19.旅の仲間
どうしても最初の魔物討伐なので説明回みたいなのが続きます……すみません……
「大分お疲れのご様子ですね」
今回の遠征ではカイトと他4人の近衛兵がついてきていた。いま話しかけてくれたのはエリスさんだ。菖蒲色のロングヘアーは艶々で、容姿もそれに負けないの美貌の持ち主である。
「馬車の移動に慣れていないので……でも大丈夫です。今日1日だけですし、それに騎乗している方が疲れるでしょうから」
馬車は4人乗りである。私は常時馬車に乗せてもらっているが、近衛兵の5人は交代で1人が御者を担当し、もう1人は哨戒役として馬に乗っている。今はちょうどカイトが見張りで騎乗し、もう1人オークリーさんが御者を務めている。オークリーさんは私の中で勝手にのっぽさんと形容していて、こげ茶の短髪とそばかす、純朴で人当たりの良い感じが素敵な男性である。
「馬車に乗り慣れていないというのは、移動手段は何を使っておられたのですか?」
少し堅苦しい言葉遣いをするのはギルバートさん。藍色のボブヘアーに眼鏡がきりっと映える。いかにもクール系という感じで、目元の涼やかな美形だ。
「あんまり上手く説明できないのですが、動力には馬ではなく化石燃料や電気というものを用いて、車やもっと大きい列車というものを動かしていました。馬よりも移動が速いんです。あとは自分で車輪を漕ぐ自転車という乗り物もありました」
乗り心地も追求されて、それらはほとんど揺れないんですと内心で付け加えておいた。
「へぇ、速いってどんくらい速いんですか?」
少し砕けた口調で話すのはお調子者でおしゃべり好きなレオンさんだ。赤い髪をオールバックに決めているが、小柄なせいか立ち居振る舞いのせいかこの中では一番幼く見える。まぁ幼いと言ってもきっと私よりは生きているのだろうが。
この世界の住人は髪色や外見が特徴的なので覚えやすくて大変助かる。特に私は人の顔を覚えるのが苦手なので、同じ制服でも見た目が随分違うと分かりやすくて良い。
(そして何故か全員イケメンなのね)
系統は違えど皆一様に整った顔立ちをしていた。目の保養が増えて嬉しい反面、緊張も凄い。
「ええと、計算があっているか分かりませんし、条件にもよりますけど、車の場合だと王都からイーミ湖まで約2時間半とかですかね。途中休憩を挟んだら約3時間くらいでしょうか」
距離に関しては地理の勉強の時に何となく換算していた。まず幸いなことにこの世界の1時間は元の世界の1時間と体感的には変わらなかった。ちなみに1日は25時間くらいありそうである。距離に関してはメートル法じゃなかったので、王都からイーミ湖まで約62ミリアですと言われてもはじめはまるで検討がつかなかった。1ミリアは何メートルなんだという話である。異世界パワーで通訳と識字ができているなら、距離や通貨の単位も馴染みのものに変換してくれれば良いのに、そういうところは勝手が悪かった。
ただ徒歩で何時間かかるかは地理の先生が教えてくれた。元々徒歩の時速は知っていたので、それが両方の世界で共通だと信じて計算し、メートルを算出したところ、約100kmくらいだった。下道で計算したら2時間半、高速道路で時速100kmなら1時間だ。
「は?3時間!?」
レオンさんが良い反応をしてくれる。他の2人もレオンさんほどではないがぎょっとしていた。
「あちらの世界に魔法はないと伺っておりましたが?」
ギルバートさんが眼鏡をクイっと上げて訊いてくる。
「魔法じゃないです。魔法の代わりに科学というのが発達して、文明を築き上げました。残念なことに私は勉強ができなかったので、それらの知識や技術をこちらの世界で再現することはできません」
情けない話である。車や電気、携帯電話、味噌や醤油さえ、私は作り方を知らない。もっと勉強をしておけば良かったと最近はそればかりを考えている。
「いえ、貴重なお話が聞けて大変勉強になりました」
