24.ボススライム
※バトルシーンが含まれます。苦手な方はご注意ください
「た、辿り着いた…」
向こうからカイトたちの灯りが見えて私は思わず安堵の声をあげてしまった。
「お疲れ様です、もうひと踏ん張りですよ」
「バラコラシー―業火の球―」
レオンさんが魔法を唱えていた。横からスライムが襲ってきていたらしい。業火の魔法は普通の火球よりも高温で、スライムが爆散する前に焼かれて蒸発していった。
「すみません、油断しました」
「大丈夫ですよ」
にっこり笑うレオンさんはここに来てなお、疲れの色を感じさせなかった。
(若さなのか体力があるのか、隠すのか上手いのか)
私もレオンさんを見習いたい。
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
「お疲れさまです」
ようやくまた合流して小休止を取ることになった。
「カイトとエリスの言った通り、アリサさんがいたら一気にスライムの量が増えたよ」
「おかげで大分遠くの方のスライムまでやれたんじゃないかな」
オークリーさんとレオンさんが報告する。私はスライムホイホイか何かか。
「そうか。それならアリサが一番大変だったな。大分疲れただろう」
「おかげ様で。少し座っても良い?」
足が限界だった。
「これ飲んでください」
エリスさんが腰に下げていた水筒を私に手渡した。
「何ですか?」
「レモン水です」
なるほど、私にはこういう準備も足りていなかったようだ。
「口を付けて良いですよ。もうすぐで終わりますから、全部飲み切ってしまっても構いません」
「ありがとうございます、いただきます」
エリスさんの言う通り、夜が白んできた。きっともうすぐで空腹状態のボススライムが餌を求めてさ迷い始めるだろう。
「ボススライムのことだが…」
カイトが何か言い難そうにしている。私は何が言いたいのか分かったので、その後の言葉を引き受けることにした。
「私が囮になるのが一番良さそうね」
みんな気まずそうに苦笑いしていた。
「開けたところで立っているだけで良い。後は俺たちが仕留めるから」
「そうそう、近衛兵5人にかかればボススライム1体なんてあっという間ですよ」
レオンさんの元気につられて私は笑ってしまった。
「治癒魔法で疲労なども回復できれば良いのですが」
ギルバートさんが残念そうに言う。この世界の回復魔法系は体力や魔力は回復せず、傷や病気を治すことに特化している。ポーションもあるが性能は同じく治癒能力に偏っている。体力と魔力の回復のために元の世界でいうところの滋養強壮剤のような気休めのドリンクはあるが、基本的には自然回復を待つしかない。
「大丈夫ですよ、あと少しですから頑張ります」
みんなの気遣いが温かく、私は少し元気を取り戻した。
場所は湖のほとりにした。私は湖を背にして立っている。5人は少し離れたところで散り散りになって待機していた。
(体力はなくても魔力はあるから)
5人だって同じように疲れているはずだ。特に魔力は私が一番多いはずなのだから、足がろくに動かなくても魔法は使わなければ。
作戦は至って簡単だ。ボススライムが来たら私は自分に光の防御魔法をかける。私の次に一番魔力が残っているであろうギルバートさんが光魔法で仕留める。もし仕留めきれなかった場合はカイトとオークリーさんの水魔法で包囲し、エリスさんの雷を打つか、レオンさんの業火の炎で焼き切ってしまうか、そこは臨機応変にやるとのことだった。
日はまだ差し込んでいないが東の稜線が少し明るくなってきた。夜明けは近い。そして静かだ。生き物は食べ尽くされてしまっているので、風の音しかなかった。独りで立っていると心細いからかソワソワしてしまう。緊張して胸がざわついているのが分かる。
しばらくして目の前からズルッズルッと何か引きずる音が聞こえてきた。結構な質量である。やがて姿が見え始めたそれは子スライムと同様ヘドロのような汚い緑色をしていたが、大きさが全然違う。子スライムは抱えられるクッションくらいだったが、目の前のそれは学校の教室くらい大きかった。
(これがボススライム…)
子スライムも気持ち悪かったが、大きくなった分より見た目のおぞましさと威圧感が凄い。お腹に力を入れて立っていないと、腰が抜けそうである。
ボススライムはある程度近づいたところで動きを止めた。
(来る!)
「アミナフォトス―光の防御―」
瞬間、鞭のように伸びた複数の触手が立て続けにシールドにぶつかってきた。フロントガラスに何かが当たっているような感じだ。容赦なく叩かれるので盾が壊れないか心配である。
「ベロスフォトス―光の矢―」
斜め後方から光の矢が放たれた。ギルバートさんの攻撃だ。ボススライムは攻撃を感知したのか大きく変形しこの攻撃を避けた。巨体のわりに動きは素早かった。ギルバートさんがすかさず光の球を打ち上げる。ボススライムが怯んで動きが鈍くなった。
「イレクトロピリクシア―感電せよ―」
エリスさんの魔法詠唱が聞こえた。ボススライムに電気が走ると完全に動きが止まった。痺れて動けないに違いない。
「「パゴマ―凍れ―」」
カイトとオークリーさんがボススライムの両脇から魔法を放った。狙い過たず、ボススライムは急速冷凍されていく。
「今だ!」
「やれ!」
カイトとオークリーさんが叫ぶと、レオンさんがどこからともなくボススライムに駆け寄った。
「ディノダサエラ―風の付与―」
さきほどよりも風のエンチャントを強くし、剣は大剣と化していた。レオンさんは大きく飛び上がるとその大剣を真上から一気に振り下ろす。あれほど巨大なボススライムが真っ二つに割れた。レオンさんは間髪入れずに目にもとまらぬ早さで横薙ぎや袈裟切りなど剣技を繰り出し、ボススライムはバラバラになっていた。
「「カファリステト―浄化せよ―」」
最後は私とギルバートさんが一緒になって氷のブロックに分かれたボススライムの浄化をした。
「任務完了だな」
何だかボススライムの方が呆気なかった気がする。勿論数の利があってこそだし、強者揃いだったからに違いないのだが、私としては10時間以上歩き回って退治した子スライムの方がよほど大変だった。
「終わりましたね」
「長かったぁ」
「お疲れ様です」
みんな討伐が無事に完了したことを労い合った。今まで張りつめていた空気が一気に弛緩している。
(ようやく終わったんだ)
実感が湧いて来た私も皆の輪に加わろうとした時だった。
私は後ろから無数の触手に巻き取られていた。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




