39.急襲と知恵比べ
※バトルシーンが含まれます。苦手な方はご注意ください。
目標場所まで到達した時、私は合図を出した。
「ベロスフォトス―光の矢―」
私は櫓から魔獣に向かって方向に魔法を放った。前衛の見張りがその合図を受けて認識阻害を解除する光魔法を使い、狼の姿を暴く。
正体を暴く魔法が放たれたのと同時に何人もの魔法使いが動いており、狼の姿が出てきた時には既にその足元に大きな泥濘が出来上がっていた。底なし沼のようだ。
「あれ、上から風圧もかけている」
なるほど、通りで沈むのが早いわけである。
(これいけるんじゃない?)
しかしそう簡単な問題ではなかった。
ヴァォオオオオオオオン!!
物凄い雄叫びが轟いたかと思うと、狼の回りには凄まじい突風が吹き荒んだ。誰も近づけない。しかも風圧にも負けずにその風で身体を浮かし、前足を地面にかけたかと思うと沼から一気に抜け出した。恐ろしいほどの頑丈さと判断力である。改めてとんでもない魔物を相手取っていると感じてしまう。勝機はあるのだろうか?
奇襲に失敗した魔狼はそのまますぐに森の中へと逃げて行った。
「難しそうね」
「そうだな、まぁいつかは勝てるだろ」
レオンさんは身体がムズムズしているようだった。きっと護衛よりも前衛で戦いたいのだろう。
次の襲撃はそれからまた少し経った夜中のことだった。森の端に急に現れたと思ったらそのまま勢いよく飛び出し、風魔法で突風を吹かせて近くのかがり火を吹っ飛ばしていた。
「ベロスフォトス―光の矢―」
私が合図を出したら、狼は奇襲に失敗したとすぐに分かったのかまた森の中へ消えて行った。
三度目は襲撃ではなかった。夜明け前に森の端でじっとこちらの様子を伺っていたのだ。
「どうしよう?」
10分以上経過していた。レオンさんが紙飛行機で指示を仰いでくれ、追い払って良いということだったので光の矢を打ち込んだ。狼は三度森に帰って行った。
朝になると襲撃はぱたりと止んだ。私は見張りを交代した。日中の平原なら草の不自然な動きで分かるため、私でなくても見張りは務まる。一睡もしなかったので流石に疲れていた。
「不寝番お疲れ様。ゆっくり休んで」
私が欠伸を噛み殺しているとカイトがやってきてそう労ってくれた。
「カイトはちゃんと寝たの?」
「ああ、寝かせてもらった」
「そっか、じゃあお休み」
「お休み」
カイトと別れて自分のテントに向かう。私のテントは特注の1人用だ。戦闘員は男ばかりで大きいテントに複数人が雑魚寝しているが、私はそういうわけにはいかないので作ってもらった。快適である。しかも襲撃があった時も多少は安全な場所として拠点テント群の真ん中辺りに設置してくれていた。
私は横になると、あっという間に眠りに落ちていた。
「襲撃だ!」
誰かの声でガバッと飛び起きた。テントを出るとすぐ前方の空に火災旋風のようなものが複数見えた。平原の様子はテント群に遮られてここからでは見えないため、私は急いで前方の見渡せる場所に走って行った。
平原は旋風によって轟轟とうなりを上げていた。この草のざわめきでは常人が敵の位置を把握するのは難しいだろう。
「アリサ、敵の場所分かるか?」
カイトが私に気付いてやってくる。
「いや、見当たらない」
いくら目を凝らしても前方の平原には黒色のフェアリーだまりは見えなかった。
嫌な予感がして後ろを振り返ったら、私の後方にいたエリスさんが見えない何かによって空中に投げ出されていた。
「エクテーシー!―暴け―」
私は咄嗟に正体暴きの魔法を使ったが、姿が見えた時には魔狼は私を狙って右前足を振り上げていた。
(あ、間に合わない、死ぬ)
暴く魔法ではなく防御魔法を使っておけば良かったと後悔した。
それから複数のことが同時に起きた。まず隣にいたカイトが常人離れした反射神経で私を抱いて飛び、地面に押し倒した。私を庇うカイトの頭上すれすれに魔狼の爪が掠めていく。その直後、魔獣が変な叫び声を出した。頭を傾けると、魔獣の右前足から血が流れており、レオンさんが剣を振り下ろした格好で立っている。
