなったようだ。敵は走るのを止め、その氷を飛び越えようとしたが、同時にカイトはすぐに氷の魔法を解除し、真正面から飛び出した。その剣は心臓を捉えるかと思ったが、魔狼が飛ぶ方が僅かに早かった。胸元を逸れた剣はしかし魔狼の腹部に突き刺さり、敵が飛んでいた勢いもあって数十センチは切り裂いたように見える。
(凄い…)
深手を負った魔狼だったが倒れることはなく、凄まじい勢いで森に逃亡した。
「立てるか?追うぞ!」
「待てカイト、お前だけ残れ」
オークリーさんがカイトにそう言う。
「でも」
「相手は手負いの狼だ。何をするか分からない。復讐でまたここを襲ってくる可能性もある」
「…そうだな、分かった。頼む」
「誰か代わりの剣を貸して頂けませんか?」
エリスさんが騎士兵団の1人から剣を借りると、すぐに4人は血の跡を追って森の中へと入って行った。
「カイト、大丈夫?」
「問題ない。あと少しだったんだが」
一番深手を負わせただけに悔しそうだった。
「皆持ち場に戻ってくれ。オークリーの言う通り4人の追手を巻いた後こちらに来る可能性は十分にある」
皆戦いを見守るために集まっていたが、総指揮のカイトの言葉にハッとして持ち場へと戻って行った。
(闇属性魔法が使えたら良かったのに)
私は戦いに参加できない自分が悔しかった。闇属性魔法ならもっと眠りとか昏倒とか毒とか足止めのバリエーションが増えると思うのだ。しかし、この世界の人たちは闇属性魔法に対して強い嫌悪感がある。特に奇跡兵団の人たちは女神イヒネイカの熱狂的信者が多く、アギオスさんを筆頭に闇属性は不信仰者のシンボルであり悪といった思想を持っているところがある。その他の人たちともそれとなく話したことがあるが、皆顔を顰めていたので今まで人前で使っては来なかったけれど、正直縛りプレイをしているようでもどかしい。
結局襲撃はなかったが、明け方に戻ってきた4人の表情は険しかった。
「すまない。取り逃がした」
オークリーさんがカイトに謝った。
「やっぱり尋常じゃないよ。途中痕跡を残さないために川に入っていたし、川べりに痕跡が残っていないかも確認したけど、足跡も血痕も残っていなかった。足跡は風魔法で消して、傷は火魔法で焼いて止血したんじゃないかな」
エリスさんがそう報告する。
「しかし手負いの今がチャンスです」
「日中も捜索しようぜ。やっぱり夜だとちょっと暗かったから見落としてる可能性あるし」
ギルバートさんとレオンさんの提案にカイトも頷いた。
「ああ、まずは少し休もう。捜索はそれからだ」
「私もついて行っていい?」
「お願いしたいから、アリサも休んでくれ」
4人のことが心配で結局夜通し起きていたのだ。
「捜索隊を出すことは皆に伝え、準備をしておいてもらう。ひとまず休もう」
長い夜が終わり、私たちは泥のように眠りについた。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




