14.フェアリーアイの力
※町の破壊・侵略などのシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
※バトルシーン、多少の流血描写があります。苦手な方はご注意ください。
振り向くと遠くの十字路から土煙が立っている。よく見ると道を挟んだ向かいの角の家が倒壊していた。
「カイト!」
その倒壊した家のすぐ近くにカイトがいた。私は反射的に駆け寄ったが、十字路まで来ると足を止めた。そこにはまだ10体ほどのガーゴイルが旋回していたのだ。しかも倒壊した家の中には一回り大きいガーゴイルが立っていた。他のより大きいということはガーゴイルの親玉だろうか。どうやらその巨体で家に突っ込んだらしい。親玉のガーゴイルの目はギラギラと赤く光っていた。捕食者の目だ。そしてその目線の先にはカイトがいた。
(血が出ている?)
石畳に赤い跡がついていた。どこか怪我をしているのかもしれない。
私は頭が真っ白になっていた。非現実的なことが起き過ぎている。異世界に連れ去られた時のようだが、あの時よりも状況は酷い。
(こんな現実があって良いの?)
建物は壊れ、人々は逃げ走る。轟音、阿鼻叫喚の悲鳴、走る靴音、魔物の雄叫び。私は嫌な興奮の仕方をしている。地に足がついていないようなフワフワとした感覚。まるで夢のようだ。呼吸が苦しい。クラクラする。
(ふざけないで)
そして憤りを感じていた。胸の奥が熱い。こんな情動は初めてだった。
(私に力があるのなら、お願い、助けてサリア様)
私は魔法のイメージをした。先ほど見たありとあらゆる魔法だ。火炎放射のような火柱、雷の一閃、光の矢。他にもかまいたちのような風やガーゴイルと同じくらい固い無数の石礫、高圧洗浄のような鋭い水。それら全ての魔法を優雅に空中旋回しているガーゴイルたちにぶつけたい。
(特に親玉にはあの光の矢を放ってやる)
あれくらい鋭い一閃をくらわせないと腹の虫が収まらない。
私の周りに色とりどりの無数のフェアリーが集まっていた。赤、水色、茶、黄緑、黄、白。きっと属性によってフェアリーの色が違うのだろう。みんな魔法を出そうとしている私に反応している。あとは魔力を注ぐだけだ。
ちょうど全てのガーゴイルが私の視界に入った。
(今だ!)
魔法の名前なんか知らない。でもリリアンさんは魔法のイメージと魔力があれば魔法は発動すると言っていた。だからきっと発動する。
私はフェアリーたちに魔法のイメージと共にありったけの魔力とを渡した。フェアリーたちが反応する。私の魔力とイメージが明確に伝わっているのが分かる。
「行け!!」
私にはその光景がスローモーションで見えた。赤色のフェアリーたちは灼熱の炎の柱を生み出し、水色のフェアリーたちは物凄い水圧の水鉄砲を射出し、茶色のフェアリーたちはガトリングガンのような石礫を飛ばした。黄緑のフェアリーたちは切れ味抜群のかまいたちを繰り出し、黄色のフェアリーたちは煌めく雷を出し、白いフェアリーたちはあの鋭い光の矢を放つ。実際に魔法が当たっているものも狙いが外れているものもあったが、そんなことが気にならないくらい魔法の物量で押し切っていた。まるで花火のような賑やかさで入り乱れる魔法は私の想像より凄まじく、暴走気味だった。もしかしたら魔力を与えすぎたのかもしれない。
ボスガーゴイルには狙い過たず、これは私の想像通りに光の魔法が発動してその胸に吸い込まれていった。強烈な一撃は胸を穿つだけに留まらず、石像にミシミシと罅を入れる。親玉と目が合った。何が起きたのか分かっていない顔をしている。私の方に近づいて来ようと足を出した瞬間、罅が全身に広がって、石像はあっという間に瓦解した。
(やった、倒した)
私はしばらく謎の高揚感に包まれて呆然としていた。
「アリサ!?」
カイトの声ではっと我に返る。
「カイト、大丈夫?」
急いで駆け寄った。見たら目蓋を切っているようで左目が開いていなかった。
「平気だ。瓦礫で切れたらしい。ここの傷は浅くても派手に出血するんだ。だから怪我自体は大したことない」
私はとりあえず持っていたハンカチで傷を押さえた。
「ねぇ、怪我を治す魔法ってないの?」
「光属性魔法には怪我を癒すものがあるが」
「分かった、やってみる」
