27.初任務の終わり
「対岸のギルに連絡を取りたいんですか?」
「そうなんです。でも合図とか何にも決めてなかったからどうしようと思って」
「それなら良い方法がありますよ、ちょっと待ってて」
レオンさんはお弁当を置いて軽やかにどこかに行ってしまった。
しばらくして戻ってきたレオンさんの手には紙とペンが握られていた。
「連絡事項をこれに書いてください」
「分かりました」
怪訝に思いながらも私は手紙を書いた。
「後はこうしてこう折って」
何をするのかと思えばレオンさんは手紙で紙飛行機を作り、それを空に飛ばしたのだ。
「パラディード―届けろ―」
どうやら風の魔法でそれを飛ばすらしい。
「それ、無属性の浮遊魔法でもできますか?」
「できますけど、風魔法の方が早く飛びます」
「なるほど」
「どっちにしろこういう至近距離じゃないと使えませんけどね」
確かに雨が降っていても使えないし、誰かに取られてしまう可能性もあるだろう。しかしこういう時には最適である。
「ありがとうございます、助かります」
「どうってことないですよ。こっちこそ除染の提案ありがとうございます」
レオンさんがにっと笑った。
「こういう作業は奇跡兵団の仕事って思っていたから新鮮で。自分たちでもできることあるんだって凄くためになってます」
「そうなんですか。そう仰って頂けると嬉しいです」
近衛兵の方々の仕事を却って増やしてしまったかもしれないと思って除染作業中に後悔していたのだ。
「はい。そうだ、アリサさん。良かったら敬語止めて良いですか?」
「え?はい、どうぞ」
「アリサさんも敬語とって」
「私も?」
「だって敬語堅苦しいでしょ?それにカイトには敬語使ってないのに俺たちには敬語だし」
確かに私はいつからカイトに敬語を使っていないのだろう?
「分かった」
「わーい、やったー」
レオンさんが子供みたいにはしゃいでいた。可愛い。
「みんなはいつも同じチームなの?」
「そう。連携取れるように基本は固定されてる。ちなみに俺が1番下で、ギルが2番目、カイトとエリスは同い年でオークリーが1番上。俺とギルは同期で、カイトとエリスも同期で俺たちの先輩にあたる。オークリーがさらにその上で、この隊だと1番の先輩だ」
先輩を差し置いて隊長になっているカイトはやはり優秀なのだろう。しかし話を聞いて納得した。オークリーさんの話には何か説得力のようなものがあるのだ。
「あ、もしかして私が町中で誘拐された時、助けに来てくれた?」
「正解」
「あの時は助けに来てくれて本当にありがとう」
「どういたしまして」
そんなふうに他愛ない話をしていると、対岸で光の球のような光源が打ちあがった。
「あ、多分手紙届いたんだ。ギルの了承の合図だと思う」
「本当?ありがとう」
「じゃ、もうひと頑張りしよう」
「そうね、頑張ろう」
お弁当も食べ終わってちょうど良い時間だったので私たちはまた作業に戻ることにした。私は湖のほとりから高台に移り、水魔法で湖を大きく波打たせて岸辺の除染を行う。これで対岸の方もばっちり除染できただろう。
日の入りの少し前に全行程が終了した。湖の除染が早く終わった私は他の作業も手伝い、あまりある魔力で強引に行程を終わらせたのだ。
「それでは、いきます。「カロ―召喚せよ―」」
フィンさんが綺麗になった湖に召喚魔法を唱えた。魚を召喚すると聞いていたが、魚の餌となるその下の生態系の生き物まで召喚したようだ。召喚魔法には限りがあり、まだ数は少ないものの、確かに生き物の息吹を感じた。ちなみに動物や鳥も後日管理者の人がやってきて召喚を行うのだという。
「本当に、本当にありがとうございます」
フィンさんと自警団の人たちが私たちに何度もペコペコと頭を下げてくる。
「お礼ならアリサに言ってください。彼女が提案しなければ除染作業は行いませんでしたから」
「皆さんが手分けしてくださったおかげです」
カイトがそんなことを言うものだから、私がみんなのおかげと言っても聞いてもらえず、皆して私にお礼をしてきた。こういうのは慣れていないのでちょっと気恥ずかしかったけれど、みんな喜んでくれているのでやって良かったと思った。
翌朝。日が登る少し前に私たちはここを出立することとなった。また道程1日を思うと辟易するが、行きの頃よりもずっと気分は清々しかった。一仕事を無事に終えたことと、初めての戦闘で自信がついたからだろう。
「お世話になりました」
「いえ、こちらこそ却って何もお構いできず申し訳ございませんでした。こんな片田舎であればまたいつでもお越しください」
「ありがとうございます」
フィンさんに挨拶を交わして私たちは馬車に乗り込んだ。
「帰ったらまたすぐに次の討伐があるんでしょうか?」
「アリサさんの力を借りたい戦場はまだあると思いますよ」
「そうですか」
隣のエリスさんが答える。私はもっと強くならなければならないと思った。まだ能力を十分に使えてはいない。皆の力を借りなければ何もできなかった。
「大丈夫ですよ、自分たちが何とかします」
オークリーさんの言葉が力強かった。
「近衛兵の皆さんは本当に頼もしいですね」
「国を守るのが自分たちの役目ですから。でも、虚勢もありますよ。恐怖で足が竦む時は自分たちにもあります」
「そうは見えません」
「だから虚勢なんです。それに比べるとアリサさんはずっと逞しかったですよ。初めての戦場とは思えませんでした」
「褒めすぎです」
私は肩を竦める。オークリーさんは私を過大評価しすぎだ。
「そんなことはありません。アリサさんがいるだけで頼もしい気分になりました」
「そうですね。今回の任務はこれで終わりですが、また一緒にお仕事ができるのを楽しみにしていますよ」
「皆さん買い被りすぎです」
でも頑張ろうという活力が身体の底から漲ってくるから、私はとても単純な人間だ。
「アリサは怖くなかったのか?」
不意にカイトが訊いてきた。
「勿論怖かったわ。でも良い経験になった。これからもっと色んな人に稽古つけてもらうことにする」
戦闘で足を引っ張らないか、誰かが目の前で死んでしまわないか、自分には何ができるのか。分からないことだらけだった。湖に引きずり込まれたときは本当に頭が真っ白になって死も覚悟した。でも、いま生きてここにいる。ならばこれを糧にまた戦いたい。
「……そうか」
カイトは私にその質問をして、何を確かめたかったのだろう?
その答えは後になってから分かるのだった。
最初の討伐が終わりました、ここまでご覧いただきありがとうございます。
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次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
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