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36.尽きない約束

 ステージでは代わる代わる人が代わって、その度に楽器も曲も変わっていた。また楽器だけではなく、声楽の時もあった。色んな音楽が流れてきたが、春の陽気さを感じさせる調べであることは皆一貫している。ステージ近くではその陽気な音楽に誘われてダンスをしたり、手を叩いたり、調子外れの歌を歌っていたり、皆思い思いに祭りを楽しんでいるようだった。


「あそこのステージの人たちはプロの人たちなの?」

「いや趣味で楽器をやっている町の人たちが余興でやっているんだ」

「あ、そうなんだ」


 ステージの演奏は皆どれもかなりの腕前で感心してしまう。オーディションでもやったのだろうか。


「夕方になると国王陛下の計らいで城の音楽隊が派遣されてそこのステージで演奏するんだ。それがメインイベントかな。祭り自体は夜遅くまで続くけど」

「へぇ、音楽隊があるのね」

「本当に演奏専門の部隊で、式典、パレード、兵が決起する時とか、夏に国王陛下主催のパーティーが開かれるがその時にも演奏する。あとは裕福な人たちが自分たちのパーティーを開いた時に音楽隊を借りることもあるし、定期的に各地を回って演奏会を開いたりもしているな」


 意外と多忙そうだ。


「夏に国王主催のパーティーがあるの?」

「そう、毎年一定金額の年俸を越えた人を対象にしたもので、労いの意味を込めて国王陛下がパーティーを催すんだ」


 貴族制ではないということだったが、一応そういう催しもあるんだなと思った。きっと社交界のようにさぞかし格式の高いパーティーに違いない。


「何食べたいか決まった?」

「どこも美味しそうでなかなか決められないわ」

「じゃああそこから並ぼう、あ、羊は食べられる?」

「大丈夫、むしろ好き」


 私が優柔不断だと分かったのか、カイトは自然にリードしてくれていた。私の食べ物の好き嫌いも聞いてくれるから抜かりないというか、全くスマートである。

 音楽隊の演奏会まで屋台を巡ってゆっくりと飲食をしながら過ごした。


「もうお腹いっぱい」

「アリサは少食だなぁ」

「そんなことない、結構食べた方よ」


 こちらの世界の人たちは皆健康的でよく食べる。私はもともと1日2食派で、朝はほとんど食べない生活を送っていた。こちらに来てからは3食きちんと食べるようになったので、量としては以前より食べている。太らないか心配なくらいだが、その分討伐遠征でエネルギーも消費しているから大丈夫だろう。ただ、こちらの1食はかなり量があり、食べきれない時は勿体ないが残すことにしている。そう考えると標準よりは少ないのかもしれなかった。


 メインの演奏会近くになると聴衆が多くなるので椅子やテーブルは脇に移動された。皆立ち見だ。

30分くらいらしいので、それほど苦ではないだろう。


(と思っていた時代が私にもありました)


 直前になるとかなりぎゅうぎゅう詰めになった。それだけならまだ満員電車に乗っていると思えば済む話なので良かった。問題はカイトがエスコートのため私の腰に軽く手を回すほど距離が近いということである。


(心頭を滅却して、私)


 この距離感は否応なくドキドキしてしまう。変に緊張していることが触れているところから伝わらないようにと、そればかりを祈っていた。


 やがて演奏が始まるとそれも気にならなくなった。お城の音楽隊はオーケストラのような管弦楽団

で、町の人たちの演奏も良かったが、やはりプロの演奏は迫力が違った。弦楽器の柔らかさ、管楽器の明るさ、打楽器の力強さ。それらのハーモニーが美しい旋律となって野外に響き渡る。30分はあっという間で、大喝采と共に演奏が終わった。


「凄かったわ。もっと聞いていたかった」

「今度は都合がついたら演奏会にも行こうか」

「都合がついたらね」


 それは魔物の湧き具合によって変わってくるだろう。今回の春祭りだって偶々休みが取れてこうして参加できているのだ。それにしてもカイトは約束を1つ消化するたびに1つ約束をしようとする。こちらとしては嬉しいのだが、そこまで良くしてくれなくても良いのにと思ってしまう。


