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13.王都襲撃

※町の破壊・侵略などのシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

「様子を見てくる!」


 カイトが素早く反応し店を出て行った。ヴィンセントさんは警鐘が鳴らされている方角に耳を澄ましていた。


「どうやら西の方角からの襲撃のようですね」


 ヴィンセントさんも険しい表情だった。


「襲撃?」

「最近魔物の襲撃が多くなってきたんですよ」


 カイトが以前言っていた、この国の外からの襲撃者のことだ。

 ヴィンセントさんが2階に向かう。私もその後を追った。階段を登るとちょうど西向きの窓があった。そこから様子を伺うつもりのようだ。


「何あれ?」


 西の城壁の上空に無数の何かが飛来してきていた。はじめは黒い帯にしか見えていなかったそれらが、物凄い速さで近づいてきて形がはっきりとしてくる。私は現代人にしては珍しく子供の頃から良い視力を保ったままなのだが、その異形の姿に思わず見間違いであってくれと思ってしまった。


「あれはガーゴイルの群れでしょうか。この王都まで飛んでくるとは」

「ガーゴイル…」

「最近地方では頻出する魔物の対応に追われていると聞きます。恐らく手が回らなかったのでしょう」


 王都がこの国の中心部に位置しているというのは以前リリアンさんが教えてくれていた。国の外から来ているなら地方で迎撃していても良さそうなものだが、こうして大量に攻め込まれているということは手が回らず食い止められなかったということなのだろう。およそ30体ほどはいそうだった。


 西の城壁では見張りの兵が魔法で迎え撃っていた。火柱や雷がそこかしこで上がっている。戦いぶりを見るに、空を飛ぶ魔法使いはいないらしい。制空権を取られているので戦い難そうにしていた。


「大丈夫なんでしょうか?」


 元の世界と同じであればガーゴイルは彫刻の妖魔だ。悪魔や猛禽類に似た見た目で、背中に生えている翼で器用に飛びながら、手に持っている武器か鋭利な爪で攻撃をしてくる。ゲームなどでは門の隣に置いてある彫刻が扉を開けようとすると動き出して、見たらガーゴイルだったというのはよくあるが、このように襲撃してくることもあるらしい。


「敵の数が思いの外多いですね。増援がどれだけ早く駆け付けるかによって町の被害が変わってきます」


 ヴィンセントさんがソワソワしている。この年でも戦えるのだろうか。現場に行きたいけど私を置いていくこともできないと顔に書いてあった。


「ヴィンセントさん、まだ第一線を退いていないのであれば加勢に行った方が良いのではないですか?」

「しかしアリサ様を置いては」

「大丈夫ですよ。ここはまだ距離がありますし、1階のテーブル下にでも隠れてじっとしています」


 地震の時と同じ対策で良いのかは分からないが、みんなが走って逃げてしまうと増援の道を塞いでしまうのではないかと思ったのだ。


「…では、危ないと思ったらすぐにお逃げ下さい。逃げる時はなるべく奴らに姿を見られないよう物陰に隠れながら移動するように」

「分かりました」


 老人とは思えない素早さでヴィンセントさんも店を出ていった。きっと現役バリバリなのだろう。元近衛兵団団長なのできっと1人で何人分もの戦力になるに違いない。


 私はしばらく窓から様子を伺うことにした。あれからガーゴイルは何体か仕留められたようだが、死体が落下してくるので、現場の建物は大きく損壊しているようだった。外からは悲鳴や逃げ惑う音が聞こえてくる。

 光の矢のような魔法が1体のガーゴイルに向かって鋭く飛んで行った。頭を打ちぬかれたそれはそのまま落下していく。そのまま下の建物にぶつかると思ったが、風の魔法か何かで落下の衝撃を和らげたのか着地が緩やかだった。どうやらなるべく建物に被害を出さないようにはしているらしいが、全てにその対応ができるわけではないのだろう。


(私はどうすれば良いのだろう?)


 正直パニック一歩手前である。前の世界では有難いことにこういう事件や戦争には巻き込まれたことがなかった。ましてや敵は空想上の存在だと思っていたものだ。何が適切な行動なのか判断がつかない。


(このまま隠れていた方が良い?それとも外に出て避難誘導とか何か手伝った方が良いのかな?)


 ヴィンセントさんにはああ言ったが、自分だけ黙ってここにいるというのも気が引けていた。


(でも私が出て行っても、できること何もないよね)


 足手まといになるのが目に見えている。それならやっぱりここで黙っていた方が邪魔にならない気もする。


 その時、近くにあった尖塔がゆっくりと傾き始めた。敵の攻撃が当たり、塔の中ほどに亀裂が入ったらしい。誰かが風の魔法で塔の落下を抑えている。しかし塔は徐々に確実に傾いている。何だか風魔法の威力が弱弱しく、あと少しで魔法の効果が切れてしまいそうだった。


「おかーさーん!!」


 その塔の落下地点で泣きじゃくっている女の子が見えた。私以外誰も女の子に気が付いていないようだ。風魔法はまだ塔を支えていたものの、じりじりと降下していた。このままではあの女の子が下敷きになってしまう。

 私は考える前に飛び出していた。

 人が逃げる方向とは反対にひた走る。途中何度か肩がぶつかったけど謝る余裕なんてない。


(確かこっちの通りだったはず…いた!)


 女の子は泣くことに夢中で、頭上に塔の影ができていることにも気が付いていない。


(間に合え、間に合え!)


 私が女の子を持ち上げるのと、塔にかかっていた風魔法が消えるのは同時だった。パラパラと小さな破片が降ってくる。上を向いている余裕なんてなかった。私は女の子を抱えて前方に大きく転がった。

 その瞬間、後ろで塔が落下する凄まじい音が聞こえた。


(間一髪?)


 振り向くと尖塔の頭が道に横たわっていた。地面にめり込んでいる。まさに九死に一生だった。


「ナターシャ!」

「おかーさん!」


 女の子は私の手からするっと離れ、お母さんと呼んだ女性の方に走っていった。


「ありがとうございます、ありがとうございます!」


 お母さんは私を見てペコペコとお辞儀を繰り返していた。私が助けたところをちょうど目撃していたらしい。


「このご恩は一生忘れません!サリア様!」


 気付いたらいつの間にか麦わら帽子はどこかにいっていた。走っている時か転がった時にでも飛んで行ってしまったのだろう。

 私はもう訂正する時間さえ惜しかった。


「どういたしまして、必ず生きてまた会いましょう」


 そう言って微笑んだ。お母さんは最後に一礼をすると女の子を抱えて逃げて行った。


(お店に戻ろうか)


 帽子がない以上、変に外をうろついてしまってはまた色々と問題になる可能性があった。


 しかしその時。


『ドカーン!!!!』

 

 大きな破壊音が後ろの方から聞こえてきた。

次回は明日の12:20投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。

※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。


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