38.ファーストコンタクト
私たちは討伐方法を検討する前に一度拠点テントを出た。夜になる前に自分たちのテント設営をしたかったのだ。
夕暮れ時で今日は一段と西日を強く感じる。森の中はもう随分と暗いだろう。
(森の中で突然出てこられたら対処のしようがないわね)
現在も討伐部隊が複数出ているようで、暗いのに大丈夫かと心配になってしまう。
ふと何か気になって森の手前を見た。テント群からそれほど遠くない場所だ。
(何で気になったんだろう?)
何もないところなのに、何か違和感がある。
(ああ、あそこだけ黒いフェアリーが多いんだ)
通常、私の視界に入るフェアリーは魔法を使わない限りばらけていて、漂っているフェアリーの割合も一定であることが多い。水場なら水色のフェアリーが少し多いなとか火の近くなら赤いフェアリーが多いなとは感じるけれど、通常の空間なら色とりどりのフェアリーがフワフワしているといった感じだ。
私が気付いてゾッとするのと、黒いフェアリー群が恐ろしい早さで近づいてくるのはほぼ同時だった。
「アミナフォトス!―光の防御―」
私は前に出てテント群を守るように大きく防御を張った。その瞬間ドカン!と車が正面衝突した時に似た激しい音が轟いた。
ギャン!!
防御にはじかれた痛みで魔法が解けたのか、その姿が露わになる。予想以上の大きさだった。頭の大きさだけで私の身長と同じくらい、体長としてはバドミントンコートの端から端くらいまでくらいだろうか。狡猾で獰猛そうな顔つきは恐ろしいが、白銀のボディは美しく神々しささえあった。
「襲撃だ!」
拠点は蜘蛛の巣をつついた騒ぎになった。魔狼はじっと私を見ていたが、何人かがすぐに魔法の攻撃を始めると森の中へ消えて行った。
(怖かった…)
手のひらにはじっとりと嫌な汗をかいている。
「よく最初の攻撃を防げたな」
カイトが驚いていた。
「黒いフェアリーがたくさん集まっていて、魔法を使っているようだったから」
「そうか。フェアリーが見えるからか」
「うん。狼そのものが見えたわけじゃないの」
「もしかしてアリサさんを狙っての襲撃でしょうか?」
ギルバートさんが嫌なこと言うが、過去の討伐でも魔物が私を狙ってくることは多くあった。魔力の多いフェアリーアイは魔物にとって芳醇な香りがするのだろう。
「そうだろうね。さっきの話だと今までは人間を襲う旨味があんまりなかったからやってなかっただけでしょ?今のは牽制というより狩りって感じだったし、きっとまた来るよ」
レオンさんがストレッチを始めながら言った。
「場所を変えた方が良い。ここは森が近すぎる」
「そうだな。急いで平原に拠点を移そう」
オークリーさんとカイトが頷き合う。開けたところの方がまだ対応できるということなのだろう。
「森の中を探すより平原で襲撃を待つ方がマシですよ」
エリスさんが私を気遣うように肩をポンと叩いた。敵との遭遇率をあげてしまったなとか今この時間から移動させるの大変だろうなとか、色々申し訳なさが募っていたところだったので、エリスさんにそう言われて私は少し気が楽になった。
平原は少し行ったところにある。手分けして浮遊魔法でテントの移動をした。私はテントの移動は手伝わず、見張り役として周囲をずっと警戒していた。魔法が使えるので引っ越しは私が思った以上に短時間で済んだし、この間襲撃もなかったので一安心だ。
拠点テント群は平原のど真ん中に立てられた。その周りには夜でも見やすいようにかがり火が焚かれ、全方向監視できるように簡単な櫓も設置した。その夜はひとまず私が櫓に立つ見張り役を買って出た。馬車で移動していたので疲れてはいたけれど、興奮して寝られそうにもなかったからだ。それに敵を探知できる私が見張りをする方が良いだろう。
