134.茫然自失
※バトルシーンがあります。苦手な方はご注意ください。
目が覚めると雪洞の天井が見えた。どっちの雪洞か分からなかったけれど、多分拠点の方に戻ってきているはずだ。人の気配が全くないと思ったら、カイトが薪をくべているだけで他の皆はいなかった。記憶が混濁する。
(再開したのも、エリスさんの怪我も全部夢だったの?)
しかし私はいま寝袋の中に寝かされていた。よく見たら雪洞内にリュックサックが4つ置いてある。やはり夢ではなさそうだ。
「カイト、ごめんなさい、また迷惑をかけてしまったわ」
彼ははハッして振り返った。私が起きたのを見て安堵している。
「良かった。やっと起きた」
「何日寝ていたの?」
「3日3晩と少し。早朝から寝込んで今は朝だから、予定より数時間遅れていて心配してたんだ。起きられる?」
「ごめんね、大丈夫」
カイトはコップにぬるま湯を入れて持ってきてくれた。私は前回の反省を活かしてはじめはゆっくりと嚥下する。喉の突っかかりが取れるとゴクゴクと飲んだ。2杯はぬるま湯で、最後の1杯は白湯でもらった。
「ねぇ、本当にごめんなさい。色々身体のこと、気を遣ってもらったみたいで」
私の体は多少の乾きや空腹感はあるものの、凍傷や低体温症にはなっていない。寝袋の中にはカイロ代わりの温石が2つ入っている。1つはカイトのだろうか。随分とぬくぬくされてもらったようだ。多分他にも色々と身体のメンテナンスをやってもらっていたに違いない。
「仕方ないよ。あの治癒魔法分の魔力を考えていなかったんだろう?」
「うん」
「この3日間でエリスも復調したし、俺たちも英気を養えた。だから気にしなくて良い。それよりも無事に起きてくれて良かった」
「ごめんね、ありがとう」
カイトは励ますように私の頭をポンポンと軽く叩いた。
「気になっていたんだけど、皆はどこに行ったの?」
「さっきアイスドラゴンの奪還に向かった」
「アイスドラゴンの奪還?」
「ああ、結局あれから皆で話し合ったが、まず俺たちだけじゃ国に帰ることはできないと判断した。帰るためにはアイスドラゴンたちの機動力が不可欠だ。それでアリサが起きる予定の日に合わせて行動を起こすことにしたんだ」
「待って、帰るの?」
カイトがこれは決定事項だと言わんばかりに1つ頷いた。
「今日は国を出てから14日目だ。予定日数を過ぎての探索はどうしたって危険を伴ってしまう。魔物で多少食料を増やせたとしても限界があるしな。それに皆で考えたけど、あの黒いドラゴンを倒す手立てが見つからなかった。あのドラゴンを躱しながら主の探索なんてことも、とてもじゃないができない」
「…光の極大魔法か極小魔法は?」
「また寝込むつもりか?」
「でも」
一旦国に帰って態勢を立て直したとしても鹿茸が取れる時期は限られているので、戻ってきた時には既に時期が過ぎているかもしれない。そうなってしまえば他の材料も苦労をして集めたのに水の泡になってしまう。
ごねる私にカイトは諭すように言った。
「アリサ、混沌討伐の策は何もこれだけじゃないんだ。こだわってここで死んだら元も子もないだろう」
彼がそう言うのも分かる。国王陛下は既に策を2つ考えているからだ。
(でも、導通りの方法だったら確実に混沌を倒せるはずでしょう?)
そう口に出そうとした時だった。急に何か外で騒ぎ立てる音が聞こえてきた。
「見てくる」
カイトが入口に近づいた瞬間、物凄い破壊音と共に衝撃が伝わってきて、気が付いたら私は木っ端のように吹っ飛ばされていた。何が起きたのか分からない。目を瞑り、なす術なくゴロゴロと地面を転がる。自衛のために頭は両腕で抱えていた。身体のあちこちを色んなものにぶつけたが、お守りと寝袋のおかげで大分軽減されていると思う。カイトは大丈夫だろうか。
身体が止まると私は目を開けた。拠点の方を見たらまっさらになっていた。どうやら雪洞ごと吹き飛ばされたらしい。残骸があちこちに散らばっていた。そして雪原にはアイスドラゴンさん含め、近衛兵の皆が転がっていた。更に奥にはあの黒いドラゴンが悠然と立っている。
(アイスドラゴンさんたちの奪還に失敗した?)
いや、もし失敗していたらアイスドラゴンさんたちは攻撃されていないだろう。ということは奪還に成功したものの、気付かれて逆襲に遭った、そんなところか。
皆身じろぎをしているので死んではいないようだ。しかし安心したのも束の間、黒いドラゴンが私たちの息の根を止めようとブレスを吐く態勢になった。
(それはまずい!)
