21.イーミ湖に棲みついた魔物
どうしても最初の魔物討伐なので説明回みたいなのが続きます……すみません……
食事が終わるといよいよ本題に入った。
「イーミ湖周辺に今まで見たことのない魔物が出現していると伺いました」
そう切り出したのはカイトだった。
「はい。その通りです。あれほどおぞましく醜悪な魔物は見たことがありません」
事前情報では毒を持つスライムだと聞いていた。
「奴らは夜行性で非常に獰猛です。たくさんいた湖の魚は1週間で食いつくされました。森にいる動物も餌食になり、木まで食べる始末。その上、人を見るや否や襲ってくるのです。我々のことも餌だとしか思っていません。もう何人もやられました。奴らに食われると骨しか残りません。今は自警団が必死に駆除をしていますが手強い上に奴らは日に日に増えて行き、こちらの消耗の方が激しくなっています」
増えていく?スライムに雌雄の概念があるようには思えないので無性生殖だろうか。手当たり次第に餌を食らい、栄養を摂って繁殖を繰り返しているに違いない。何人もやられたというのはいたたまれなかった。
「どのような攻撃を仕掛けてきますか?」
基本的にはカイトが質問し、必要な情報を聞き出していくようだ。
「奴らは自分の体液を唾を吐くように飛ばしてきます。これが毒で、皮膚に触れると爛れるのです」
腐食というやつか。スライムの貪食作用によって細胞が侵食されていくということだろう。考えるだけでも恐ろしい。
「しかも倒すと最後の足掻きなのか、体液を爆散させてきます。最初にこれを食らった人は全身が爛れました。また体液のかかった木や土なども腐食していました」
「では今はどのように駆除をされていますか?」
「水球を作りスライムを水の中に閉じ込めてから雷を食らわせています。水の中だと爆散しないのです。ただその水球はスライムの体液によって汚染されており、この水自体にも腐食作用がありました。そのため自警団の者たちは甕を背負い、汚染水を甕に溜めながら駆除作業を行なっております」
厄介極まりない相手である。
「ボススライムを見かけることはありましたか?」
「はい、自警団の者たちが一度だけ。皆死を覚悟するほど恐ろしかったそうです」
カイトが少し目を見開いた。
「ボススライムは大変臆病で、基本的に人の前に姿を現すことはありません。唯一、子スライムが大量に殺害された時だけ狂暴化し出てくるのですが、何をされましたか?」
「やはりそういうことだったんですね」
フィンさんは顔を歪めた。
「はじめのうち、我々は奴らのそういった諸々の特徴を知らず、一網打尽にしてやろうと大雷を落としました。その結果、一時的に数を減らすことに成功しましたが、湖が汚染されてしまいましたし、翌朝ボススライムの襲撃に遭い、何人か捕食されました。泣き面に蜂とはまさにこのことですよ」
「お悔やみ申し上げます」
私含め、皆沈痛な面持ちだった。
「あの日以降ボススライムの復讐を恐れ、自警団のスライム討伐は最小限に留めています。しかしそれだとやはり増える一方で……。それに日中になるとどこにもいなくなってしまうため、奴らの活動する暗い夜にしか討伐ができません。スライムとはどのような魔物なのですか?」
「はじめは1体だけだったはずです。それが栄養を蓄えて繁殖能力を有するとボススライムとなり、子スライムを生成します。子スライムは夜行性で、仰る通り非常に獰猛です。常に栄養を求めて貪食します。そして朝になるとボススライムと合体し、栄養を還元するのです」
「なるほど、それで朝になるといなくなるのですね」
「はい。ボススライム自体は昼行性で非常に臆病ですから、日中はどこかにひっそりと隠れているか、あるいは人の気配を敏感に察知して見つからないよう逃げているので、こちらから見つけるのは非常に困難です。知力はそこまで高くはないのですが」
ボススライムも子スライムもとても気配に敏感で、人がスライムを見つけるよりもスライムがこちらを見つける方が早いらしい。そのため子スライムの追跡やボススライムの探索などは不可能なのだという。
「ちなみに一定の子スライムが倒された場合、ボススライムに還元される栄養が少なく空腹状態になるため、普段は臆病なボススライムが朝に襲撃をしてくるのです。復讐ではなく、あくまでも飢餓分の栄養を補うためで、目標に到達すると捕食を止めて逃げていったはずです」