「それなら疲れて当然ですね。アリサさんの世界では今頃はもうすっかり着いているでしょうから」
ギルバートさんとエリスさんが口々に感想を述べる。
「でも、魔法もとても便利だと思います。だから一長一短ですよ」
「アリサさんはフェアリーアイなのに異世界にいた時には本当に魔法が使えなかったんですか?」
この質問はレオンさんからだ。本当は使えたのでは?と訝しがられているようだ。
「はい。この間まで自分がフェアリーアイだということさえ知りませんでした」
「魔法兵団からの話じゃ、もう随分と魔法を使えるって情報が来てましたけど」
「買い被り過ぎですよ」
「やはりフェアリーアイという天賦の才のなせる業なのでしょう」
ギルバートさんが何か納得したように頷いている。
「失礼な話ですけど、それでよくこの仕事を引き受けましたね。僕たちにとっては有難いことですが、アリサさんにとってはかなり覚悟のいる決断だったのではありませんか?」
エリスさんが心配そうにしていた。
「勿論、怖いです。上手くいくか全く分かりませんし。でも、自分にも何かできることがあるならやってみようって思ったんです。その機会を与えてもらえるなら精一杯やろうって。皆さんを巻き込んでしまって申し訳ないんですけど」
護衛と先兵を任されているこの人たちは、私が魔物の退治に失敗したらきっと身を呈して守ってくれるだろう。もしかしたら私の代わりに命を落としてしまうかもしれない。そう考えると私の独り善がりに連れ回してしまっているようで申し訳ない気持ちになった。
「良いんですよ、僕たちは国を守るのが仕事なんですから。でもアリサさんは違いました。それなのにわざわざ危険を冒してまで引き受けてくださった」
エリスさんがふっと私に笑いかけた。
「あなたは勇気のある方です」
(最近、カイトのおかげでイケメン耐性上がってきたと思ったんだけど全然だったわ。美人の微笑みは反則でしょ!)
私はひたすら奥歯を噛み締めることに集中した。あとはもう美人は3日で慣れるという諺を信じるしかない。
「なんか、アリサさんってサリア様に似てるようで似てなくて、でもやっぱり似てるんですね」
レオンさんが変なことを言い出す。
「どういうことですか、それ?」
今まで似ているしか言われなかったので、似ていない部分があるという話にはとても興味がある。
「んー、サリア様はもっとこう、凛々しいを通り越して口調とか雄々しかったんですよ。勇ましいというか男勝りというか。でもアリサさんは見た目は凄く似ていますけど話し方は丁寧だし、格好も女性らしいし」
格好と言われても基本的に渡されたものを着ているだけなので私の好みは反映されていない。どちらかと言えば私だってパンツ姿でいたいくらいだ。ちなみに今回は戦闘中も動きやすいようマタニティワンピースのようなゆったりとしたもので、アクセントに腰部分に紐が通っている。靴は茶色のブーツで走り回っても脱げる心配はなさそうだし、頑丈そうだ。ただ、ワンピースの布がシルクのような白地で汚れることを全く考慮されていない。
「それで似ていないのかなぁって思ったんですけど、でもやっぱりお人好しなところはそっくりですね」
「お人好しではないですよ。自分のために引き受けたんです」
私はアルトゥリストではない、エゴイストだ。
「レオン、誰に似ているとか似ていないとか、失礼だろう。アリサさんはアリサさんだ」
ギルバートさんが割って入る。何だか新鮮な気持ちだった。サリア様と比較せず私を見てくれようとしてくれるその姿勢が嬉しかった。
「ありがとうございます」
「すみません、悪気はなかったんですけど」
レオンさんが慌てて謝ってきた。
「大丈夫ですよ、慣れてますから」
近衛兵団には紳士で優しい人しか入れないのだろうか。それくらい他人を慮る人たちばかりで、私は温かい気持ちになった。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




