130.捜索
※やや残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。
気が付いたら真っ白な雪の中で横たわっていた。冷たいという感覚はない。ただ身体が全く動かなかった。金縛りにあったかのように声も出せない。目の前には処刑台があった。ただ刑具はギロチンでも縄でもない、巨大な黒いドラゴンだ。
最初に処刑台に乗ったのはレオンさんで、そのまま頭をパクリと食べられてしまった。
(んんーーーー!!)
猿轡を噛まされているわけでも手足を縛られているわけでもないのに、身体が全然言うことを聞いてくれない。次はギルバートさんが食べられてしまった。
(動いて!動いてよ!!)
その次はオークリーさん。皆綺麗に首から上が無くなっていって、処刑台の上には身体が無造作に積み重なっていく。
(嫌っ!!止めてっ!!)
エリスさんも上がった途端に食べられてしまった。全く腹立たしくて泣けてくる。皆が何をしたというのだろう?そして何で私の身体は動かないのだろう?そういうしているうちにカイトも処刑台に上がってしまった。
(駄目っ!カイト!駄目!!)
パクリ、ごくん。
(うああああああああ!!!!)
「んっ、ううっ!んー!」
「アリサ!アリサ!!」
自分の声で覚醒したと同時に身体を激しく揺すられていた。どうやら悪夢を見て魘されていたらしい。見張りで起きていたカイトが吃驚している。
「ごめん、ありがとう」
「酷い魘され方だった。怖い夢でも見た?」
「うん。…皆があのドラゴンに食べられる夢。昔からたまにあるの。こうやって嫌な夢で魘されて自分の大声で起きること。治らなくて」
精神的不安が原因だということは分かっている。昔から極度のストレスが溜まるとこうなるのだ。大抵の夢は知らない男性に追いかけ回されて捕まったところで起きる。たまに包丁で切られたり刺されたりして起きることもある。今日のように心配事がストレートに夢に反映されることもある。私の父もよく魘されていたから遺伝なのだと思う。ちなみに父は知らない女性に追いかけ回される夢をよく見ると言っていた。全く遺伝とは恐ろしい。
「不安なんだな」
カイトは私の目元を優しく指で拭った。何かと思えばいつの間にか泣いていたようだ。そう言えば夢の中でも泣いていた気がする。
「起きるにはまだ早いけど、寝付けそう?」
「いま寝たらまた嫌な夢を見そう。火に当たりながら白湯を飲んでも良い?」
「分かった」
白湯は自分で作ろうとしたのだが、手早くカイトが用意してくれた。小さな焚火の前で並んで腰かけると、彼が慰めるように私の背を撫でる。パチパチと爆ぜる火の粉をぼんやりと見つめながら白湯を飲み下す。温かくて心地良い。肩に凭れると背を撫でていた手は私の肩に回った。彼の腕の中は本当に安心する。
結局あれから私たちは昼下がりに食料調達のために魔物を狩りに行き、日の入り前には拠点に帰ってきた。その頃には対岸の吹雪も止んでいたけれど、流石に暗くなってから探しに行くことはできなかった。
カイトが魔物を捌き、それを焼いて食べた。今回は兎の魔物の肉だった。荷物がないのでとうとう調味料なしである。塩は早めにどうにかしないと味もそうだが命に関わる。荷物が見つかれば良いのだが。
「流石に味気ないな」
「まぁでも空腹は最高のスパイスだよ」
本当は不安が勝って食欲も無かったけれど、無理にでも食べた。そうでもしないとこの雪山を乗り切ることはできそうになかったのだ。余った肉は天然の冷凍庫に眠らせた。明日の私たちの朝食か、もし万が一夜に皆が帰ってきたなら食べさせてあげられる。
夜は1人ずつ交代して寝ることにした。流石に外で見張りにつくことはできないので、雪洞の中で見張り兼火の番である。ついでに雪洞のメンテナンスも行なった。今は乾かした衣類や防寒具、ローブまで全て着込んでようやく1人で寝られる温かさだったが、それだと外気温がどれだけ低くとも雪洞の内側から溶けていってしまうので、時折魔法で凍らせる必要があった。
睡眠時間はきっかり半分になるように見張りの時間帯を分けた。カイトは少し渋ったが私が譲らなかったのだ。そして多分私が先に寝てしまうとカイトは私を遅く起こす気がしたので、夜の早い時間はカイトを先に寝かせて、私は遅い時間から寝かせてもらった。そして早朝の今に至る。
淡い期待を抱いていたけれど、やっぱり皆帰って来なかった。そういう気持ちが夢に出てきたのだと思う。
カイトが身じろぎしたので私は目を開けた。
「ごめん、寝ていると思ったから運びたかったんだが」
「ん、ごめん、うとうとしていた。ありがとう、落ち着いたから寝られそう」
「うん、お休み」
