135.起死回生の一手
※バトルシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
「「「「「何!?」」」」」
皆が驚くのを尻目に、私は雪原を駆け出していた。今は説明する時間さえ惜しい。
「待て、アリサ!」
カイトはどうせ私を追ってくるのだから、待つ必要などどこにもない。案の定彼は皆にアイスドラゴンさんたちを足止めしておくよう伝えて私を追って来た。
「待てって、ちゃんと説明しろ!」
私は途中で手頃な枝を見つけたので、魔法で綺麗に裁断して箒の柄に見立てた。そこでちょうどカイトに捕まった。
「アリサ!!」
「説明はあと!乗って!」
珍しく有無を言わさぬ私に気圧されたのか、カイトは無言で従った。私は急いで黒いフェアリーがいる場所に飛んで行く。
目的地に到着すると魔法で雪原を掘り返した。そこには予想通り私のリュックサックが埋まっていた。ついでにカイトのリュックサックの発掘にも成功する。
「何でいま荷物を?というかどうやって見つけた?」
「ちょっと待って、今取り出すから」
私はリュックサックの奥の方にしまってあった瓶を取り出した。中の液体はとろりと赤黒く、妖しい雰囲気を漂わせている。埋まっていても黒いフェアリーたちを呼んでいたのだから、その威力には期待したいところだ。
「何だそれは?」
「即死の毒薬」
「…何でそんなもの持っている」
「前話したでしょ?『メドゥーサの首を刎ねた際、右側の血管から流れ出た血には死者を蘇生される効果があり、左側の血管から流れ出た血には即死させる効果がある』。どうしようもなくなったら使おうと思って、左側の血管から取れた血は取っておいたのよ」
そこまで話したらカイトは頭を抱えてしまった。
「これずっと持っていたのか?」
「うん」
「許可のない毒物所持は違法だって知らなかった?」
「え、そうなの?」
「君のいた世界では一般市民の鞄の中に劇物が入っているのが日常だったのか?」
「そう言われてみれば法律で取り締まられていたけど…」
しかし今はそんなことを悠長に話している場合ではない。
「始末書でも報告書でも何でも書くわよ。罰金だって払うし、独房に入ったって良いわ。今はそんなことを言っている場合じゃないでしょ」
「それは」
「これを使うか、光の極大魔法もしくは極小魔法を使う。どんな手を使ってでもあの黒いドラゴンをやっつけないと私たち死んじゃうのよ!私まだこんなところで死にたくないし、皆にも死んでほしくない!」
私は真剣な眼差しでカイトを見る。彼は逡巡していたものの、すぐに覚悟が決まったようで私を見返した。その目にはもう迷いは無かった。
「分かった。これをどうするつもりだった?」
「口の中に放り込みたいんだけど、私遠投苦手なの、距離飛ばないし変な方向に行っちゃう」
カイトは私の手から毒薬を取った。
「俺は遠投、君は飛行制御。ドラゴンブレスを誘発させてその口の中に放り込む。それで終わりだ」
「うん」
「さっきお守りに魔力は込めたか?」
「大丈夫」
そこまで聞くとカイトは少し乱暴に私の唇を奪った。
「絶対に生きて帰る」
私はその言葉に力強く頷いた。
カイトが前、私は後ろに乗って飛行を開始した。先ほどの雄叫びでまた吹雪を呼ばれたのか視界が悪い。ホワイトアウトしていて、距離もあるためどこに黒いドラゴンがいるかも分からない状況だった。
「アミナフォトス―光の防御― ドラゴンがどこにいるか分かる?」
「さっきまであっち側にいたことは分かるが、流石に視界が悪すぎる」
この視界ではきっと相手にも私たちが見えていない。それを差し引いても吹雪かせた方があのドラゴンにとっては戦いを有利に進められるということだ。そもそも並みの人では近づくことさえできないだろう。
その時前方から突風が吹き荒れた。魔法のかかった風なので光の防御魔法が弾く。敵の攻撃だった。視界を確保するために放ったようで少し先の前方にその姿が見える。相手も私たちを捕捉したようでまた口を開いていた。