出血を止めて皮膚を結合させる。見たことのない魔法だが、発動させたいイメージはきちんとある。だからきっとできる。私はハンカチを取ると代わりに右手を翳した。優しく魔力を注ぐ。ちゃんと光属性の白いフェアリーがやってきた。
私がひたすら傷口を治る想像をしていると、本当にその通り出血が止まり、皮膚の奥から癒着が開始し、最後は皮膚表面が蓋をするように閉じていった。傷の治る過程の映像を早回しで見たような感じで、治ったところは跡すら残っていなかった。
「良かった、治ったと思う」
カイトが恐る恐る左目を開ける。綺麗な瞳が私を真っ直ぐに見つめ返していた。
「本当だ、ありがとう」
手で触って確認もしているが、問題ないようだ。
「アリサのおかげで助かったよ」
ありがとうと真正面からお礼を言われる。私は無我夢中だったのでそうやってお礼を言われるとこそばゆい。
「ううん、何か自分でもあんまりよく分かってない」
「それでも助かったよ。正直ボスを1人で相手するのは骨が折れたから。でも」
カイトはここで言葉を切った。少し険しい表情をしている。
「アリサもフェアリーアイだったんだな」
「今日ヴィンセントさんに言われるまで知らなかったわ」
「でもフェアリーは見えていたんだろ?」
「みんなには見えていないようだったから言わなかったの」
(リリアンさんに言ったら変な目で見られたし)
「だから、私にそんな力があるなら使いたいって必死だった」
極度の集中状態にあったことは間違いない。さっきまでは魔法が使えるという確信が自分の中にあった。しかし今同じことをやってみろと言われてもできるか分からない。
「いや良いんだ。悪かった、変なこと言って」
カイトは何だかいつもと様子が違うようだった。
「アリサ様!」
ヴィンセントさんが激戦区だった通りから走ってきた。そのままの勢いで抱きしめられる。
「アリサ様、お怪我はございませんか?」
「だ、大丈夫です」
抱擁のダメージの方がでかかった。ヴィンセントさんは見たところ怪我もなく元気そうだ。
「まさかアリサ様もフェアリーアイだったとは!」
ヴィンセントさんは喜んでいた。
「ええ、自分でも吃驚しています」
しかしこれで魔法を習得していけば、初日のような恐怖は味わわなくて済みそうなので僥倖である
。
「とりあえず、一旦お店に戻りましょうか」
そう言うとヴィンセントさんは来ていた上着を脱いで私の頭から被せた。
「帽子が無くては目立ちますので」
すっかり失念していた。
「もしかしてもう遅いのでは?」
「はい、黒髪のサリア様に似た異世界人がフェアリーアイだったということは恐らく瞬く間に広まるでしょうな」
どうやらまたやらかしてしまったらしい。
「すみません…」
「いえ、非常時ですから。それに今日はアリサ様に救われました。実は地方の襲撃が大分激しく、ちょうどここの守りが手薄だったのです」
「そうだったんですね」
王都の守りが手薄になるなんて、よほど状況が悪いらしい。
話しているうちにお店に着いた。ここまでは被害は及んでいなかったので一安心である。
「俺はこのまま後処理をしてくる。夕方には戻るからそれまでここで待っていてくれ。帰りはちゃんと送るから。じゃあヴィンセント、後は頼む」
せっかくの休日だったのにおちおち休んでもいられないようで可哀想だった。
「気を付けてね」
カイトは振り向かず片手を挙げるだけだった。
(何か素っ気ない?)
非常時だし気のせいかと私は思い直した。
「アリサ様、疲れましたでしょう。良かったらお部屋が空いておりますので夕方まで休んでください」
言われてみると確かに疲れている。
「じゃあお言葉に甘えても良いですか?」
「勿論でございます」
ヴィンセントさんに案内された客室はお城の食客部屋と比較しても遜色のないお部屋だった。もしかしたら一番グレードの高いお部屋なのかもしれない。しかしここまで来て断ることもできなかったので使わせてもらうことにした。
「カイトが迎えに来たらこちらに寄越しますので、それまでどうぞゆっくりなさってください」
「ありがとうございます」
私は真っ先にダブルベッドに大の字になった。肉体的にも精神的にも疲れていた。それから感じたことのない倦怠感もある。もしかしたら派手に魔力を使ったからかもしれない。
(後ろの髪の毛のお団子寝づらいなぁ)
そう思っているうちに私は眠りについていた。
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