手負いになった狼は逃亡した。こちらも突然のことで深追いできなかった。
「大丈夫か?」
脅威が去った後、カイトは身を起こし、私の手を取って起こしてくれた。
「ありがとう、あの時防御魔法にしていれば良かった」
「咄嗟のことだ、仕方ない」
「あ、エリスさん大丈夫かな?」
「飛ばされていただけだから大丈夫だろう」
「もっと心配して。死ぬかと思った、マジで怖かった」
「ご愁傷様」
「エリスさん!良かった」
「アリサさんもご無事で何よりです」
怪我もなさそうだ。エリスさんとカイトは同期なので随分とフランクに会話をする。
カイトが近づいてきたレオンさんに声をかけた。
「レオン、手応えはどうだった?」
「全然ダメ。骨は断てないと思う。見てこの剣の刃こぼれ、凄くない?」
カイトもエリスさんも顔を顰めていた。私には分からなかったがよほどの痛みようらしい。
「ともかく奴は手負いだ。追うぞ」
その後探索隊を向かわせたが結局見つからずに逃げられてしまった。
(ね、眠たい…)
私はあれから夜の櫓の見張り専門になり、日の入りから日の出まで櫓に立つことになった。手傷を追わせてから4日が経過している。最初の2日は襲撃はなかったものの、魔狼は日中の間ずっと遠吠えをしていた。これは日中に寝る生活をしていた私の睡眠時間を確実に削ってきた。しかも後半2日は傷も回復したようで日中に度々牽制のような襲撃をしてきており、私の不眠は加速の一途を辿った。腹立たしいことに夜は森の端から様子を伺ってくるだけで襲撃に来ない。とはいえ夜の見張りは大切な役目なので今日も櫓に立った。
「大丈夫か?かなり疲れているみたいだ」
今日の護衛はカイトだった。
「うん、あんまり眠れてなくて。でも大丈夫、見張りはちゃんとする」
「どうしても辛かったら言ってくれ」
「ありがとう」
夜の帳が降りた頃、狼はまたこちらの様子を伺ってすぐに引っ込んでいった。
「夜はアリサが見張りに立っていたら来ないことにしたのかもな」
「そうかもしれない」
私が見張りに立っているか偵察に来て確認しているのだろう。
「恐ろしく賢いよ。昼間の襲撃も俺たちがいない場所から来るようになったんだ」
「へえ、服とかで見分けているのかな?」
「そうかもな」
レオンさんに手傷を負わされたことにより近衛兵を警戒しているのかもしれない。
「どうしたものか。まるで狼との知恵比べだ」
「何とか打開したいわね」
「そうだな」
そこで会話が途切れた。2人ともただ無言で立っている。カイトの護衛は久しぶりで、何だか落ち着く。他の近衛兵の皆ともかなり打ち解けたけれど、やはりはじめから一緒にいるからかカイトが一番心安いのだ。
私はいつの間にか櫓の手すりに腕をかけながら、うとうとし始めてしまった。
「アリサ」
カイトに肩を揺すられてはっとした。
「ごめん!ちょっと寝かけていた」
(見張りが寝てどうするの!)
私は内心で自分を叱咤した。
「やっぱり駄目だ、見張りを交代しよう。かがり火を増やせば昼間とそう変わらなくなるから、アリサじゃなくても大丈夫だ」
カイトが私を気遣ってそう提案する。
「それは駄目」
私は首を横に振った。
「それはきっと相手が望んでいることだから駄目。多分昼間の襲撃や遠吠えは私を寝かせないようにするためで、私を夜の見張りから下ろしたいんだと思う」
昼の狩りよりも夜の狩りの方が成功率は上がるだろう。私が夜の襲撃の抑止力になっているのであれば、ここを引くわけにはいかなかった。
「そうか、そういうことか」
カイトが何かに気付いたようで顎に手をかけて思案する。口を開いたのは少ししてからだった。
「奇妙な襲撃だとは思っていたが、確かにアリサの言う通りだ。それならそれを逆手に取ろう」
「どういうこと?」
「まぁ、まずは下準備からだ」
カイトがニヤッと笑った。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