すぐに作戦会議が開かれていた。私は見張りのため不参加だ。1人で櫓に立とうと思ったら、護衛としてギルバートさんがつくことになった。カイトはできる限り専属護衛として私についていてくれようとするが、どうしても駄目な時は他のメンバーにお願いをする。
「作戦会議の間だけ私1人でも大丈夫だと思いますけど」
「いえ、その間に何かあったら困ります」
「信用ないですねぇ」
「決してそう言うわけでは!カイトさんはあなたの身が安全であるよう、万全を期したいのだと思います」
「冗談ですよ」
ギルバートさんはこう言っては何だがからかい甲斐がある。
「作戦会議は何を話しているんでしょうね?」
「おそらく足止めの方法についてかと思います。拘束できるのが一番良いのですが、そうでなくとも足止めがしっかりできれば我々の誰かが懐に飛び込んでそのまま心臓を貫きます」
「なるほど」
近衛兵の皆さんはあの巨大な狼相手にも全く腰が引けていないようで本当に頼もしい限りだ。
大分経った頃会議が終わったようで、レオンさんとカイトが櫓の下まで来た。ギルバートさんに降りるように言い、代わりにカイトが登ってきた。
「会議お疲れ様」
「そっちもお疲れ様。様子はどうだ?」
「音沙汰なし。森の端にも出てないわ」
「そうか。全員がフェアリーだけでも見えたら良いんだけどなぁ」
「そしたら少なくとも認識阻害魔法はなくなるでしょうね」
「確かに」
カイトが笑った。
「それで?何か決まったの?」
「ああ、いくつか連携のプランは練った。アリサにお願いしたかったのは、敵が現れた時、すぐに突撃してくるようなら手筈通りすぐに教えてほしいんだが、ゆっくり侵入してくるようならあの辺りまで引き付けてから合図を出してほしい」
カイトがテント群の端から少し先の草原を指さした。
「随分と引き付けるのね」
「ああ」
実は魔法には射程や効果範囲がある。光の矢などの手前から何かを飛ばしたり操ったりするような魔法の多くは射程がかなりあるが、そうでないものは基本的に自分を中心に魔法の発動する範囲が決まっていたりする。普通の人は大体10mとか20mくらいだろうか。敵を引き付けるのも魔法の効果範囲を気にしてのことだろう。ちなみに魔力量に応じて距離が伸びていくようで私の効果範囲は普通の人よりもかなり広い。ただし例外もあって魔法によってはその効果範囲が固定されているものもある。認識阻害を暴く魔法はその最たる例で、ある程度近づかなければ私でも発動できない。
「他に私のすることはある?」
「今のところは大丈夫だ。ここからじゃ攻撃の連携は難しいからな」
「私、見張り役じゃない方が良かったかな?」
「いや、アリサが探知できるから作戦が成り立つんだ」
「分かった、見逃さないように気を付けるね」
「頼んだ」
カイトが降りると今度はレオンさんが上がってきた。
「交代?」
「うん。敵がゆっくり近づいてきた時に前みたいに伝令出せるように」
レオンさんが紙飛行機を投げる仕草をする。
「なるほど。良い案は出た?」
「どの足止めが有効かはやってみないことには分からないなー」
「そっか」
プランが出るだけ重畳だろう。
それからまた少し時間が経ち、先に休む人たちが出始めた頃だった。
「来た」
「どのあたり?」
「あそこらへん。ゆっくり近づいてくる」
平原のかがり火は実はさりげなく不均一に立てられており、いくつか狼が通りそうな細い暗い道を作り出していた。そのうちの1本を辿ってきている。
隣ではレオンさんが紙飛行機を飛ばして前衛に大まかな位置を伝えていた。私は今すぐにでも合図を出したいくらいだったが、カイトが言っていた場所まで我慢する。神経が張りつめていた。
そしてようやく目標場所まで到達した時、私は合図を出した。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




