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35.春のお祭り

 私が帰って一息ついたところを見計らって、リリアンさんが隣にある使用人の控えの部屋からやってきた。


「アリサ様が留守中にカイト様がお見えになりました」

「カイト帰ってきたんですね。何か私に用事でもあったんですか?」

「はい、実は明日城下町広場で春祭りが催されますのでそれに行かないかというお誘いでした」

「行きます」


 即答だった。実は今日、広場のいたるところにポスターが貼ってあり、催し物があるということは知っていたのだ。


「けどカイト、遠征から戻って早々お出かけなんて疲れませんかね?」

「お誘いをしてきたのはあちらですし、戦闘職の方は基本タフですから大丈夫ですよ」

「じゃあ行きたいです」

「そうお返事を出しておきますね。明日の出発はお昼を過ぎてからですが、夕飯は町で食べるから帰りは少し遅くなりそうとのことです」

「分かりました、大丈夫です」


 明日の帰り、きっとカイトは部屋前まで送ってくれるだろうから、その時に今日買ってきたプレゼントを渡せば良いと思った。


「では、私はカイト様へお返事を出してきますね」

「あ、リリアンさん、これお口に合うか分かりませんが」


 先ほど買ってきた白ワインだ。


「私の分までわざわざ買ってきてくださったのですか?」

「リリアンさんには日頃からお世話になっていますし、今日オススメされたお店もどこもとても素敵でしたので、そのお礼です」

「ありがとうございます」

 自分ももらえるとは思っていなかったようでリリアンさんが珍しく相好を崩している。喜んでもらえて何よりだ。



 翌日リリアンさんと相談しながらお祭りに出かけるための服装を選んだ。


「少しフリフリが過ぎませんか?」

「いいえ、お祭りですから皆さま相応に着飾りますよ」


 今回はインナーとして白いベルスリーブのついたワンピース、この時点でヒラミが強い。そこに縦フリル付きの赤いオーバースカートを重ねた。前側がやや空いているので中の白いスカートが見えるのが可愛い。コルセットはスカートと一体型になっていた。白い長靴下と茶色いパンプスは前回と一緒だ。カイトからもらったペンダントも勿論つけていく。

 髪もアレンジしてもらったが、何だかもう分からなかった。ざっくり言うと、サイドの髪を捩って止め、その後髪を3等分にして三つ編みを3つ作って、さらにリボンを巻き込みつつそれを三つ編みしているようだった。できた大きな三つ編みは背中ではなく、左肩に流れるように結われている。お団子ではないが、つばの広い麦わら帽子を被ったら大して分からないだろう。お化粧もばっちりだ。


「最近はずっと制服姿ばかりだったからな、そういう姿は新鮮で良い。とても素敵だ」


 カイトは会って早々歯の浮くような台詞を真剣に言ってくるものだから反応に困る。一体どれだけ女性を褒めるボキャブラリーが豊富なのだろうと感心すらしてしまった。


「ありがとう、カイトもね」


 カイトは白いシャツにジャボ、アイボリーのベストに黒のボトムスだ。ベストには細かな意匠が施されている。

 2人で手を繋ぎながら連れ立って歩く。今日も心地よい天気だった。


「ねぇ、本で読んだけど、この世界の四季って次の季節になるまで気温とか全然変わらないのね」


 この世界だと1年は400日あるらしい。100日ずつ四季が移り変わるが、徐々に暑くなったり寒くなったりするのではなく、数日のうちにガラッと四季が変わるのである。私がここに来た時は冬だったが、急に暖かくなって春の陽気になったと感じた日があった。今思えばあれが季節の変わり目だったのだろう。ちなみに33日を1か月とし、3か月目だけ34日になる。今は春の1か月目の終わりで、まだまだ春のうららかな陽気は続きそうだ。