「仰る通りです。おかげで居合わせた自警団のうち何名かは生還しています」
「元々の臆病な気質は変わりません」
「討伐はどのように行うのですか?」
「夜に子スライムをできるだけ討伐します。そして朝、飢餓状態になったボススライムをおびき出して倒します」
スライムの特性を逆手に取った戦い方である。そうでもしないと、こちらからボススライムを発見することは不可能なのだろう。
「自警団の生還した者の話では、ボススライムの攻撃は子スライムよりも多彩で、触手を伸ばしてきたり、体液を刃のようにふるってきたりするそうです」
「気を引き締めて望みます」
「よろしくお願いいたします」
フィンさんが深々を頭を下げた。
フィンさんとの情報交換が終わってから、私たちはカイトにあてがわれた客室に集まっていた。無論今後の作戦会議である。
「明日の夜から作戦を決行する。先ほど話した通り、夜から朝方にかけては子スライムの討伐、そして朝方に本命のボススライムの討伐だ」
「二手に分かれた方が効率が良さそうですね」
エリスさんが提案し、カイトが頷いた。
「今回は汚染水の問題があるから、光属性魔法が使えるアリサとギルはまず二手に分かれてもらう」
そう、何を隠そう汚染水は光属性魔法で浄化できるのだ。
(毒のスライムって予め聞いていたから良かったぁ。アギオスさん、ありがとうございます)
私は奇跡兵団で光属性魔法を教えてくれたアギオスさんに心から感謝した。アギオスさんは1週間の特訓のうち一番スパルタだったが、その分ためになることを沢山教えてくれた。例えば魔物は存在自体が闇に属しており、光属性魔法には闇属性の存在を打ち破る一定の効果があるらしい。
(そして人が闇属性魔法を使うことは忌避されている)
それは宗教観とでも言うべきものだった。楽園に住む我々は男神メタクシーと女神イヒネイカの寵愛を受けて光に属する存在であり、亡者の地に住む魔物は闇に属するものである。光は闇を打ち破るが、闇は光を飲み込む。人が状態異常に弱いのはそのためだという。そして光の存在である我々は魔物の使う闇属性魔法などという卑しく下品な魔法を使うことは許されていないのだとアギオスさんは熱く語っていた。
(光と闇は一対だと思うんだけど)
状態異常の魔法など使えたら便利だと個人的には思うが、宗教対立は避けたかったので反論はしなかった。
とにもかくにも毒に対する対策は万全である。
「それから水属性を使える俺とオークリーも分かれよう。あとはレオンとエリスが分かれることになるな」
「じゃあ俺はギルとレオンと組もう」
オークリーさんがそう言った。
「じゃあ僕はカイトとアリサさん」
エリスさんもそれに同意した。
「えー、俺アリサさんと組みたかったぁ。それに俺雷属性持ってないし、どうすんの?」
レオンさんが駄々をこねる。あっちのチームが使える属性魔法としては、レオンさんが火と風属性、ギルバートさんが光と雷属性、オークリーさんが水と土属性なので、水と雷で倒す場合、レオンさんがあぶれてしまう。というか光属性はサポート役を多く担うのでこのままではギルバートさんの負担が大きい。
「俺が凍らせるから、レオンは風で真っ二つにすれば良い。なにも水と雷に拘る必要はない」
水属性はそこから派生して氷の魔法を使うことができる。
(なるほど、そういう方法もあるんだ)
戦闘においては柔軟な発想が必要なのだと思い知らされる。ちなみにこっちのチームはカイトが火と水と風属性、エリスさんが雷と土属性を持っている。カイトは3属性持ちで大変優秀な人材なのだ。
「きっと後で交代することになる。アリサとはその時に組めるだろう」
カイトがそう嗜めるとレオンさんは大人しくなった。代わりにギルバートさんがカイトに訊ねる。
「後は明日の状況次第でしょうか?」
「そうだな、そうしよう」
作戦会議というよりは簡単な打合せで終了した。
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次回は明日の12時台に投稿予定です。
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