(サリア様ともこうしてお祭りに来たり、他の場所に行ったりしたのかな)


 カイトの顔を盗み見る。楽しそうだった。きっとサリア様とも来ているに違いない。私はチクリと胸が痛んだ。その痛みに私は吃驚する。なんで傷んだのだろう?自分がサリア様じゃない罪悪感だろうか。


(今そういうことを考えるのは止めよう)


 そう自分に言い聞かせる。せっかくのお祭り気分に自ら水を注す必要などどこにもないのだ。

 演奏会が終わるとまた元の人混みになった。椅子とテーブルも元の位置に戻って、皆話に花を咲かせている。町の人たちの演奏も再会されていた。この時間になると大人はほとんどお酒を嗜んでいて、私たちも軽く飲むことにした。


「あれ、お嬢さんひょっとして噂のフェアリーアイじゃねぇか?本当にサリア様に似てるんだなぁ」


 隣の席のお爺さんが親戚のおじさんのような距離感で話しかけてきた。バレないようずっと帽子を被っていたのだが、目敏い人だ。その声をきっかけに周囲の人の視線が私に集まった。皆席についているので初日のように囲まれるということはなかったが、何だか居づらくなってしまった。カイトもかなり警戒しているようだ。


「おお、フェアリーアイだ」

「本当にサリア様そっくりだ」

「何か魔法で余興をやってくれ」

「行こう、アリサ」

「待って」


 カイトが席を立とうとしたが止めた。このまま立ち去ったら感じが悪いだろう。楽しい雰囲気を壊すようなことはしたくなかった。


(何か魔法で余興ね)


 1つ良いアイデアが浮かんでいたので実行することにした。それが何魔法なのかは分からない。土属性と風属性もしくは無属性を併せたような魔法だ。


(今日の楽しい気分を形にして)


 私は立ち上がって、空に手を差し伸べた。そこから色とりどりの花弁が風に乗って空からゆっくりと舞い落ちる。フラワーシャワーが広場全体に広がって、皆その美しさにしばし無言になった。そして誰かが「春だ!」と叫ぶとより一層盛り上がり、そこかしこで歓声が上がっていた。もうみんな綺麗な花弁と雰囲気に夢中で、誰も私のことなど気にしていない。


「綺麗だ。まるで花の妖精だな」


 カイトも険が取れて和やかな表情になっていた。



 そのまましばらくいて、良い時間になったので帰路に着いた。


「今日は楽しかった、ありがとう」

「こちらこそ、連れて行ってくれてありがとう。あ、ちょっと待っていて」


 危うく渡し忘れるところだった。私はテーブルに用意しておいたプレゼントを取ってカイトに渡す。


「ペンダントと、それからいつもお世話になっているお礼」

「気にしなくて良かったのに、律儀だな」

「私があげたいと思っただけだから」


 カイトは戸惑いながらも受け取ってくれた。


「開けてみても良いか?」

「うん」


 カイトがワインの袋を開けて驚いた顔をする。


「俺、アリサにワインの話をした記憶がないんだが」

「リリアンさんから聞いたの。カイトは赤のフルボディが好きって。お口に合うと良いんだけど」

「なるほど、ありがとう。開けるのが楽しみだ。こっちは?」

「そっちはワイングラス。一目惚れして買ったの」


 カイトがもう一方の箱を開け、そっとグラスを持ちあげると光にかざした。気に入ってもらえるかソワソワしていたけど、カイトは私を見て微笑した。


「確かにこれは一目惚れする。ありがとう、アリサ。大事に使わせてもらうよ」

「喜んでもらえたなら良かった」


(でもグラスと同じくらい綺麗な瞳でお礼を言ってくるのは反則だわ)


 何だか面映ゆくて私は視線を逸らした。


「今日は最後まで本当にありがとう。良い1日だった」

「私も楽しかった」

「じゃあ、また。お休み」

「お休みなさい」


 私は良い心持で寝支度を始めるのだった。

ここまでご覧いただきありがとうございます!

少しでも気になった方はブクマ、評価等よろしくお願いします!

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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