30.不条理には不条理を
※バトルシーンや怪我などの描写があります。苦手な方はご注意ください。
「アリサさん、探しましたよ」
今回の討伐部隊の近衛兵リーダーが私を呼び止める。他の4人も一緒だ。探す手間が省けて良かった。
「すみません。ひとまず魔物は深く眠っているので、あとは同時に首を切り落とせば倒せるはずです」
スサノオはきっと同時には切っていなかったが、1つずつ首を刎ねていたら流石に痛みで起きてしまうだろう。
私たちはだらしなく倒れている魔物の頭に近づき、身体の硬度や1つの首の大きさなどを確認する。リーダーさんの顔が少し曇った。
「どうかしましたか?」
「申し訳ございません。思ったよりも固く大きいので同時に切るには1人1頭が限界です」
もともと近衛兵5人のうち2人が2頭受け持ち、私も1頭受け持つ算段だったのだ。1人1頭だと2頭分の人手が足りなくなってしまう。他の動ける近衛兵を2人連れてきて手伝ってもらおうか。しかし酒の効力がどれくらい持つか分からない。そうそう起きないとは思うが、モタモタしている間に起きられたら厄介だ。
「じゃあ私が3頭分受け持ちます」
「アリサさんが?」
「はい、大丈夫です」
「分かりました、よろしくお願いします」
リーダーさんは頷いた。
そして各々が受け持つ頭の横に向かった。私は右側3つを担当することにした。
「ゴーラムエダフォス―土のゴーレム―」
私は大きな土のゴーレムを3体生成した。手には戦斧を持たせている。これも土中の鉱物を集めて固めたものだ。十拳剣ではないが首を落とせれば何でも良いだろう。
私はゴーレムたちを各首に配置をして、少し離れた場所に身を潜めた。準備完了である。
「かかれ!」
リーダーさんが号令を出す。私はゴーレムに命じて力いっぱい斧を振り下ろさせた。首の骨で止まらないか不安だったが、3体とも骨を砕きながら力任せに一刀両断することに成功していた。何とも荒々しい仕事ぶりである。
ギィヤァアアアアアアア!!
私がゴーレムの仕事に関心していると、左端の1頭が断末魔の叫びを上げて暴れ狂っている。他の首は全て切り落とせていたが、1頭だけ半分ほど切れたところで止まっていた。恐らく私の危惧通り骨の首が固くて落とせなかったのだろう。
物凄い暴れっぷりで近衛兵の人たちはなす術なく一度退避している。あの首を受け持った近衛兵の安否は不明だが、今は仕留めることを優先しなければ。
私は3体のゴーレムを合体させて巨大な1体のゴーレムを作り上げた。手に持っている戦斧も比じゃないくらい巨大になった。ゴーレムは身体が出来上がると、暴れている首を捕まえ、頭を地面に押さえつけてから勢い良く斧を振り下ろす。ドゴン!!と尋常じゃない音がした。きっと地面は大きく抉れていることだろう。まるで特撮でも見ているかのようだった。
首を落とされた魔物はそのまま動かなくなった。力を失った尾がドシンと地面に落下し、轟音を響かせる。終わったようだ。
私は急いでリーダーさんのところに走って行った。
「お怪我はありませんか?」
「あ、ああ」
リーダーさんは呆けていた。そりゃ特撮なんてない世界だから、あまりのスケールに驚くのも無理はない。私だってこの大きさで見るのは初めてだ。
「こっちに来てくれ!」
遠くの方から隊員の1人に呼ばれる。急いで行くと、先ほど首を仕留め損ねた隊員が横たわっていた。やはり逃げそびれていたらしい。まだ息があるし、四肢もついているので治癒魔法で何とかなりそうだ。
「フェラペヴォ―治癒せよ―」
身体のあちこちを骨折していたはずだが、みるみるうちに治っていった。
「これでもう大丈夫ですね。他の方はお怪我はありませんか?」
聞いたが大丈夫とのことだった。治療した隊員の運搬は他の隊員に任せることにし、私は急いで野戦病院のテントに戻った。まだまだ多くの怪我人が痛みを堪えて横たわっている。
「シレゴフェラペヴォ―まとめて治癒せよ―」
私は1テントずつ順番に回り、治癒魔法をかけていく。かなりの数の戦闘員をここに配置していたようで、いくらやっても終わりが見えなかった。それだけ多くの者が戦い、疲弊し、傷ついたのだ。
(ここで一体どれだけの人が亡くなったのだろう?)
そんなことを考えていると、段々と怒りが込み上げてきた。
何にって?
この世の不条理にだ。
この世界の人たちはただ平和に暮らしていたはずだ。それを妨害し、侵略し、蹂躙する。こんなことがまかり通って良いのか。
(魔物は何故、何のために襲撃してくるっていうの?)
原因や目的があるのか。いや、あったところで諾うことはできない。既に多くの者が犠牲になっている。この現実に私は腸が煮えくり返る。そして、こう思ってしまったのだ。
(この世が不条理なら、私だって不条理になろう)
目には目を、歯には歯を。そして、不条理には不条理を。
不愉快極まりないこの現実を、私の持てる力を全て使って、捻じ曲げよう。
「少し休憩しませんか?」
何度かエリスさんが声をかけに来たが、私は無下に断った。調子が良かった。このペースを崩したくなかったのだ。するとエリスさんはせめてこれだけでもと魔力と体力向上の滋養強壮剤をくれた。気休めのドリンクだが、これは有難く受け取って全て飲み干した。
また、途中のテントではオークリーさん、ギルバートさん、レオンさんと軽く挨拶を交わした。ずっと気がかりだったので、3人とも命に別状はなさそうでほっと一安心だ。「アリサさん、顔色が悪いのでは?」と三者三葉に言われたが、「大丈夫ですよ」と笑って手を振った。
野戦病院に寝かされているのは中傷者以上だった。つまり軽傷者はここにはおらず、一般のテントで寝泊りしている。これだけの激戦であれば、軽傷で動ける人は戦闘要員として駆り出されているということだ。恐らく全くの無傷の人はいないのだろう。
「アリサさん、もう十分です。今日はもう止めましょう」
「大丈夫ですよ、あと少しですから。あっちのテントにも行ってきます」
「あと少しなら明日にしましょう」
「仕事を少し残して明日に回すの気持ち悪いので」
「どうなっても知りませんよ」
「どうもなりませんよ。それにこれくらい仕事しないと、私の来た意味がありません」
野戦病院のテント全てを回り終え、隊員の寝所テントに向かおうとした時、エリスさんに強く止められた。しかし、これも断った。途中から全く疲れを感じなくなっていた。ずっと調子が良く、永遠にこの作業を続けられる気さえした。
私はエリスさんを振り払い、隊員の寝所テントに赴き、寝ている人たちを起こさないように歩きながら、皆に治癒魔法をかけていった。全てのテントを回り終えたらいつの間にか朝になっていた。
(終わった)
朝日を浴び、私は達成感に包まれていた。この不条理な現実を少しは変えられた気がして、ひたすらに嬉しかった。
「満足ですか?」
「はい、とても」
エリスさんだ。何だか呆れた顔をしていた。
「じゃあお疲れ様の一杯です」
「ありがとうございます」
私は満面の笑みで受け取った。喉が渇いていたので一気に飲み干す。何だか不思議な味がすると思ったら、急に足に力が入らなくなって身体が大きく傾いだ。エリスさんが私の体を受け止める。
「はぁ、後でカイトに説教されるな」
そう聞こえた気がしたが、眠気には勝てなかった。
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次回は明日の12時台に投稿予定です。
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