26.除染
気が着いたら私は、自分にあてがわれた客室のベッドで横になっていた。外が明るい。
(今何時だろう?)
時計は始業の鐘くらいを差していたから8時くらいだった。あれから数時間くらい寝ていたということか。ベッドから起き上がる。泥にまみれた制服ではなく、清潔な寝間着を着ていた。誰が着替えさせてくれたのだろうと思ったが、着替えの魔法があるのできっと見られてはいないはずだ。
私は扉を開けて廊下の左右を見る。誰もいない。寝間着でうろつくわけにはいかないので一旦部屋に戻って、自分の荷物の中から普段着用のブラウスとスカートを取り出してそれに着替え、廊下を出た。客室は2階にあったので、ひとまず誰かがいそうな1階に降りた。
「ああ、ようやく目を覚まされましたか」
この屋敷の侍女らしきふくよかなおばさんが柔らかく声をかけてくれた。
(ようやく?)
「はい、あの私どれくらい寝ていたのでしょう?」
「丸一日お休みになっていましたよ」
「え!?」
それは大失態だ。しかし考えてみれば身体がすっきりしている。数時間の睡眠では取れそうもない疲れ方をしていたので、丸1日寝ていたというのは本当だろう。
「あの、皆さんは?」
「湖や周辺の様子を見に出かけましたよ」
きっと最終的な被害報告などをまとめる必要があるのだろう。
その時タイミング悪くお腹がなってしまった。おばさんが笑って「ひとまずご飯にしましょう」と言ってくれる。催促したわけではないのだが、何とも恥ずかしい。
さっさとご飯を済ませると、私も外に出た。きっと湖の周りを歩いていれば誰かに会えるだろう。
「アリサさん!もうお身体の具合はよろしいのですか?」
早速オークリーさんに遭遇した。
「はい、丸1日寝ていたようで、本当にすみません」
疲れていたのは間違いないが、恥ずかしいことこの上なかった。
「何も謝ることじゃありませんよ。慣れないのにあれだけ戦闘をしたら疲れて当然です」
「お気遣い痛み入ります」
オークリーさんは皆のところに私を連れて行った。皆オークリーさんと同じような反応をするので私は恐縮しっぱなしだ。
「今は何をしていたんですか?」
「フィンさんや自警団の人たちと手分けして被害状況をまとめていたんだ。この報告書を持ち帰って、ここの除染作業について国王が奇跡兵団を動かすんだ」
予想通りの回答だった。
「ここにはいつまで滞在する予定?」
答えたのがカイトだったので私は自然に敬語が抜けている。
「今日中に被害報告をまとめて、明日の朝には王都に戻る手筈になっている」
明日か。思ったよりタイムリミットが近い。
「どうかしたのか?」
「うん、ずっと考えていたんだけど、手分けしたら今日1日で除染作業終わらないかな?」
「それは……、どうするつもりなんだ?」
カイトは否定しようとしたが、一旦私の話を聞いてくれる気になったらしい。
「私とギルバートさんで湖の除染をする。その間に風属性魔法の人たちが立ち枯れた木を伐採して、火属性魔法の人たちが野焼きをして、終わったら土属性魔法で草木を生やす。自警団の人たちとかにも協力してもらってみんなで手分けしたら今日1日で終わらない?」
レオンさんが業火でスライムを蒸発させていたが、業火とは言わずとも火で一定時間焼けば腐食液は何とかなるような気がした。もし地面の状況を見て汚染が酷いようであれば、浄化された湖は聖水になっているはずなので、水や風属性魔法などを使って地面に撒いて、それから草木を生やせば良い。
「1日じゃ厳しい気がするが」
「できるところまででも良いからやってみない?私丸1日寝てすっかり回復したし」
治癒魔法によって筋肉痛さえ残っていない。元気いっぱいである。
「良いんじゃないか?奇跡兵団に任せっぱなしというのも可哀想だし、俺たちでできることがあるならやってみよう」
私の提案に乗ってくれたのはオークリーさんだった。他の皆も頷いてくれる。カイトは少し迷っているようだったが、最終的には了承してくれた。
「俺たちは自警団の人たちを集めて説明してから始める。アリサとギルは先に作業に取り掛かっていてくれ」
「分かった」
「畏まりました」
私とギルバートさんは連れ立って湖に赴いた。
「お手を」
途中道が悪くなっているところはギルバートさんが丁寧にエスコートしてくれる。そう言えばこんな風習あったなと、イケメン耐性のない私は内心躊躇しながらその手を取った。
(そもそも男性と手が触れるってことがまず現代社会ではほとんど存在しないのよ)
外国ならいざ知らず、日本では握手なんかもあまりしないだろう。
私が独り心のうちで葛藤しているうちに湖のほとりに辿り着いた。岸の土壌の汚染は後で何とかするとして、ひとまず今は水の除染を最優先に行うことにしよう。
「「カファリステト―浄化せよ―」」
「アリサさんはここにいてください。私は浄化しながらあちらの方に向かいます」
ギルバートさんは対岸まで行くつもりのようだ。
「分かりました、すみません、お願いします」
またあそこまで歩くのは正直大変だったので、ギルバートさんのお言葉に甘えることにした。
手をかざしたところから水が澄みやかになっていくのと同時に汚染水と混ざる。私は多くの聖属性フェアリーに呼びかけ、魔力をふんだんに使って浄化作業を進めていく。
(きっと綺麗な湖なんだわ)
澄み切った湖だったに違いない。実はここイーミ湖は私の故郷にあった湖とよく似ているということもあり、手ずから除染作業をしたかったのだ。
しばらく経つと、立ち枯れた木が次々に倒れていく。カイトたちが自警団と話をつけて手分けして行なってくれているのだろう。木はそこかしこでなぎ倒されていった。それと並行して野焼き作業も進めているようだ。木の倒す方向や風を上手く操って安全に考慮した上で効率よく作業を進めているのだろう。
お昼頃になると湖は見違えるような清らかさになった。これなら湖に飛び込んでも安全なはずだ。次に湖のほとりの除染をしたくて、ギルバートさんに岸から遠く離れるように指示を出したいのだがどうすれば良いのか分からない。どうしたものかと思案しているとレオンさんが遠くからお弁当を持ってやってきていた。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