私はすぐさま寝袋から飛び出して魔法を放った。
「バリストラパゴス!―氷の極太矢―」
ドラゴンの下顎めがけて同時に5本放った。貫くことはできなかったものの、何とかそれで口を閉じることには成功した。その間に別の魔法を使う。
「ゴーラムパゴス!―氷のゴーレム―」
黒いドラゴンに引けを取らないほど巨大な氷のゴーレムを生成した。巨大多頭蛇の時のように特撮スケールの取っ組み合いの始まりである。
「動けない方いらっしゃいますか?」
私はこの間に安否確認をすることにした。皆立ち上がって手を降っている。大丈夫そうだ。急いでカイトのところに集まった。
「今のうちに魔法石に魔力を込めて」
本当に命がいくつあっても足りない。
「待ってください、氷のゴーレムがこちらに投げ飛ばされてきますよ!」
エリスさんが血相を変えて指を指している。ここで俊敏に動いたのはアイスドラゴンさんたちだった。3人は手近な人を2人ずつ後ろ脚に引っ掛けて超高速低空飛行で雪原を矢のごとく飛行する。
ドゴーーーーーーン!!!!
すぐ後ろから大地を揺らす轟音が鳴った。万事休すのところでアイスドラゴンさんたちの飛行速度が勝り、私たちはゴーレムの下敷きにならずに済んでいた。
「あ、ありがとうございます」
「礼には及ばん。我らの方が迷惑をかけた」
私のフードをがっしり掴んでいるのはプレムさんだった。
黒いドラゴンは投げ飛ばした氷のゴーレムに馬乗りになって攻撃をしている。うちの子大丈夫かしらと不安になってくる猛攻だ。
「アリサさんのゴーレム負けそうだよ?」
プレムさんのもう一方の脚に捕まっているのはレオンさんだった。
「うちの子応援してあげて」
「負けるな、アリサさんのゴーレム!」
その声援が届いたのか、下から巴投げのように敵を蹴り上げて投げ飛ばしていた。
「おお!すげー!」
レオンさんは子供のように目を輝かせて喜んでいる。
「あそこを迂回してとにかく逃げよう!」
カイトが全員に指示を出す。遮二無二逃げていたのでいつの間にか川の以北の方に渡って来てしまっていた。国に帰るなら南側に行かなければならないので、特撮現場を大きく迂回する必要がある。
しかし逃げる算段を立てた時には既に遅かった。先ほどまで頑張っていたはずの氷のゴーレムは喉元をドラゴンに噛み砕かれパリンと魔法が解けてしまったのだ。
「ああ!うちの子が!」「ああ!アリサさんのゴーレムが!」
超大作がものの数十秒で壊されてしまった。
ギャォオオオオオオオオオオ!!!!
そしてまたつんざく咆哮が聞こえたかと思うと、私たちは後ろ脚から離されていた。
「リスミスティス―緩衝となれ― 大丈夫か?」
「ありがとう。もしかして」
「ああ、また操られたな」
ゴーレムの犠牲に悲しんでいる場合ではなかった。またしてもアイスドラゴンさんたちは敵に操られ、私たちに牙を向き始めている。
「きついぜ」
正直もう何をどうすれば良いのか分からない。今ここで退避することはできるかもしれないが 、アイスドラゴンさんたちがいなければ帰ることはできない。しかし奪還してもこうして襲われて奪い返されるなら、やはり黒いドラゴンを屠らなければならないだろう。けれど氷のゴーレムさえ負けた今、私たちに一体何ができる?
レオンさんは少し諦めた顔をしていた。周りを見たら皆も似たような表情をしている。カイトは悔しそうだ。悔しいということは負けを認めているということだろうか。
(え、嘘、このまま全滅するの?)
現実を受け入れられなかった。私は呆然と険しく聳える雪山を見つめる。それから麓の白い雪原に目を移した。
(ここが死地だと言うの?)
景色は雄大で、残酷なほどに美しい。その美しさに鳥肌が立つ。
その時、何かにたかっている黒いフェアリーが目に留まった。先日皆を捜索中も見かけた場所である。たかっていると思ったのは暴きの魔法をかけても何もなかったからだ。あそこの下に何か危ないものでも埋まっているのかと思って気持ち悪いのでそのままにしておいた。
「ああああああああ!!」
突然頭の中を電流が走った。そして何でこんな大事なことを今まで忘れていたのだろうと自分を叱咤する。
「何があった!?」
私の奇声に皆が吃驚してこっちを見ている。何なら操られているはずのアイスドラゴンさんたちまでこっちをじっと見つめていた。ちょっと恥ずかしい。
「カイト!あの黒いドラゴン倒せるかもしれない!」
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