すっかり冷めてしまった白湯を飲み干すと私はまた横になる。今度は何も見ないまま朝を迎えた。
翌朝、準備が整うと私たちは対岸を見渡していた。
「狼煙も上がってないね」
「あそこはドラゴンの縄張りだから上げない方が良いと判断しているのかもしれない」
私は雪に埋もれて狼煙も上げられない状況を考えていたが、カイトは皆がどこかに隠れ潜んでいると思っているようだった。
「魔力は何割くらいある?」
「3割くらいかな。カイトは?」
「6‐7割。やっぱりアリサは全然回復できていないな」
カイトの眉尻が下がる。睡眠の質も量も確保できなかった。
「でも今日は何としてでも探しに行かないと」
雪山遭難の場合1‐2日が目安で、長くても3日。それまでに救助しないと生存は厳しい。
「ああ、分かっている。なるべく魔力の消費を抑えよう。ドラゴンにも見つからないように」
実は先ほどプレムさん、ラフールさん、ミトゥンさんが哨戒なのか上空を飛んでいるのを見かけていた。操られているとはいえ無事な姿が確認出来て嬉しい。しかし見つかるときっと戦闘になるのでそれは避けたかった。
折れた箒の柄に乗って川を渡った。昨日吹雪いていたのが嘘のように晴れている。これはこれで寒かったりする。冬は曇りが一番温かいのだ。川を越えるとまた威圧感があったが気取られてはいないようだった。
「まずは昨日アイスドラゴンに振り落とされた地点で何か手がかりがないか調べに行こう」
「分かった」
そこは何の遮蔽物もない雪原だったが、見たところドラゴンさんたちは近くにいないので早速歩いて見て回ることにした。しかし、吹雪のせいで荷物や痕跡は綺麗さっぱり見えなくなっている。足跡はいま私たちがつけているものしかない。しかも新雪でそこそこの積雪だから、ズボズボと膝くらいまで雪に埋まって歩きにくいことこの上なかった。魔力を使わなければ体力を消費するし、体力を温存しようとすれば魔力を失う。全く雪山は散々である。
「アリサ、一旦あの針葉樹林のところに行こう」
「どうしたの?」
「こんなことやっていたら体力がもたない。即席のかんじきを作ろう」
「かんじき」
カイトの口からかんじきなんて言葉が出てくるとは思わなかった。ちぐはぐな感じがしてちょっと面白い。まぁ異世界翻訳でそう聞こえているというだけだから本当はもっと違う言い方をしているのだろう。
カイトは手頃な木を見つけると魔法で裁断して薄い板状にした。短いスキー板のようだ。要は体重を分散すれば良いのだからこれで十分なのか。
「足出して」
言われた通りにすると、カイトは腰にぶら下げていたホルスターの中から紐を取り出して私のブーツに板を巻きつけていく。実は救急セットや小刀などの緊急時用の小物は荷物とは別に身に着けていた。紐は何かと便利なので小物セットの中に入っている。両足につけてもらって、カイトも自分のブーツに装着した。これで雪の上を歩けるようになった。
少し雪原を歩き回ったが手がかりになるようなものは何もなかった。代わりに黒いフェアリーがたかっている場所を発見した。暴きの魔法をかけても何も出てこない。気持ち悪かったのでそこはそのまま放置することにした。
「新雪のところ全部除雪しようか?」
「それは最終手段かな。あっちの森の中を探そう」
「どうして最終手段なの?」
もし埋もれているなら早く掘り出さないと助からないと思ったのだ。カイトはそんな私を見て少し迷いながらも言葉を紡いだ。
「君が考えるように、もし本当に雪崩に巻き込まれて埋まっているのだとしたら1日なんてもたない。1時間でもギリギリだ」
胃に重石が乗ったように愕然とした。しかし考えてみればその通りだ。雪崩はまず窒息の危険性が高い。そしてその次は凍死。本当に埋まって身動きが取れなかったのならもう掘り出しても遅い。それは救助ではなく遺体回収になるから最終手段ということなのだろう。
「俺はあいつらが雪の下に埋まっているとは思っていないよ。この場には4人いた。仮に全員が雪崩に巻き込まれていたとしても1人が這い出せたら全員を救出できたはずだ。そしてその後俺なら左右にある森のうち手近な方の森の中に避難すると思う。だからあっちの森の中を探そう」
「うん、分かった」
カイトは全員の生存を諦めてはいない。それは私を安心させるけれど、同時に嫌な想像が脳裏にこびりついて離れない。
(4人全員が冷たい雪の下に埋まって動けず、もがき苦しんだ挙句に冷たく凍り付いていく…)
私はそれを振り払うように頭を振った。
次回は明日の12時台に投稿予定です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。
※WEB小説独特の改行に悪戦苦闘中です。試行錯誤しながら編集しております。ご容赦くださいませ。




