37.魔狼
春も終わりかけになった。あれから私たちは何度か魔物の討伐任務をこなしていた。カイトは無事に専属護衛となり、またカイトの班も私に随行するため、エリスさん、オークリーさん、ギルバートさんとレオンさんとは大分親しくなったと思う。
あのヤマタノオロチのような魔物の1件以来、私が派遣される先には必ず既に兵団員がいた。先に派遣された兵たちで片付けられない魔物の討伐を任されているということだ。考えてみたら討伐依頼時には手をこまねている強個体の魔物の討伐をお願いしたいと言われていたので、最初の派遣先に誰もいなかったのはおかしい。恐らく陛下が最初の討伐に手頃な場所を見繕ってくれたのだろう。フェアリーアイを派遣したという実績と私の経験値のバランスを上手く取ってくれていたに違いない。
私はまた派遣先に赴くと、必ず討伐依頼を出した地方の人たちとの挨拶を余儀なくされた。大抵はその地域の管理者だが、村の人たちということもあった。これはフェアリーアイに会いたいという先方の希望である。大体の討伐は私だけでなくカイトたちや先に派遣されていた戦闘員の人たちと協力して行なっているのだが、フェアリーアイというだけで私だけとても感謝をされたり優遇される時があるので本当に困ってしまう。
今回は西の国境付近の山岳に狼のような魔獣が棲みついたというものだった。普通の狼の魔獣ならここまで手を焼かないらしいのだが、どうやら敵は火、風、闇属性の魔法を数種類扱え、特に闇属性魔法の認識阻害はかなり厄介で、視界から消えるだけでなく気配も分からないのだという。足音や茂みのガサガサする音などは聞こえるみたいだが、相手はかなり狡猾でそういった物音もほとんど立てない。戦闘員は山の中に分け入って音を頼りに魔獣を探すが認識阻害魔法のためなかなか見つからず、疲れた頃を見計らって茂みから突然出てきては襲われる。しかも身体はかなり頑強で、ほとんど魔法は効かないらしい。
話を聞いているうちに私はフェンリルのような魔狼を想像してしまっていた。北欧神話における巨大かつ凶悪な狼である。
(というか魔法がほとんど効かないなら私の出番あるのかな?)
皆はきっと「フェアリーアイなら何とかできるでしょ!」みたいな感じに思っている。過大評価され、期待がどんどん膨らんでいくのがフェアリーアイの辛いところだ。でも私にも皆を期待させてしまった前科がないわけじゃないので文句も言えない。あの巨大多頭蛇の1件以来、私は戦闘員の人たちから賞賛やら羨望やら尊敬やら色々な視線をもらうし、話しかけに来る人もたくさんいて、人見知りの私としては少し辛い。でも皆好意から来てくれていることは分かるので無下にもできず、当り障りなく対応をしている。要するに私はヒーロー扱いされているのだ。とはいえ魔法がほとんど効かない相手の討伐を依頼してくるのはどうなのだろうと思う。
ちなみに私は討伐遠征のため結局王都でまとまった稽古時間を取ることができず、魔法に関しては専ら実戦経験を積み、知識に関しては隙間時間を見つけては本を読んで独学をしている。これらは今のところ何とかなっているが、問題は騎乗だ。これだけは本当に時間が取れず、私の騎乗の夢は果たせていない。今も馬車に揺られて移動中である。今回は王都から国の端の方まで行くので馬を取り換えながらおよそ2日の道のりだ。
「着いたぞ」
カイトが私を揺らす。読書をしていたはずなのにいつの間にか寝ていたらしい。手元にあった本は私の横に置いてあった。
「ごめん、寝ていた」
私も馬車に揺られてうたた寝できるくらいには馬車に慣れたということだ。
馬車は兵団員たちが寝泊りしているテント脇に止まっていた。先に一度重傷者がいないか確認する。幸いなことに現在重傷者はいないということだったので、少し離れたところにある討伐依頼者のお家に向かった。ここはフィンさんのような管理者の屋敷で、出てきたのは馬顔の獣人の男性だった。
