32.誓い
カイトは呆れていた。その反応が却って私の意固地に拍車をかけていた。
「あのなぁ」
「時期尚早だったかしら?」
私は嫌味ったらしく言った。瞬間カイトの顔が引き攣る。言いたいことが次々に浮かんできて、徐々に早口で捲し立てていった。
「分かっていたわよ。散々足引っ張っていたって自覚していた。そう言われるのも無理はないって、仕方ないって思っている。でも、それでも頑張ろうって、どれだけ無様で格好悪くても、もっと頑張って、もっと強くなろうって覚悟を決めたのに」
自分が酷く興奮しているのが分かる。
「戦う覚悟を決めたのに戦力外通知で置いてけぼりをくらって、でも結局派遣されたと思ったら、瀕死のカイトが横たわっていて、頭真っ白で、カイト、し、死んじゃうかもしれないって思ったら怖くて」
言いながら泣いていた。私の知らないところでカイトは死んでいたかもしれないのだ。あの時味わった恐怖が脳裏にこびりついて離れない。
カイトは私を抱き寄せた。頭をポンポンと優しく叩かれる。私は泣きじゃくった。涙が止まらなかった。
「それで、無理して頑張ったのか」
「む、無理じゃない。皆が期待しているフェアリーアイとしての責務を全うしただけ。わ、私、今回はそこそこ頑張ったと思うの。期待に応えられて、及第点は取れたと思う」
歯止めが利かなくなっていたのは、カイトに時期尚早だと言われたことに対する意地もあったのだ。
「だから、私も一緒に戦わせてよ」
「悪かった」
カイトが耳元で呟いた。
「俺の言い訳を聞いてくれるか?」
「何?」
「まず、アリサは最初の任務でも良くやっていたよ。戦闘経験もないのに物怖じせず、連携も上手く取れていて、最後まで任務を全うした。正直期待以上だった」
「だったら何で」
「俺も怖かったんだ」
カイトの声が掠れていた。
「アリサが湖に引き込まれた時、死ぬんじゃないかって、それこそ頭が真っ白になった。そのまま飛び込もうとしてギルに止められて急いで防御魔法かけてもらったくらい慌てていた。俺ももう何も失いたくないんだ」
そうか。カイトもサリア様を亡くしている。誰かを亡くしたくないという気持ちは同じだったのか。しかも、私がなまじサリア様と顔が一緒な分、余計嫌だったかもしれない。
「元々国王陛下も俺もアリサを討伐に向かわせるのは反対だった。でもアリサが言うようにフェアリーアイというだけで期待の眼差しを向けている者も多い。地方の連中や町の人たちはアリサを知らないから。だから謁見で討伐依頼をした時、陛下も俺も断ってしまえば良いと思っていた」
「だったらそうやって打ち合わせてくれれば良かったのに」
「国王陛下が私利私欲で動いてはいけない。あくまでもアリサの意思で決めてもらう必要があった。そしてあの時、アリサは引き受けた」
「何だか悪いことしたみたい」
カイトは慌てて言う。
「そうじゃない。断って欲しいというのは陛下と俺の我儘で、やはり大多数の人は引き受けてほしかったのだから、アリサの選択は正しかったんだ」
「本当?」
「ああ。フィンさん喜んでいただろう?アリサの選択は正しかったし、十分すぎる成果を上げていた。だからあの報告は俺の我儘だった。いつか戦場に出るとしても、少しでも生存率を上げてから出てほしかった。はじめのうちはアリサを戦場から遠ざけたかったんだ。俺がああ報告すれば国王陛下も言い訳が立つ。今戦闘経験の乏しいフェアリーアイを戦場に出して失うより、育てて力をつけさせた方が中長期的に役に立つとでも言えば、派遣要請を出しているところも無理は言えなくなる」
何ということだろう。時期尚早と報告したのは、私を守るためだったのだ。
「ごめんなさい、私、そんな意図があったなんて気付かなかった」
「その話、国王陛下から聞いたんだろう?多分陛下も言葉が足りなかったんだろうな。いずれにしろ、その報告が仇になった。アリサは今回フェアリーアイとして皆の期待以上のことをしたんだ。まさかあの魔物をほとんど1人で倒してしまうなんて誰も考えていなかったし、身体修復魔法が使えるとも思っていなかったし、1晩でこの量の負傷者を全員治してしまうほどの力があるのも想定外だった。みんな度肝を抜かれていたよ」
(それってもしかして、頑張りすぎたってこと?)
「力があることを証明してしまった。今回のことは瞬く間に国中に広がるだろう。そしたらもう派遣要請は断れないだろうな」
「本当にごめんなさい。私、完全に心遣いを無下にしてしまったわ」
そして自分の首を絞めてしまった。
「いや、俺がちゃんとアリサに伝えていれば良かったんだ。すまない、却ってアリサにかかるプレッシャーが増えてしまった」
「謝らないで、早とちりをしたのは私だし。自分で自分の首を絞めた感覚は確かにあるけど、でも、何か今回のことで少し自信がついた。頑張れば私にもできることがあるんだって」
常にあった劣等感が少し無くなっている。自分もやればできるのだと知れて良かった。
「アリサは頑張りすぎだ。魔力切れは最悪死に至る。それだけは本当に反省してくれ」
「分かった、ごめんなさい」
「泣き止んだな」
カイトはそう言うと、私の目尻に残っていた涙を指で拭った。顔を触られるなんて慣れていないので思わずドキッとしてしまう。心臓に悪いから止めてほしい。
「うん、ありがとう」
心中を悟られないよう返事をする。
「じゃあこれ返すからじっとして」
何かと思えば、お守りとしてカイトの首にかけていたペンダントだった。カイトは以前のように私の首にペンダントをかけると、そのまま帯びていた剣を外して私の前に置いた。同時に片膝をついて、片手を自分の胸に置く。先ほどよりもずっと畏まっていて、私もつられるように居ずまいを正した。
「これから先、もっと過酷な戦いになるだろう。アリサもきっと戦場に駆り出されることになる。その時は、俺に守らせてほしい」
それは、一緒に戦わせてくれるということか。
「私も、私も隣で戦いたい。もう置いていかれたくないよ」
私がそう返事をするとカイトは苦笑いした。
「アリサの気持ちは嬉しいけどな、ここは俺の顔を立ててくれ」
そう言うとカイトは空いているもう一方の手で私の手を取ると、そのまま流れるように手の甲にキスをした。
「なっ」
「忠誠の誓いだ。必ず守る」
真剣な眼差しだった。私は一瞬にして顔が熱くなった。間違いなく赤くなっている。
(こ、これはあれ、本当に約束ってだけでそれ以上でもそれ以下でもなくて、そう挨拶、挨拶みたいなものだから!)
頭では分かっているが、変にドキドキしてしまう。こういったコミュニケーションやスキンシップは本当に慣れないし、不意に来ると戸惑いを隠せないから困る。
「アリサ?」
変な間ができて、カイトが訝しむようにこちらを見ていた。私は咄嗟に空いている手で顔を隠しながら返事をする。
「う、うん、ありがとう……」
(駄目だ、今はまともにカイトの顔見れない!)
「わ、私ちょっと外の空気吸ってくる!」
明らかに挙動不審の私は、カイトの返事も待たずにテントの外に駆け出した。
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次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




