132.訪い
※怪我の描写があります。苦手な方はご注意ください。
夕飯を食べ終わると急激に眠たくなってきた。なんだかんだ言って今日の捜索で魔力は2割くらいになっていた。
「良いよ、ほら、おいで」
何かよく分からないけどカイトが腕を広げている。
「何?」
「まだ衣類が乾いていないからさっきみたいに温まりながら寝ると良い」
「でも、見張りが」
「アリサの魔力量が2割なのはまずい。今日は俺が遅い時間に寝るから今はゆっくり休んで」
「…本当に起こしてくれる?」
「起こす起こす。アリサは寝られる時に寝た方が良いよ」
起床時間に関してやや不安が残るがお言葉に甘えて寝ることにした。
「そっち向いて足伸ばした方が楽なんじゃない?」
「こう?」
さっきは火と対面していたが、これだと1段下がっているところに腰掛けていて座る姿勢しか取れないので、火を横側にして足を伸ばして座ることにした。カイトは完全にリクライニングシート代わりになっている。
「この態勢、辛くない?」
「全然、何ならもっと傾けられるけど」
「いや、直角のままで結構です」
「これだとアリサが寝辛いんじゃないか?」
「んーん、眠たいから寝れる」
その言葉通り、私はあっという間に寝ついていた。いつもの就寝時間より大分早い、夕方頃のことだった。
「ん」
「ごめん、起きちゃったか」
カイトが抜け出そうとしていたらしい。
「交代時間は?」
「まだ全然先だよ」
「本当?」
「疑り深いな」
カイトは懐中時計を見せてくれた。確かにあれから3時間ほどしか経っていない。
「ローブいつの間にかけてくれたの?」
「アリサが熟睡している時に。何回か抜け出したけど全然起きなかったんだ」
どうやらかなり深く寝入っていたようだった。何だか目覚めた時のスッキリ感が違う。やはりカイトの傍では安心感が違うらしい。
「3時間しか寝ていないのに凄く寝た気分だわ」
「それは良かった」
「今は何をしようとしていたの?」
「雪洞が大分溶けてきたから固めようと思って」
「手伝うよ」
「いいよ、ぐっすり寝たと言っても3時間じゃ大して魔力は回復していないだろう」
それでもいつもの3時間よりは回復している気がした。
「じゃあ修繕終わったら見張り交代しましょう」
「まだ時間あるって、さっき見せただろう?」
「目が冴えて眠れないの。それに私のことにかかりきりでカイトはずっと休めてないじゃない」
私はカイトの頬を撫でた。疲れの色が見える。
「ごめんなさい」
「アリサは何も悪くないよ。君の回復が最優先事項なだけだ」
「でもカイトが倒れてしまったら私も共倒れしてしまうわ」
「…分かった。少し休ませてもらう。雪洞の修繕が終わったらアリサは乾いた衣類を身に着けて」
「うん」
その言葉通り、カイトが雪洞のメンテナンスを終えると私は急いで衣類を着込んだ。
「じゃあすまないがお言葉に甘えて寝かせてもらう。6時間後に起こして。それから襲撃含めとにかく何か異変があったら1人で対処しようとせずに必ず起こしてくれ」
そう言うとカイトは独りで横になろうとした。
「カイト、ちょっとこっち来て」
「どうした?」
手招きをするとカイトは訝し気に近づいてくる。隣に腰掛けるように手で合図をした。ますます不思議そうな顔をしていたので、私は自分の太ももを叩いた。
「そっちで独りで寝るより、こっちの火に近いところで寝た方が温かいわ。それに枕があった方がきっと寝やすい」
流石にカイトの椅子になるには体躯が違いすぎた。代わりに膝枕くらいならできると思ったのだ。
「良いのか?」
「さっきのお礼」
「じゃ、お言葉に甘えて」
そう言うとカイトは私の方を向いて横になった。
「確かに温かいし寝やすいな」
「昨日もこうすれば良かったわね」
私は手袋を取って彼の頭を優しく撫でる。
「ああ、心地良い」
カイトはすぐに寝息を立て始めた。やはり相当疲れていたらしい。
(寝顔、可愛いなぁ)
先ほど触った頬は冷たかった。今は寝起きで私の手先が比較的温かいので、温めるようにそっと頬に手を置く。絹のように滑らかな肌だ。あまりに綺麗なので少し嫉妬してしまう。
外の物音は一切何も聞こえない。雪洞の中もカイトの寝息と時折火の爆ぜる音以外しんと静まり返っていた。
(そう言えばこの拠点まだ一度も襲撃されていないわね)
もしかしたらあのドラゴンの縄張りが近いからかもしれない。
しばらくそうして静寂の中でただ火を見つめていたが、カイトが寝入ってから30分後くらいに異変が起きた。外から入口の扉代わりの氷塊をノックする音が聞こえたのだ。
「カ、カイト、起きて」
慌てて揺すり起こすとカイトは一気に覚醒した。すぐに扉の音に気が付くと、念のため私には動かないように合図をしてから氷塊を避けた。
「悪いな、お楽しみ中だったか?」