「ようこそいらっしゃいました。あなたが噂のフェアリーアイですね?」
「はい、アリサと申します。この度は突然のことで心からお見舞い申し上げると共に、1日でも早く討伐できるよう尽力致しますので、よろしくお願いいたします」
流石に何回もやってくるとこういう挨拶も手慣れてくる。管理者の方は一緒にご飯でもと誘ってきたが、討伐後にお時間があればと丁重に断った。討伐前に私だけもてなしを受けるのは戦闘員のモチベーションに関わるだろう。逆に討伐後は付き合いもあり1回だけ食事を頂くようにしている。もう1つ断った理由としては、早く先に現場にいる人たちから魔獣の様子を伺いたかったからだ。
現状ここには他の近衛兵は派遣されていないようだった。あの巨大多頭蛇はずんずんと王都の方に侵入してきていたため近衛兵含めかなり大規模な人員が割かれていたが、ここの魔獣は侵攻してくるというより国内の山に棲みついてしまったという感じなので、厄介な強個体だが、割かれている人員としてはさほど多くはないようだ。
今の現場の指揮権は騎士兵団の偉い人が持っている。というのも現在ここには騎士兵団、魔法兵団、奇跡兵団、歩兵団が滞在しており、複数の兵団が戦闘を行う場合の指揮権は騎士兵団に委ねられているからだ。しかし今後の現場はどの兵団よりもエリートである近衛兵が指揮を取ることになる。カイトはこのチームの隊長なので現場の総指揮といったところか。
拠点のテントで現在の現場指揮官から話を伺った。事前情報とほとんど変わらなかったが、新たな情報もいくつか聞くことが出来た。
「日にどれだけ襲撃される?」
「それが、奴の機嫌次第といった感じで襲撃をされることもあればされないこともあります。人間を捕食したいと思った時に襲撃に来ているのだと思います。いつも必ず茂みや木の上から突然現れます。その奇襲が成功する時も失敗する時も狩りはとても短時間で、引き際を弁えており決して深追いはしてきません。森には他に捕食できるものも多いので無理をする必要がないのでしょう」
本当に賢い魔獣のようだ。その引き際の良さが討伐を難航させているに違いない。
「この拠点にも何度か襲撃に来ています。こちらは捕食というよりは牽制といった感じでしょうか?力を誇示した後、捕まえられる前に逃げるというふうです。あと夜中はたまに遠吠えをし、戦闘員を恐怖に陥れ、精神的に削ってもきますね」
「魔法がほとんど効かないと聞いたが?」
「効いていないわけではありませんが恐ろしくタフです。火、風、雷の魔法は怯んだりはしますがほとんど効果がありません。風の刃で首を落とせないかも試しましたが少しも傷つきませんでした。水、特に氷の打撃や土魔法の打撃もくらっていると思いますが、有効的とまでは言えません。光属性魔法に対しても爪と牙は一定の耐性があり、拘束魔法が破られたり、拘束する前に抜けられたりしますし、光の防御も大して持ちません」
光属性魔法は拘束魔法も防御魔法も有能だが、対処されるならいよいよ私では太刀打ちできないのではないかと思ってしまう。
「また尋常じゃないほど素早く、魔法が当たりにくい、あるいは逃げられやすいです。怯ませたり、少しの間動きを封じても、拘束する前には逃げられています」
「剣は?」
「魔法よりダメージが入っていると思います。それでも多少出血したぐらいではビクともしません」
理想としては怯ませて動きを止める、拘束する、剣で倒すということになるのだろうけど、少なくとも今の私には勝筋が見えていない。
「何か対策を練りたいところですね」
カイト含め近衛兵のメンバーも眉間に皺が寄っていた。
次回は今日の20時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