(ここからじゃ流石に遠いな)
私は距離を詰めながらも確実にブレスを回避する。黒いドラゴンはブレスじゃ仕留められていないことを確認すると、パワフルな翼を羽ばたかせて重たそうな巨体を持ち上げる。そのまま私たちの方に飛行してくると思ったらどんどんと加速して突っ込んできた。
「うわぁ!」
先日も受けた体当たりだ。私は寸でのところで避けるが、ドラゴンの身体が風を切るその風圧のようなものを感じた。まるで飛行機である。当たったらバードストライクのように木端微塵になりそうだった。
その後も至近距離で防戦が続いた。敵は私たちを一飲みにしようと咬みついてきたり、尻尾で叩きつけようとしたり、翼を使った風魔法で攻撃を仕掛けてきた。どれも何とか避けたが、ドラゴンブレスは使ってこなかった。そもそもブレス攻撃は中長距離攻撃だ。これほど近ければ撃って来ないだろう。誘発するには距離を開けるしかないが、距離を取りたくても執拗に追い回されてそれができなかった。
「雪原スレスレに低空飛行して!」
カイトからの指示だ。言われた通りに飛行する。私たちを追って来たドラゴンも雪原近くを飛び始めると彼は魔法を唱えた。
「スプロークステ!―押さえ付けろ―」
かなりの魔力が込められた渾身の一撃だった。黒いドラゴンは急な上からの風圧にバランスを崩して雪原に激突した。カイトの意図を組んだ私もすかさず魔法を放つ。
「シングラティシーフォトス!―光の拘束―」
カイトの攻撃で隙が生じていたので、簡単に拘束することができた。そのまま距離を開けてドラゴンの前方をユラユラと飛行する。敵は口を開けた。
(今だ!)
口の中で黒い球体が生成され、それが満ちると放出された。私は前方に突き進みながらそれを紙一重のところで避ける。まさに死と隣り合わせだった。そのブレスが終わった瞬間、私たちはドラゴンの口の前に躍り出た。カイトが大きく振り被って瓶を投げる。それは狙い過たず口の中に吸い込まれていった。
グゴギャァアアアアアアアア!!!!
「やったの!?」
「離れて!」
カイトの言葉に我に返った私は急いで急上昇する。黒いドラゴンは苦しそうにのたうち回って周囲のものを見境なく壊していた。確かにあれに巻き込まれていたらひとたまりもなかっただろう。
やがて動きが止まると、ドラゴンはその大きな巨体をどうっと地面に投げ出した。
「た、倒した?」
「ああ、死んだな」
私は喜びのあまり後ろからカイトを抱き締めた。カイトも身を捩って私を受け止める。吹雪は去っていて雲間から太陽が顔を出していた。恐らくアイスドラゴンさんたちも元に戻っているだろう。
しばらくそうやって2人で抱き合っていたが、皆が遠くで手を降っているのが見えたので合流することにした。
「やったな!」
「やりましたね!」
「よくやりました!」
「ありがとうございます!」
カイトと私は皆に労われた。逆にプレムさん、ラフールさん、ミトゥンさんは意気消沈している。
「本当に済まなかった」
「立つ瀬がない」
「穴があったら入りたいよ」
「仕方がない、相手が悪かっただけだ」
カイトがそう言って3人を励ましていた。
「治癒魔法かけますよ。 シレゴフェラペヴォ―まとめて治癒せよ―」
私は自分含めてこの場の全員に治癒魔法を施した。皆打ち身や擦り傷、切り傷など身体のあちこちを怪我している。吹雪の中戦っていたので凍傷にもなっていた。早く帰って温まりたいところである。
皆興奮冷めやらぬと言った感じで、無事に生きていることを喜び合っていた。ちょうどそんな折、私の目の前をこれ見よがしに飛んで行く金色の光があった。
「あっ!」
すっかり忘れていた。私たちはここに雪山の主を探しに来ていたのだった。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