「そっちの世界はどうやって変わっていくんだ?」

「徐々に暖かくなったり寒くなったりするから、大体1か月ごとに気温が上がったり下がったりしていくかな」

「へぇ」

「ちなみに私の住んでいたところには四季があったけど、場所によっては四季がなくて、1年中暑かったり、寒かったりする」

「住みづらそうだな」

「どうだろう?私は住んだことがないから分からないけど、そういう場所に住んでいる人はたくさんいるよ」


 そう考えると人間の適応能力とは素晴らしいものである。

 城下町はいつになく賑やかで混んでいた。はぐれたら迷子になってしまいそうだ。乗合馬車も本数を増やして運航していた。馬車には何とか乗れたのでこのまま1時間ほど揺られて噴水の広場まで移動する。


「人が多くてはぐれそう」

「手を繋いでいるから大丈夫だとは思うけど、もしはぐれたらアリサは噴水の前で動かないで。俺が見つけるから」

「うん、分かった」


 きっとカイトなら絶対に見つけてくれるだろう。

 広場が見えてきた。昨日とはまるで違う雰囲気に私は目を見開いた。


「昨日と全然違う!」


 広場には屋台がぐるっと立ち並び、入りきらない屋台はメイン通りにはみ出していた。広場近くのお店はどこも臨時休業して店先のスペースを明け渡しているようだ。いたるところにテーブルや椅子、ベンチが置かれているが、立って飲み食いをしている人たちも多い。噴水の北側には簡易的なステージが設けられており、春の陽気な音楽が演奏されている。空には屋根と屋根をつなぐように紐が張り巡らされ、色とりどりの三角の旗がたなびいていた。よくパーティーの壁に飾っているような装飾だ。


「今日の朝から町の人たちが設営や飾り付けをしたんだ。…というかアリサ、昨日は1人でどこを回ったんだ?」

「え?えーと、リリアンさんにおススメのお店をいくつか教えてもらって、東のメイン通りをあちこち散策していたよ。服屋さんとか雑貨屋さんとか」


 流石にプレゼントを渡すまでは隠し通したかった。でも服屋も雑貨屋も実際に立ち寄っていたので嘘ではない。


「へぇ、楽しかった?」

「うん、でも今日はまた違うワクワク感があって楽しい」

「そうだな。ゆっくり楽しもう」


 私が笑うとカイトもつられて笑っていた。

 広場は歩行者天国になっていたので、乗合馬車は途中で下りて歩いて会場まで行った。今は午後3時くらいか。ちょうど小腹が空いてきた頃で、屋台の香りは耐えがたいほど魅力的だった。


「お昼食べたのに見ているとお腹空いてくるね」

「似たような屋台も結構あるから 一通り何があるか見てからにしよう」

「分かった」


 屋台はパン類、パスタ類、スープ類、揚げ物、甘味など多種多様なものがあった。器があるものは使い捨てではないので各お店に返却する方式だ。お城ではフレンチのような上品かつ凝った料理が主流だが、町ではイタリアンやドイツ料理、ギリシャ料理など、ヨーロッパ各国が合わさったような食文化を形成しており、屋台もそんな料理が多かった。勿論飲み物、特にお酒も充実しており、ビール、ワイン、ブランデー、ウイスキー他リキュールなども元の世界とほとんど遜色がなかった。人類の欲と英知の賜物である。

 昼間の明るいうちから随分と杯を重ねている人たちもいた。今日は羽目を外す日なので仕方がない。ちなみに通りの方には子供たちが群がっている屋台があったので、きっと食べ物だけでなく遊ぶ屋台もあるのだろう。

 そしてカイトの言う通り、似たようなものを売っている屋台があちこちにあった。縁日で言えば焼きそばやたこ焼きお好み焼きが何店舗もあって、各お店で味を競っている感じである。


(どこに行っても人の営みは変わらないのね)


 そう思うと何だか急にこの世界が愛おしくなって、私はクスクス笑ってしまった。


「どうかした?」

「元の世界のお祭りを思い出していたの。どこも変わらないんだなぁって」


 懐かしいと郷愁に駆られそうになる。だけど、今はこのお祭りを楽しまなければ損だ。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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