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28.喫緊の問題

※野戦病院、怪我、欠損などの描写があります。苦手な方はご注意ください

 お城に帰ってから私は今回の報酬に金銭を賜った。しかし使うアテもないのでひとまず貯金することにした。

 また、すぐに次の討伐依頼が来るかと思ったがそんなことはなく、肩透かしを食らいながらアギオスさん他、前回お世話になった魔法の教師陣に特訓を受けていた。更には騎乗の練習や、体力づくりのためにジョギングなんかも始めることにした。


(近衛兵のみんなに会えないのちょっと寂しいな)


 帰ってから2‐3日くらいしか経っていないのに何だかもう懐かしくなっていた。そうは言ってもあちらはお仕事である。カイトも暇ではないはずなので、そのうちまたひょっこり顔を出してくれるのを楽しみに待つとしよう。


 帰城してから4日後、稽古の途中に私は国王陛下に呼び出された。討伐依頼だろうか?

 今日はカイトではなく別の知らない近衛兵の人が呼びに来た。場所は一番最初に陛下に会った執務室だった。


「稽古は順調かね?」

「はい、学習の機会を与えて頂き、ありがとうございます」

「そうか。お前の最初の戦闘についてはカイトから詳しく伺っている。大変だったそうだな」


 話の方向性が見えなかった。


「ええ、まぁ。しかしとても良い経験になりました」


 私の怪訝な顔色を読み取ったのか、国王陛下は要件を切り出した。


「実はカイトからお前の派遣は時期尚早だったと伺っていてな、私もいま無理に行かせるより、経験を積ませてからお願いした方が良いと思ったのだが、やはりどうしても向かってほしいところがある。喫緊の問題だ」


(時期尚早…)


 カイトがそう報告していたことに私は愕然とする。勿論自覚はしていたつもりだが、なまじ近衛兵の人たちが優しくされていた分、他人から、しかもカイトからそうやって評価されていたことに私は思いの外傷ついた。

 陛下はそんな私の内心など知らず、討伐の話を進めていく。


「東の山奥から突如謎の大蛇が現れた。聞くところによると8つの頭と8つの尾を持ち、その目は赤い鬼灯のようだという。皆善戦しているのだが、こちらの方が消耗が激しい」


 何だかヤマタノオロチかヒュドラのようではないか。


「その魔物は毒を吐いたり、石化させるようなことはありますか?」

「いや、そういったことはない。ただ山1つ分の大きさで、気性も激しく、また頑丈とのことだ」


 どうやら前者のようだ。本物のヤマタノオロチは8つの山と8つの谷ほどだったというから、大きいことに変わりはないが山1つ分はまだ現実的である。


「承知致しました。恐らく倒し方を知っているのですが、現地にありったけの酒はありますか?」

「王都で用意させる。どれくらい必要だ?」

「とにかく酒精の強いもので、量はどれくらいでしょう?用途としては8つの頭それぞれに酒を飲ませて酔って寝た時に寝首を掻きたいのです。そのためこれくらいか、もっとでしょうか?」


 どれくらいと言われても言い表せなかったので、私はジェスチャーで樽の大きさを伝えた。


「そんなに大きいと運搬に時間がかかるな」


 陛下の顔が歪む。確かにこの世界には運搬の問題があった。


「承知致しました。では現地で自分で用意します」

「用意できるのか?」

「はい、恐らく調達できます」


 私には秘策があった。この国ではきっと受け入れられないものだ。しかし喫緊の問題であれば致し方ないだろう。


「分かった。明朝立ってくれ」

「場所はどこでしょうか?」

「東のダソス森林を侵攻中とのことだ」


 私は地図を思い出す。ダソス森林ということであれば、この王都から東にあって、イーミ湖とそれほど変わらない距離のはずだ。ということは国のほぼ半分を侵攻されたことになる。


(また馬車を乗り継いで1日か)


「その魔物は夜行性でしょうか?昼行性でしょうか?」

「昼行性だ」


 それなら行った日の夜に退治した方が良いだろう。夜の方が酔って寝やすいに違いない。


「承知致しました。尽力致します」



 翌朝、私はまた日の出から馬車に乗り込んでいた。陛下は今回もまた5人の近衛兵を付けてくれたが、どれも見知らぬ顔だった。私は作戦を伝えるとリーダーが素早く役割分担を決める。エリート集団は仕事が早くて助かる。

 道中はみんな静かだった。私は人見知りなのでこういう時あまり話しかけられない。この間は顔見知りのカイトやお喋りなレオンさんがいたから打ち解けられたに過ぎなかった。


 2回目なこともあってか、馬車の移動は多少楽に思えた。そのまま昼を過ぎ、日が傾き、今回はまだ日の少しあるうちに現地に到着することができた。

 何か大きな地響きが聞こえる。恐らく魔物のものだろう。馬車は離れたところに止めたので姿は見えなかった。

 私は馬車を降りて辺りを見回す。

 そこには惨状が広がっていた。脳が理解を拒んでいる。


「何ですか、ここ?」

「野戦病院ですよ」


 リーダーさんが律儀に答える。いや、そんなことは分かっているのだ。

 見渡す限りにテントが設けられていた。そこに負傷した兵が並び、奇跡兵団の隊員たちが駆けずり回っている。応急処置といったものが多く、包帯から血がにじみ出ているのが痛々しい。


(全然手が足りていないんだ)


 けが人1人1人に治癒魔法をかけている場合ではないのだ。トリアージをして、重傷者から優先的に治療にあたっているのだろう。

 唖然としてしまう。元の世界で戦争を知らない私には考えられない光景だった。


「誰か!誰か手の空いている奇跡兵団の方はいらっしゃいませんか!?」


 大声で叫んでいる人がいた。聞き覚えのある声だった。


「エリスさん!」


 俄に心臓の鼓動が早くなった。何かとても嫌な予感がする。この感覚には覚えがあった。


「アリサさん!今すぐ来てください!」


 エリスさんでもこんなに慌てることがあるのだと思った。私は急いで後をついていく。


(お願いだから外れて)


 嫌な予感を打ち消したいのに最悪のことしか考えられない。ただひたすら予感が当たらないようにと必死で祈ることしかできなかった。

 案内されたのは重傷者が運ばれるテントだ。どの兵隊さんも血で赤く染まっている。中には足や腕が欠損している人もいた。


「こっちです!」


 くらりと眩暈がする。瞬間一番嫌な記憶がフラッシュバックした。


 廊下は歩きましょうと書いてあったのにそれを無視して全力疾走した自分。蛍光灯が反射する無機質なリノリウムの床。暗い室内。もう戻らない2人。


(現実を直視したくない)


 横たわっていた怪我人はカイトだった。

次回は明日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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