「馬鹿を言うな。いや、馬鹿を言う余力が残っているということか?」
「オークリーさん!」
私は喜びのあまりオークリーさんに飛びついた。ローブが吃驚するほど冷えている。
「アリサさん、ご無事で何よりです」
「オークリーさんこそ、お怪我はありませんか?」
「自分は大丈夫です」
「良かった」
「全員揃っているか?」
「ああ、全員いる」
その答えに私は安堵する。ずっと胸のあたりにあった重石がすっと取れて呼吸が楽になった気がする。嬉しさのあまり涙が滲んできてしまった。
「ただ、エリスが怪我をしていて動かせないから呼びに来たんだ」
「えっ」
感動の再開も束の間、オークリーさんが不穏な発言をした。
「ギルも一緒なんだろう?」
「いや、それが、できればアリサさんに治療してもらいたいと本人が言っていてな」
私の顔がさっと強張る。ギルバートさんにできなくて私にできることと言えば身体修復しか思いつかない。
「すぐに行こう」
カイトも険しい表情をしていた。
私たちは歩いてオークリーさんについて行った。箒の柄は流石に3人乗りできる長さがないし、魔力の温存の目的もあった。昼間と同じように即席のかんじきを着けてしばらく森の中を歩く。場所は最後に探していた森の方だった。吹雪は既に止んでいる。
「カイト、先に謝っておく」
「どうした?」
「ドラゴンたちから見つからないように隠れ場所に認識阻害魔法をかけた」
カイトも私も息を呑んだ。しかしそれほど切羽詰まった状況だったということが分かる。近衛兵の中で闇属性魔法を使えるのはギルバートさんだけだから、彼にかけてもらったということだろう。
「…分かった。その話は後で詳しく聞く」
「ああ」
この場合、一体誰が異端審問にかけられるというのだろう?ギルバートさん?でもきっと周りの皆もそれを諾ったに違いない。皆捕まってしまうのだろうか。私はあの暗い牢獄を思い出して嫌な気持ちになった。
「アリサ、大丈夫だよ。悪いようにはならないはずだ」
「うん」
カイトが慮って声をかけてくれる。どうやら不安な気持ちが顔に出ていたらしい。
アイスドラゴンさんたちに襲撃されたところを通り過ぎて少し行った場所に黒いフェアリーが溜まっている場所が見えてきた。あの時は視界不良でこのフェアリーたちが見えていなかった。もう少し時間があれば見つけることができていたかもしれない。
「夕方前に近くまで来ていただろう」
「気付いていたのか」
「ああ、助けに行こうか迷ったんだが、この場所をドラゴンたちに勘付かれるわけにも行かなくてな」
「だろうな、仕方ないさ」
「すまない。すぐになんとかやり過ごしていたようで安心したよ。アリサさんも申し訳なかった」
「いえ、カイトが助けてくれたので」
しかしどうしようもないこととは言え、少しでも生存確認ができていれば過呼吸にならずに済んだのになぁと思わずにはいられなかった。
黒いフェアリーたちの前に来た。オークリーさんが声をかけると魔法が解けて雪洞が露わになる。中は拠点と同じ造りだ。
「エリス以外は無事そうだな」
カイトもひとまず全員の生存確認が取れて安心しているようだった。私はレオンさん、ギルバートさんを順に抱き締める。
「生きていて良かった」
「アリサさんも」
「ご無事で何よりです」
カイトは横たわっているエリスさんに歩み寄った。
「容態は?」
「凍傷だよ、アイスドラゴンのブレスを右半身にもろにくらったんだ」
起きていたらしいエリスさんは自ら答えた。熱があるのかもしれない。汗をかいているし目が潤んでもいる。
「見るぞ」
カイトが寝袋を開ける。考えてみたら皆荷物は回収できているようで、リュックサックが4つ置いてあった。私とカイトの分だけ未だ行方不明である。
身に着けていた防寒具や衣類をそっと脱がしていくと患部が露わになった。
「…右半身にもろにくらった割にはマシじゃないか」
カイトの横から私も覗いた。右の手足の指が全て壊死して真っ黒になっている。その他の部分は正常だった。ショッキングな光景だが、カイトの言う通り想像よりはマシだと思えた。
「お守りが効いたんだよ。じゃないと今頃死んでいるか、もっと広範囲で壊死していた」
「なるほど」
「他の治せる部分は何とか治したのですが、壊死だけはどうすることも出来ませんでした」
ギルバートさんが補足する。
エリスさんが私を見つめてきた。縋りつくような視線だった。
「アリサさん、何とかならないですか?」
次回は明日の12時台に投稿予定です。
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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




